覆水不返、然れども
朝、そこには惨状が広がっていた。疲れ切ってそのまま布団にダイブしたから、財布から溢れ出た小銭は散らかったままそこにある。どうしようか。そっとしておきたい。
ため息をついて布団から起き上がって、俺はふと制服のポケットの中のレシートを思い出した。取り出してみればそれは見事にクシャクシャで、元通りに広げるのも骨が折れる作業だった。少しの格闘の末、ようやくレシートだと認識できるくらいには広がったが、かつてのピシッとした紙の質感はすっかり失われてしまった。
でも、これでいいんだろう。形も姿も変わってしまったけれど、かつての名残―――走り書きだけは変わらない。
レシートを勉強机の引き出しに入れようとして、ぴたりと手を止める。少しの間、じっとそれを見つめて、やはり元通り財布の中に戻すことに決めた。思い出に縋るわけじゃない。ただ、このレシートがあったということ。俺が、それを大切にしていたこと。それは変わらない。
ちらりと床に飛び散った小銭を見て、ため息をつく。財布に戻したくとも、まずは片付けが先だ。朝の貴重な時間をこの作業に割いてしまうのはいただけないが、仕方ない。かがんで足下の百円玉、五百円玉を拾い上げていると、腹から空腹を訴える音がした。ごめんな、俺のせいで朝ご飯は抜きだ。不満を訴える腹部をさすりながら、すべての小銭をかき集め終えて、俺は財布にジュネスのレシートを戻した。
ちらりと時計を確認する。もうそろそろ家を出ないと遅刻ギリギリになってしまうだろう。
……でも。コーヒーくらいは、飲んでいこうか。
ゆっくりと立ち上がって、俺は階下の台所へと向かった。
ため息をついて布団から起き上がって、俺はふと制服のポケットの中のレシートを思い出した。取り出してみればそれは見事にクシャクシャで、元通りに広げるのも骨が折れる作業だった。少しの格闘の末、ようやくレシートだと認識できるくらいには広がったが、かつてのピシッとした紙の質感はすっかり失われてしまった。
でも、これでいいんだろう。形も姿も変わってしまったけれど、かつての名残―――走り書きだけは変わらない。
レシートを勉強机の引き出しに入れようとして、ぴたりと手を止める。少しの間、じっとそれを見つめて、やはり元通り財布の中に戻すことに決めた。思い出に縋るわけじゃない。ただ、このレシートがあったということ。俺が、それを大切にしていたこと。それは変わらない。
ちらりと床に飛び散った小銭を見て、ため息をつく。財布に戻したくとも、まずは片付けが先だ。朝の貴重な時間をこの作業に割いてしまうのはいただけないが、仕方ない。かがんで足下の百円玉、五百円玉を拾い上げていると、腹から空腹を訴える音がした。ごめんな、俺のせいで朝ご飯は抜きだ。不満を訴える腹部をさすりながら、すべての小銭をかき集め終えて、俺は財布にジュネスのレシートを戻した。
ちらりと時計を確認する。もうそろそろ家を出ないと遅刻ギリギリになってしまうだろう。
……でも。コーヒーくらいは、飲んでいこうか。
ゆっくりと立ち上がって、俺は階下の台所へと向かった。
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