名取と見る夢
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トンっと軽く肩がぶつかる
「ぁ!名取君、ごめんねっ」
「………」
軽い感じで謝ると、そのまますれ違って行ってしまった
(九条……だっけ?)
クラスの奴らに大概興味はないが、今の人物の名前くらいは知ってる
いつもクラスの中心にいるような女子だ
九条 いのり
男女問わず彼女の周りには人が集まり
賑やか、いや、ちょっとうるさい…
いわゆるリア充って奴………
とりあえず学校にきて
とりあえず勉強して……
そんな俺とは正反対だな、と少し自虐的に思う
ーーーーーーー
(………友達、多いんだな)
クラスに戻り、席につくと
また九条を中心にクラスの何人かが集まり、くっちゃべっている
正直騒がしい…
「いのりは髪染めないの〜?」
「えー、うち親が厳しくてさ〜…
それにうち神社だから、娘が髪染めてたらヤバくない?」
「たしかにー!ウケる」
………何がウケるか俺にはさっぱりわからない
が、つい会話を聞いている自分に気づく
(………声がデカいから、聞こえてくるんだよなぁ)
それに、少し気になることがあった
さっき九条とぶつかったときだ
妙な違和感があったからだ……
(…………あれは、なんだったんだ)
教室に教師が入ってきて
うるさい集団は散っていった
ーーーーーーーーー
朝、憂鬱な学校までの道のり
俺の前にクラスの女子何人かが
集団で歩いていた
中心にいるのはやっぱり九条だ
周りの女子と違って黒髪だが
毛先を少し巻いたようにふわふわさせている
制服を少し崩して着てる感じも…
(…………リア充…😒)
そんな集団を追い越し
一人歩く
「ねぇねぇ、名取君だよ」
「ホントだ〜 ねぇ誰か声かけてよ」
後ろから声がする…
(小声のつもりか?思いっきり聞こえてるが………)
「声かけづらいじゃん〜
カッコいいんだけどさぁ…」
…女子ってマジでうざい
そう改めて思いったときだった
「名取君!おはよう!」
後ろから思いっきり声がして
思わず振り返ってしまった……
九条が笑顔でこっちを見ていた
「……ぁ、おはよ」
勢いに押され、挨拶まで返してしまった……
自分でも驚く
すぐに前を向いてまた歩きだした
後ろから何だかキャーキャー声がする…
「ヤバい!カッコいい!」
「いのり、すごい!」
「名取君がおはようって言った!」
(うるせー…俺だって挨拶ぐらいできるっつーの…)
やっぱり女子と関わるとろくなことがない…
そう思った朝だった
ーーーーーー
(進路指導、うぜー…)
放課後、億劫だった進路指導を終えて
教室にもどる
もう校内には人はあまり残ってない
(進路ね………)
とりあえず進学と言ったら、教師は喜んで色んな大学の名をあげていた
俺の成績なら選択肢は色々あるらしい
どこにも興味はないが………
教室の前まで来たとき
急に人の声がした
「もう付きまとわないで!
何でわたしなの?!!」
(………?ケンカか?)
まさか人がいると思ってなかったから、すでに入り口の所まで来てしまった
見ると、そこにいたのは九条だった
「……もう、しんどいよ………」
男と痴話喧嘩かと思ったが…
教室にいたのは
九条だけだった
ただ、九条の影だけが
大きく伸びて…………
(影…?いや、あれは…………!)
異常に大きく伸びた九条の影に
大きく不気味な口があった………
《お前の闇は美味いなぁ……》
(影がしゃべった…!)
確信した俺は思わず教室に駆け込む
「九条!下がれっ!」
ひどく驚いた顔で彼女が俺を見ていた
《お前も見えるのか…》
影が再びしゃべったかと思うと
しゅるしゅると小さくなって…
消えてしまった…
残ったのは九条と俺の影だけだった
「九条……
今のって…」
どう考えても、妖だ……
九条は黙ってる
「今の、妖だろ?
お前も見えるのか…?」
思いきって聞いてみた
「え………?
あやかし?何それ…
名取君、そういうの信じてる感じ?
