のべるばーまとめ
ベランダから空を見上げて、菊司は首を傾げた。
――やっぱり流星群って、そんな簡単に見られるものじゃないかあ。
毎年この時期になるとしし座流星群が発生するらしい。そう知ったのはたまたまネットニュースを見るともなしに見ていた時だった。
プラネタリウムで偽物を見たことはあるけれど、本物の流星群は見たことが無い。明日は休みだし、多少夜更かししても大丈夫だ。早速いそいそと外に出て星空を仰いだものの、それらしいものは見当たらなかった。
方角や気象条件などを改めて確認してみるが、このあたり一帯は「ばっちり見えます!」のエリアに入っている。だがさらに調べてみると、月が明るすぎるとなかなか発見しにくい上に、一時間のうちに数個見られれば上等と書かれていた。
「なにやってんだ?」
からからと窓を開けて、同居している幼馴染がベランダに出てくる。
「流星群見えないかなあと思って」
「流星群?」
「今日が見ごろなんだって」
ふうん、と幼馴染は菊司の隣に並び、ベランダの柵に肘をつく。
「どのあたりで見えるんだ」
「方角は合ってるみたいなんだけど、そんなにぽんぽん流れてくるものじゃないんだって。根気強く待たなきゃ」
揃ってじっと目を凝らしてみたけれど、十分、二十分と過ぎても星は流れてこなかった。
流れ星なんて一瞬だろうし、見逃している可能性も大いにある。せめて一回だけでも見てみたい、と思ったところで、菊司は小さくくしゃみをした。
「やめだ、やめ」と幼馴染が面倒くさそうにため息をつく。「星見るより先に俺もテメエも風邪引きそうだ」
「えー、もうちょっとだけ頑張りたい。冬用のコートとか羽織れば温かいから大丈夫だと思うし。そうだ、ココアとか珈琲とか入れるのはどう?」
「『どう?』じゃねえよ。せっかく風呂入ったってのに体冷えんだろうが。菊もさっさと入れよ」
「うーん……分かった。じゃあ、あと十分だけ」
お願い、と顔の前で手を合わせると、彼は再びため息をついて菊司の横に戻ってきた。スマホを操作したかと思えば、律義にタイマーをセットしている。時間になれば意地でも部屋に連れ戻されるだろう。
なんとしても制限時間内に流星群を見なければ。星空に視線を移したところで、「なあ」と問いかけられた。
「なんでそんなに流れ星見てえんだよ」
「なんでって……うーん。なんでだろう」
「分かってねえのかよ」
「特に理由はないけど、見てみたい時ってあるでしょ? 今そんな感じ」
「なんだそりゃ」
呆れた様子ながら、彼はくくっと喉の奥で笑う。
流れ星は一向に見えない。十分はあっという間に過ぎて、無情にもスマホのアラームが鳴った。
夜の風は冷たく、いくら厚着をしたとしてもこれ以上は幼馴染の指摘通り風邪をひきかねない。体調を崩しては仕事にも影響が出るし、諦めも肝心だ。
ぐいっと腕を引かれたのは、部屋に引っ込みかけた時だった。
「うわっ、なに?」
「一個流れてったぞ」
あの辺、と幼馴染が空を指さす。慌ててベランダに引き返したけれど、既に流星の軌跡はなく、先ほどまで眺めていたのと変わらない絵面しか菊司の目には映らない。
「うわー、見逃した。ずっと待ってたのに!」
「残念だったな。俺は見たぞ」
幼馴染は自慢げに胸を張る。その頬を軽く抓って、菊司は「ずるいよ!」と涙声で訴えた。
「僕だって見たかったよ。タイマーなんてかけるから!」
「俺のせいにすんな。おら、決めたことは守れ。部屋戻るぞ」
「えー、やだー! お願い、あと十分だけ! せめて一個でも見たい!」
さっさと戻る幼馴染に縋ってみたものの、願いは聞き届けられなかった。近所迷惑になるから騒ぐな、と額を指ではじかれ、菊司はしょんぼりと肩を落とした。