ヤバくない?2次元?アニヲタ?」
「は………?」
彼女はうつむいたまま続ける
「わたし、そういうの…
信じてないから
てか、ムリ
あやかし、とか言っちゃって…
キモい」
…………予想外というか
予想を上回る反応に… 驚いた
「九条……
お前口悪いな…」
誰かが九条は顔も中身も可愛いとか言ってたけど
今の九条は… 可愛くない
「お前も見てたし、話してただろ?
あの影と!いきなりで…驚いたかもしれないけど…
俺も、その… 見えるんだ…」
「だからやめてよ!
わたし、そんなんじゃないから!
見えるとか見えないとか… マジでうざい」
う、うざい……
俺が知ってた九条は
いかにもリア充で、友だちに囲まれてて、教師からも評価が高くて…
いつもニコニコしてるクラスの可愛い女子って感じだったが…
それなのに…
この口の悪さは何だ…?
「じゃぁ……
あの影がずっとお前にくっついてていいんだな?」
「……人のこと、お前とかいう男
マジむり…」
「はぁ?!
じゃぁホントに見えないんだな?!
担任の肩に乗ってる手だけのやつとか
九条は見えないんだな?!」
「…………っ……」
彼女の反応をみると
やはり見えているようだった
認めたくない気持ちも、何となくわかるが…
事態が事態だ
「……見える人間、意外といるんだよ…信じられないと思うけど」
俺だって最近会合に行くまでわからなかったが……
「どうでもいい………
とにかくわたしはそういうのじゃないから!
そんなの友達にバレたら……
やっていけない…」
口が悪いことには驚いたが
彼女の気持ちが少しわかった気がする
周りにバレたくない、か………
「わたしは、名取君みたいにぼっちになるのは耐えられない…」
「はぁぁ?!」
誰がぼっちだ!………ぃゃ、ぼっちか
「わたしが今の地位にいるために
どれだけ努力してるかわかる?
それなのに変なのが見えるとか言って
霊感少女ぶったメンヘラだと思われたら嫌なの…!」
「………地位って何だよ
リア充お得意のランク付けか?
人のことぼっち呼ばわりして…
そんなにリア充でいたいのかよ?」
次第にイライラしている自分がいた
「そんなにその地位とやらにしがみついていたいんだな」
妖のことをしていたはずなのに……
何だか違う話になってきてしまった
「………リア充でいたいよ
リア充にしがみついていたいの…!
名取君にはわかんないよ
わたしは1人は嫌なの………」
うつむく彼女は、ひどく悲しそうだった……
「……じゃぁ、いいよ
俺も言い過ぎた、ごめん…」
「………」
「…でも、あの影は放っておけない
九条が見えなくてもいい
それでも…
もう、しんどいって言ってたのを聞いた以上……
九条のこと、放っておけない」
やっと彼女が顔をあげた
その顔は、今にも泣きそうで
………ドキリとした
「……俺にやらせてくれないか?
九条が妖のこと、信じなくてもいい
俺のこと、キモいとか思っていい
それでもいいから、少しの時間俺につきあってほしい
影を、九条から剥がしてみせる」
自信、というか…
どうにかしてあげたい、という気持ちが強くなって… 自分でも不思議な感覚だった
九条は… 静かにうなづいた
ーーーーーー
二人で屋上に向かう
場所的にそこがいいと思ったからだ
「急ごう… 日が落ちたらできなくなる
それに、屋上も使えなく…
九条?」
急に彼女が立ち止まる
「どうした?急がないと…」
「………ちょっと…怖い」
うつむいたまま、彼女が言う
「わたし、怖いよ…名取君」
「九条…」
「あの影ね… 2年になってすぐくらいに… 憑いてきたの…
初めは、もっと小さかった…
でも… だんだん大きくなって、しゃべるようになって……
お前の闇は美味いな…って」
ぽろぽろと涙を流す九条…
「怖かった……
でも、誰にも言えなくて…」
クラスで明るく振る舞っていた彼女の
意外な姿だった
思わず、彼女に手を伸ばしていた
頬伝う涙を、指でぬぐう
「俺も… 最近まで同じように見える人間がいるなんて、知らなかったんだ
誰にも理解されないと思ってた
でも、今は違う
九条にも、そうなって欲しい」
潤む瞳で俺を見てくれている九条は、また静かにうなづいた
「行こう…」
彼女の手をつかみ、屋上へ上がる
きっと、大丈夫
そんな想いが、俺の中にあった
ーーーーー
屋上に陣を書き 準備を整える
「これで……大丈夫なはず」
「はずって…」
「まぁ俺もこの手の妖は初めてだから」
「え?!💦自信あるんじゃないの?
剥がすって言ってたけど、退治してくれるってことだよね??」
「俺たちは祓うって言うけどね、まぁ一緒かな」
九条は不安げだ
「ホントに大丈夫?てかこの絵?みたいなの何?
テキトーなの?」
「陣だよ!テキトーじゃないし
てか、さっきから思ってたけど…
九条て案外口悪いな😒
教室でのあれは猫かぶってんの?」
率直に意見を言ってみる
「うるさいなー…
みんなにウケがいいようにやってんの」
「うわっ…
可愛くねー…😓」
「ほっといて!
名取君みたいに近づきにくくて、クラスの和を乱すようなぼっちもどうかと思うけど?」
一瞬ムカッときたが……
正論なような気がして、言い返せなかった
(……和を乱す、か……)
「……名取君、もう少し、うまくやればいいのに…
誰とでも仲良くは、ムリだと思うけどさ…」
うまくやれば、という言葉
誰かさんにも言われたなと思うと
自分でも笑ってしまう…
「よし、できた
ここ、立って」
夕陽でのびた九条の影が陣に入るように立ち位置を指示する
さっきまで悪態ついていたのに
今の九条はひどく不安げだ
「……大丈夫だよ」
自然と……
彼女の手をつかんでいた
細いけど柔らかい、冷たい手だった
彼女は少し微笑んで
小さくうなづいた
「出でませ、出でませ…」
俺が文言を唱え始めると九条の影が大きくなり、俺たちを見下ろすまで大きくなった
俺は文言を唱え続けた
「………ねぇ……わたしのカゲ…」
九条の声が聞こえる
「あなたは知ってたんでしょ?
わたしが、自分を偽ってるって…
そんな闇を抱えてるって…
だからわたしに憑いた
そんな闇が美味しいって……
でもね、わたし…
自分を偽らなくてもいい場所を見つけた気がするの
みんなの前では無理でも…
そこなら本当の自分でいられる
そんな場所を見つけたの
だから………だから、カゲ……」
俺が文言を唱え終わったころには
俺たち二人の影だけが
屋上にのびていた
ーーーーー
「名取君、今日はありがとう!」
日が暮れた道を二人で歩く
「あ、あぁ……
何とかなってよかったよ」
「何とかってさ、ホントは自信なかったんじゃん?」
「はー?それよりお前の口の悪さに驚いたよ
クラスの奴らに言うぞ」
「どーぞーw
言ったところでみんな信じないし
リア充のわたしと、ぼっちの名取君
みんな、どっちの言うこと信じると思う?」
「うわっ…!自分で自分のことリア充とかいうわけ?
ひくわー…」
九条のふっきれた様子に安心しつつも、口の悪さに若干ひく…
「だってホントにリア充だもーん♪
そのためにわたしがいかに努力してるかわかる〜?
インスタにあげるやつも、つぶやく言葉も… 全部そのためのもの
みんなにイイね!て言われるのが生きがいなの
でも必死さが出ちゃダメ
あとあからさまな自慢になってもダメ
ナチュラルじゃないと」
「………へぇ〜〜…」
リア充はリア充なりに大変なんだな、と思う…
「…中学入ってすぐくらいにね、髪型変えたの
そしたら、周りの友だちが可愛いねって言ってくれたの…」
ぽつり、ぽつりと九条が話始めた
「可愛いねって言われて、単純に嬉しかった…
それでもっと可愛くなりたいと思って雑誌買って真似したりして
その雑誌も、ホントは学校に持っていっちゃダメだったけど、教室で見てると友だちが集まってくれた
そのうち制服とか、ちょっと崩して着たりして…」
ふと見た彼女の横顔は、どこか寂しげだった…
「中2のときね、1こ上の先輩にコクられたの…
嬉しかった…
別にその先輩が好きだったわけじゃないのに
そのあと、友だちからも、コクられたの?いいなぁって言われて
ちやほやされたかったんだろうね、わたし……
それから、ずっとリア充にしがみついてる」
彼女は自嘲気味に笑っていた
「……疲れないのか?