――やっぱり流星群って、そんな簡単に見られるものじゃないかあ。
毎年この時期になるとしし座流星群が発生するらしい。そう知ったのはたまたまネットニュースを見るともなしに見ていた時だった。
プラネタリウムで偽物を見たことはあるけれど、本物の流星群は見たことが無い。明日は休みだし、多少夜更かししても大丈夫だ。早速いそいそと外に出て星空を仰いだものの、それらしいものは見当たらなかった。
方角や気象条件などを改めて確認してみるが、このあたり一帯は「ばっちり見えます!」のエリアに入っている。だがさらに調べてみると、月が明るすぎるとなかなか発見しにくい上に、一時間のうちに数個見られれば上等と書かれていた。
「なにやってんだ?」
からからと窓を開けて、同居している幼馴染がベランダに出てくる。
「流星群見えないかなあと思って」
「流星群?」
「今日が見ごろなんだって」
ふうん、と幼馴染は菊司の隣に並び、ベランダの柵に肘をつく。
「どのあたりで見えるんだ」
「方角は合ってるみたいなんだけど、そんなにぽんぽん流れてくるものじゃないんだって。根気強く待たなきゃ」
揃ってじっと目を凝らしてみたけれど、十分、二十分と過ぎても星は流れてこなかった。
流れ星なんて一瞬だろうし、見逃している可能性も大いにある。せめて一回だけでも見てみたい、と思ったところで、菊司は小さくくしゃみをした。
「やめだ、やめ」と幼馴染が面倒くさそうにため息をつく。「星見るより先に俺もテメエも風邪引きそうだ」
「えー、もうちょっとだけ頑張りたい。冬用のコートとか羽織れば温かいから大丈夫だと思うし。そうだ、ココアとか珈琲とか入れるのはどう?」
「『どう?』じゃねえよ。せっかく風呂入ったってのに体冷えんだろうが。菊もさっさと入れよ」
「うーん……分かった。じゃあ、あと十分だけ」
お願い、と顔の前で手を合わせると、彼は再びため息をついて菊司の横に戻ってきた。スマホを操作したかと思えば、律義にタイマーをセットしている。時間になれば意地でも部屋に連れ戻されるだろう。
なんとしても制限時間内に流星群を見なければ。星空に視線を移したところで、「なあ」と問いかけられた。
「なんでそんなに流れ星見てえんだよ」
「なんでって……うーん。なんでだろう」
「分かってねえのかよ」
「特に理由はないけど、見てみたい時ってあるでしょ? 今そんな感じ」
「なんだそりゃ」
呆れた様子ながら、彼はくくっと喉の奥で笑う。
流れ星は一向に見えない。十分はあっという間に過ぎて、無情にもスマホのアラームが鳴った。
夜の風は冷たく、いくら厚着をしたとしてもこれ以上は幼馴染の指摘通り風邪をひきかねない。体調を崩しては仕事にも影響が出るし、諦めも肝心だ。
ぐいっと腕を引かれたのは、部屋に引っ込みかけた時だった。
「うわっ、なに?」
「一個流れてったぞ」
あの辺、と幼馴染が空を指さす。慌ててベランダに引き返したけれど、既に流星の軌跡はなく、先ほどまで眺めていたのと変わらない絵面しか菊司の目には映らない。
「うわー、見逃した。ずっと待ってたのに!」
「残念だったな。俺は見たぞ」
幼馴染は自慢げに胸を張る。その頬を軽く抓って、菊司は「ずるいよ!」と涙声で訴えた。
「僕だって見たかったよ。タイマーなんてかけるから!」
「俺のせいにすんな。おら、決めたことは守れ。部屋戻るぞ」
「えー、やだー! お願い、あと十分だけ! せめて一個でも見たい!」
さっさと戻る幼馴染に縋ってみたものの、願いは聞き届けられなかった。近所迷惑になるから騒ぐな、と額を指ではじかれ、菊司はしょんぼりと肩を落とした。