その… 自分を偽ってて…」
俺は、それが嫌だから1人でいる
だからぼっちやってるんだ…
「うーん…
でも、何だかんだでやっぱりちやほやされるのは嬉しいかな
快感?ていうか
あと不満は裏アカでつぶやいてストレス発散してる」
「はぁ?何だよそれ…… こわっ」
「友だち多いとさぁ、変なことつぶやけないんだよね〜」
「そこまでして… 人気者でいたいわけ?」
自分でも、少しトゲのある言い方になってしまったと思った
でも、言わずにはいられなかった
「………嫌われたくない、だけかな」
彼女が小さくつぶやいた
リア充のやることなんて、俺には理解できないと思っていたけど
みんな同じなのかもしれない
嫌われたくないから
1人でいる
嫌われたくないから
無理してでもみんなといる
きっと、そうなのかもしれない……
「なぁ…
さっき屋上で言ってた、自分を偽らなくてもいい場所って…?」
俺の言葉に、彼女は足をとめた
まっすぐ俺を見る…………
「え?何それ?
そんなこと言ってないし」
「はぁ?確かに聞いたぞ」
「聞き間違いじゃない?」
そういうと、彼女はまた歩きだす
その足取りは軽やかだ
影がとれたせいだろうか?
いや、たぶん違う
俺は、少しでも彼女の役にたてたのだろうか…
彼女の後ろをゆっくり歩く
空に星が2つ、輝いていた…
ーーーー
翌朝
いつもと変わらない
憂鬱な学校までの道のり
騒がしい集団をいくつも追い越し
1人歩く
そして、またひとつ女子の集団を追い越したときだった……
「周一君!おはよう!」
そこそこデカい声がして、思わず足が止まった
ゆっくり振り返る…
九条がにこやかに立っていた
きらきらリア充バージョンだ…
(↑勝手に命名した)
「ぉ…ぉはょ…」
どうして振り返ってしまったのか…
自分で自分の行為を悔やむ
再び前を向いて歩きだしたが
もう遅かった…
「え?!何で名前?」
「名取君と仲良くなったの?!」
「ズルいー!まさか付き合い始めたとか言わないよねっ?!」
(だから聞こえてるっての…😒)
九条がキャーキャー騒ぐ奴らに何て返したのかはわからない
ただ、俺はみんなが知らない九条を知っている
九条も俺が妖が見えることを知っている
ただそれだけで…
今日の朝はいつもと違うように思えた
教室では
いつものようにみんなの中にいる九条
ぼっちの俺
それでも教室にいることが
前より苦痛ではなくなった気がする
ーーーーー
「周一君…」
廊下を1人歩いていると
後ろから声がした
俺のことを名前で呼ぶ奴なんて
校内に1人しかいない…
「九条…
お前なんで名前で…」
「あのね…!」
急に名前で呼ばれて困る、と抗議したかったが
俺の話を遮るように彼女が話始めた
「あのね、周一君……
その……」
うつむいて、何だか言いづらそうだ…
「な、どうした……?」
予想していなかった彼女の様子に
こちらも少し戸惑う
「その…あの…
これ!!」
彼女が自分の左手を俺にさしだした
「………さっき変なのに手首掴まれて…
そしたらこれ、手首に変なアザが付いて…
……とれないの😓」
「?!?!?!😨」
確かに… 九条の手首には青黒い、何かに捕まれた跡のようなものが付いていた…
「友だちに何となく聞いてみたんだけど… 何もないって言うの
周一君なら見えるかな?と思って…
周一君、見える?これって妖ってやつ??」
「………お前なぁーー!💦」
何も変わらないはずだった
つまらない学校生活が
少しずつ、変わっていった
〜fin〜
「ぁ!名取君、ごめんねっ」
「………」
軽い感じで謝ると、そのまますれ違って行ってしまった
(九条……だっけ?)
クラスの奴らに大概興味はないが、今の人物の名前くらいは知ってる
いつもクラスの中心にいるような女子だ
九条 いのり
男女問わず彼女の周りには人が集まり
賑やか、いや、ちょっとうるさい…
いわゆるリア充って奴………
とりあえず学校にきて
とりあえず勉強して……
そんな俺とは正反対だな、と少し自虐的に思う
ーーーーーーー
(………友達、多いんだな)
クラスに戻り、席につくと
また九条を中心にクラスの何人かが集まり、くっちゃべっている
正直騒がしい…
「いのりは髪染めないの〜?」
「えー、うち親が厳しくてさ〜…
それにうち神社だから、娘が髪染めてたらヤバくない?」
「たしかにー!ウケる」
………何がウケるか俺にはさっぱりわからない
が、つい会話を聞いている自分に気づく
(………声がデカいから、聞こえてくるんだよなぁ)
それに、少し気になることがあった
さっき九条とぶつかったときだ
妙な違和感があったからだ……
(…………あれは、なんだったんだ)
教室に教師が入ってきて
うるさい集団は散っていった
ーーーーーーーーー
朝、憂鬱な学校までの道のり
俺の前にクラスの女子何人かが
集団で歩いていた
中心にいるのはやっぱり九条だ
周りの女子と違って黒髪だが
毛先を少し巻いたようにふわふわさせている
制服を少し崩して着てる感じも…
(…………リア充…😒)
そんな集団を追い越し
一人歩く
「ねぇねぇ、名取君だよ」
「ホントだ〜 ねぇ誰か声かけてよ」
後ろから声がする…
(小声のつもりか?思いっきり聞こえてるが………)
「声かけづらいじゃん〜
カッコいいんだけどさぁ…」
…女子ってマジでうざい
そう改めて思いったときだった
「名取君!おはよう!」
後ろから思いっきり声がして
思わず振り返ってしまった……
九条が笑顔でこっちを見ていた
「……ぁ、おはよ」
勢いに押され、挨拶まで返してしまった……
自分でも驚く
すぐに前を向いてまた歩きだした
後ろから何だかキャーキャー声がする…
「ヤバい!カッコいい!」
「いのり、すごい!」
「名取君がおはようって言った!」
(うるせー…俺だって挨拶ぐらいできるっつーの…)
やっぱり女子と関わるとろくなことがない…
そう思った朝だった
ーーーーーー
(進路指導、うぜー…)
放課後、億劫だった進路指導を終えて
教室にもどる
もう校内には人はあまり残ってない
(進路ね………)
とりあえず進学と言ったら、教師は喜んで色んな大学の名をあげていた
俺の成績なら選択肢は色々あるらしい
どこにも興味はないが………
教室の前まで来たとき
急に人の声がした
「もう付きまとわないで!
何でわたしなの?!!」
(………?ケンカか?)
まさか人がいると思ってなかったから、すでに入り口の所まで来てしまった
見ると、そこにいたのは九条だった
「……もう、しんどいよ………」
男と痴話喧嘩かと思ったが…
教室にいたのは
九条だけだった
ただ、九条の影だけが
大きく伸びて…………
(影…?いや、あれは…………!)
異常に大きく伸びた九条の影に
大きく不気味な口があった………
《お前の闇は美味いなぁ……》
(影がしゃべった…!)
確信した俺は思わず教室に駆け込む
「九条!下がれっ!」
ひどく驚いた顔で彼女が俺を見ていた
《お前も見えるのか…》
影が再びしゃべったかと思うと
しゅるしゅると小さくなって…
消えてしまった…
残ったのは九条と俺の影だけだった
「九条……
今のって…」
どう考えても、妖だ……
九条は黙ってる
「今の、妖だろ?
お前も見えるのか…?」
思いきって聞いてみた
「え………?
あやかし?何それ…
名取君、そういうの信じてる感じ?
ヤバくない?2次元?アニヲタ?」
「は………?」
彼女はうつむいたまま続ける
「わたし、そういうの…
信じてないから
てか、ムリ
あやかし、とか言っちゃって…
キモい」
…………予想外というか
予想を上回る反応に… 驚いた
「九条……
お前口悪いな…」
誰かが九条は顔も中身も可愛いとか言ってたけど
今の九条は… 可愛くない
「お前も見てたし、話してただろ?
あの影と!いきなりで…驚いたかもしれないけど…
俺も、その… 見えるんだ…」
「だからやめてよ!
わたし、そんなんじゃないから!
見えるとか見えないとか… マジでうざい」
う、うざい……
俺が知ってた九条は
いかにもリア充で、友だちに囲まれてて、教師からも評価が高くて…
いつもニコニコしてるクラスの可愛い女子って感じだったが…
それなのに…
この口の悪さは何だ…?
「じゃぁ……
あの影がずっとお前にくっついてていいんだな?」
「……人のこと、お前とかいう男
マジむり…」
「はぁ?!
じゃぁホントに見えないんだな?!
担任の肩に乗ってる手だけのやつとか
九条は見えないんだな?!」
「…………っ……」
彼女の反応をみると
やはり見えているようだった
認めたくない気持ちも、何となくわかるが…
事態が事態だ
「……見える人間、意外といるんだよ…信じられないと思うけど」
俺だって最近会合に行くまでわからなかったが……
「どうでもいい………
とにかくわたしはそういうのじゃないから!
そんなの友達にバレたら……
やっていけない…」
口が悪いことには驚いたが
彼女の気持ちが少しわかった気がする
周りにバレたくない、か………
「わたしは、名取君みたいにぼっちになるのは耐えられない…」
「はぁぁ?!」
誰がぼっちだ!………ぃゃ、ぼっちか
「わたしが今の地位にいるために
どれだけ努力してるかわかる?
それなのに変なのが見えるとか言って
霊感少女ぶったメンヘラだと思われたら嫌なの…!」
「………地位って何だよ
リア充お得意のランク付けか?
人のことぼっち呼ばわりして…
そんなにリア充でいたいのかよ?」
次第にイライラしている自分がいた
「そんなにその地位とやらにしがみついていたいんだな」
妖のことをしていたはずなのに……
何だか違う話になってきてしまった
「………リア充でいたいよ
リア充にしがみついていたいの…!
名取君にはわかんないよ
わたしは1人は嫌なの………」
うつむく彼女は、ひどく悲しそうだった……
「……じゃぁ、いいよ
俺も言い過ぎた、ごめん…」
「………」
「…でも、あの影は放っておけない
九条が見えなくてもいい
それでも…
もう、しんどいって言ってたのを聞いた以上……
九条のこと、放っておけない」
やっと彼女が顔をあげた
その顔は、今にも泣きそうで
………ドキリとした
「……俺にやらせてくれないか?
九条が妖のこと、信じなくてもいい
俺のこと、キモいとか思っていい
それでもいいから、少しの時間俺につきあってほしい
影を、九条から剥がしてみせる」
自信、というか…
どうにかしてあげたい、という気持ちが強くなって… 自分でも不思議な感覚だった
九条は… 静かにうなづいた
ーーーーーー
二人で屋上に向かう
場所的にそこがいいと思ったからだ
「急ごう… 日が落ちたらできなくなる
それに、屋上も使えなく…
九条?」
急に彼女が立ち止まる
「どうした?急がないと…」
「………ちょっと…怖い」
うつむいたまま、彼女が言う
「わたし、怖いよ…名取君」
「九条…」
「あの影ね… 2年になってすぐくらいに… 憑いてきたの…
初めは、もっと小さかった…
でも… だんだん大きくなって、しゃべるようになって……
お前の闇は美味いな…って」
ぽろぽろと涙を流す九条…
「怖かった……
でも、誰にも言えなくて…」
クラスで明るく振る舞っていた彼女の
意外な姿だった
思わず、彼女に手を伸ばしていた
頬伝う涙を、指でぬぐう
「俺も… 最近まで同じように見える人間がいるなんて、知らなかったんだ
誰にも理解されないと思ってた
でも、今は違う
九条にも、そうなって欲しい」
潤む瞳で俺を見てくれている九条は、また静かにうなづいた
「行こう…」
彼女の手をつかみ、屋上へ上がる
きっと、大丈夫
そんな想いが、俺の中にあった
ーーーーー
屋上に陣を書き 準備を整える
「これで……大丈夫なはず」
「はずって…」
「まぁ俺もこの手の妖は初めてだから」
「え?!💦自信あるんじゃないの?
剥がすって言ってたけど、退治してくれるってことだよね??」
「俺たちは祓うって言うけどね、まぁ一緒かな」
九条は不安げだ
「ホントに大丈夫?てかこの絵?みたいなの何?
テキトーなの?」
「陣だよ!テキトーじゃないし
てか、さっきから思ってたけど…
九条て案外口悪いな😒
教室でのあれは猫かぶってんの?」
率直に意見を言ってみる
「うるさいなー…
みんなにウケがいいようにやってんの」
「うわっ…
可愛くねー…😓」
「ほっといて!
名取君みたいに近づきにくくて、クラスの和を乱すようなぼっちもどうかと思うけど?」
一瞬ムカッときたが……
正論なような気がして、言い返せなかった
(……和を乱す、か……)
「……名取君、もう少し、うまくやればいいのに…
誰とでも仲良くは、ムリだと思うけどさ…」
うまくやれば、という言葉
誰かさんにも言われたなと思うと
自分でも笑ってしまう…
「よし、できた
ここ、立って」
夕陽でのびた九条の影が陣に入るように立ち位置を指示する
さっきまで悪態ついていたのに
今の九条はひどく不安げだ
「……大丈夫だよ」
自然と……
彼女の手をつかんでいた
細いけど柔らかい、冷たい手だった
彼女は少し微笑んで
小さくうなづいた
「出でませ、出でませ…」
俺が文言を唱え始めると九条の影が大きくなり、俺たちを見下ろすまで大きくなった
俺は文言を唱え続けた
「………ねぇ……わたしのカゲ…」
九条の声が聞こえる
「あなたは知ってたんでしょ?
わたしが、自分を偽ってるって…
そんな闇を抱えてるって…
だからわたしに憑いた
そんな闇が美味しいって……
でもね、わたし…
自分を偽らなくてもいい場所を見つけた気がするの
みんなの前では無理でも…
そこなら本当の自分でいられる
そんな場所を見つけたの
だから………だから、カゲ……」
俺が文言を唱え終わったころには
俺たち二人の影だけが
屋上にのびていた
ーーーーー
「名取君、今日はありがとう!」
日が暮れた道を二人で歩く
「あ、あぁ……
何とかなってよかったよ」
「何とかってさ、ホントは自信なかったんじゃん?」
「はー?それよりお前の口の悪さに驚いたよ
クラスの奴らに言うぞ」
「どーぞーw
言ったところでみんな信じないし
リア充のわたしと、ぼっちの名取君
みんな、どっちの言うこと信じると思う?」
「うわっ…!自分で自分のことリア充とかいうわけ?
ひくわー…」
九条のふっきれた様子に安心しつつも、口の悪さに若干ひく…
「だってホントにリア充だもーん♪
そのためにわたしがいかに努力してるかわかる〜?
インスタにあげるやつも、つぶやく言葉も… 全部そのためのもの
みんなにイイね!て言われるのが生きがいなの
でも必死さが出ちゃダメ
あとあからさまな自慢になってもダメ
ナチュラルじゃないと」
「………へぇ〜〜…」
リア充はリア充なりに大変なんだな、と思う…
「…中学入ってすぐくらいにね、髪型変えたの
そしたら、周りの友だちが可愛いねって言ってくれたの…」
ぽつり、ぽつりと九条が話始めた
「可愛いねって言われて、単純に嬉しかった…
それでもっと可愛くなりたいと思って雑誌買って真似したりして
その雑誌も、ホントは学校に持っていっちゃダメだったけど、教室で見てると友だちが集まってくれた
そのうち制服とか、ちょっと崩して着たりして…」
ふと見た彼女の横顔は、どこか寂しげだった…
「中2のときね、1こ上の先輩にコクられたの…
嬉しかった…
別にその先輩が好きだったわけじゃないのに
そのあと、友だちからも、コクられたの?いいなぁって言われて
ちやほやされたかったんだろうね、わたし……
それから、ずっとリア充にしがみついてる」
彼女は自嘲気味に笑っていた
「……疲れないのか?
その… 自分を偽ってて…」
俺は、それが嫌だから1人でいる
だからぼっちやってるんだ…
「うーん…
でも、何だかんだでやっぱりちやほやされるのは嬉しいかな
快感?ていうか
あと不満は裏アカでつぶやいてストレス発散してる」
「はぁ?何だよそれ…… こわっ」
「友だち多いとさぁ、変なことつぶやけないんだよね〜」
「そこまでして… 人気者でいたいわけ?」
自分でも、少しトゲのある言い方になってしまったと思った
でも、言わずにはいられなかった
「………嫌われたくない、だけかな」
彼女が小さくつぶやいた
リア充のやることなんて、俺には理解できないと思っていたけど
みんな同じなのかもしれない
嫌われたくないから
1人でいる
嫌われたくないから
無理してでもみんなといる
きっと、そうなのかもしれない……
「なぁ…
さっき屋上で言ってた、自分を偽らなくてもいい場所って…?」
俺の言葉に、彼女は足をとめた
まっすぐ俺を見る…………
「え?何それ?
そんなこと言ってないし」
「はぁ?確かに聞いたぞ」
「聞き間違いじゃない?」
そういうと、彼女はまた歩きだす
その足取りは軽やかだ
影がとれたせいだろうか?
いや、たぶん違う
俺は、少しでも彼女の役にたてたのだろうか…
彼女の後ろをゆっくり歩く
空に星が2つ、輝いていた…
ーーーー
翌朝
いつもと変わらない
憂鬱な学校までの道のり
騒がしい集団をいくつも追い越し
1人歩く
そして、またひとつ女子の集団を追い越したときだった……
「周一君!おはよう!」
そこそこデカい声がして、思わず足が止まった
ゆっくり振り返る…
九条がにこやかに立っていた
きらきらリア充バージョンだ…
(↑勝手に命名した)
「ぉ…ぉはょ…」
どうして振り返ってしまったのか…
自分で自分の行為を悔やむ
再び前を向いて歩きだしたが
もう遅かった…
「え?!何で名前?」
「名取君と仲良くなったの?!」
「ズルいー!まさか付き合い始めたとか言わないよねっ?!」
(だから聞こえてるっての…😒)
九条がキャーキャー騒ぐ奴らに何て返したのかはわからない
ただ、俺はみんなが知らない九条を知っている
九条も俺が妖が見えることを知っている
ただそれだけで…
今日の朝はいつもと違うように思えた
教室では
いつものようにみんなの中にいる九条
ぼっちの俺
それでも教室にいることが
前より苦痛ではなくなった気がする
ーーーーー
「周一君…」
廊下を1人歩いていると
後ろから声がした
俺のことを名前で呼ぶ奴なんて
校内に1人しかいない…
「九条…
お前なんで名前で…」
「あのね…!」
急に名前で呼ばれて困る、と抗議したかったが
俺の話を遮るように彼女が話始めた
「あのね、周一君……
その……」
うつむいて、何だか言いづらそうだ…
「な、どうした……?」
予想していなかった彼女の様子に
こちらも少し戸惑う
「その…あの…
これ!!」
彼女が自分の左手を俺にさしだした
「………さっき変なのに手首掴まれて…
そしたらこれ、手首に変なアザが付いて…
……とれないの😓」
「?!?!?!😨」
確かに… 九条の手首には青黒い、何かに捕まれた跡のようなものが付いていた…
「友だちに何となく聞いてみたんだけど… 何もないって言うの
周一君なら見えるかな?と思って…
周一君、見える?これって妖ってやつ??」
「………お前なぁーー!💦」
何も変わらないはずだった
つまらない学校生活が
少しずつ、変わっていった
〜fin〜
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