夏目が見る夢
名前を変換して読む
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「とても綺麗……
やっぱり桜は綺麗ですね」
大木の桜の木を見上げて
野風さんが言った
「そうですね…」
正直、ここがどこなのかはわからない
野風さんいわく、人の世と妖の世との間らしい…
実際、俺はにゃんこ先生を探して歩いていたら
いつの間にかここにたどり着いていたわけで…
野風さんは別のところから入った、と言っていた
色んな所と繋がっている
不思議な場所だ……
そんな所にある
大木の桜
ふと野風さんを見る
今日は着物で、よりいっそう落ち着いた感じがある
可愛いより……綺麗、かな……
そのまま彼女を見ていた
桜を見上げている横顔
白い肌
まばたきするたび揺れる長い睫毛
ほんのり色づいた唇
髪を耳にかけるその仕草一つ一つが…
愛しい…………
ふと、あるものが目についた…
「野風さん………
それ、何ですか………?」
一気に
胸がざわつくのがわかった
思わず
彼女の腕を掴んだ
「な、夏目君……っ」
ドキリドキリと… 自分の胸が鳴る
「………何、この傷……」
野風さんの手首が傷だらけなのに気づく
平行で
直線の多くの傷が付いている…
嫌な予感がして
反対側の腕も掴む
「両方…………?!」
「……夏目君、あのね……!」
リストカット………
どうみてもそんな傷だ
でも、両手首に……?
胸の奥が痛い…
バクバクと心臓が音をたてている
気持ちが悪い……
「リストカット………?」
やっと声が出た
「……夏目君、気にしないで
大丈夫だから」
彼女は笑顔だ
だから余計に………
「大丈夫なわけないじゃないですかっ?!
こんなに……!
こんなに傷だらけなのにっっ」
目の奥まで熱くなってきた……
「夏目君…
わたしは妖ですから、こんな傷くらいで死にません」
……どうして彼女は笑顔なんだろう
どうして………
俺に背を向けて
また桜を見上げる彼女
美しい君が
どうして傷だらけにならなくてはいけないんだ
野風さんは的場さんの式だ
……以前から思っていたことだが
野風さんを的場さんが式としてそば側に置く理由とは………?
……一つの仮説が
俺の全身を熱くする
さらに心臓が音をたてている
苦しいくらいに、だ
気持ち悪い、嫌な感情が
全身を支配してる………
「………的場さん、ですか
あなたを傷つけているのは……?」
「……………」
彼女の沈黙は
俺の仮説を
肯定しているようだった……
「……おかしいと思ってたんだ!
的場さんが野風さんを何で側におくのかって
何のためかって前から思ってた…
的場さんは、あなたの…
あなたの…!」
「夏目君……
前にも言ったよね… わたし
幸せだよ…?」
彼女は俺に背を向けたままだ
桜の花びらが
ひらひらと舞っている
「………その言葉を信じてた
だから俺は、自分の気持ちを押し殺して……!」
「夏目君……?」
野風さんは振り返って俺をみたが
俺は彼女の顔が見られなくて
うつむくしかなかった
「………的場さんが必要としてるのは
野風さんの血、なんですね
だから…そんな傷だらけに…」
戦いによる傷じゃない
自殺願望によるリストカットじゃない
じゃあ何か………
「そんなんで幸せとか言われても…
信じられない…!」
怒りのような
悲しみのような
もう……ぐちゃぐちゃだ
「夏目君……
泣かないで……」
野風さんが
俺の頬に伝うものを
そっと指で拭った……
「……俺は、野風さんが幸せだと思ったから…
的場さんの側で幸せにしてるって思ってたから…
それなのに、こんな傷だらけで…」
さっき傷を見たときに思った
古い傷もあれば
新しい傷もあって……
定期的に
傷付けられてる………
「夏目君…… 聞いて…
わたしが、幸せっていうのは
本当だよ
心から、そう思ってる
静司さんの側にいたいと自ら願った
だから今、あの人の側にいられて
幸せだよ………」
彼女の笑顔は
美しい……
思わず、彼女を抱きしめた
思い切り… その細い体が
折れてしまいそうなくらい…
「あなたの名を……
縛ってしまいたい………
どこにも、いかないように…」
押し殺していた気持ちが
言葉として出てきていた
野風さんは俺の胸の中で
その表情を見ることはできなかった
桜の花びらが
たくさん舞っている
俺たちも
満開の桜も
ずっとこのままなら………
「夏目君…」
野風さんが俺を見上げていた
「花びら、頭にたくさん」
そう言って手をのばし
花びらを取ってくれた
「……野風さんこそ…
花びら付いてる…」
野風さんがにこりと笑っている
やはりその笑顔は美しい…
ーーーーー
どれくらい二人で桜を見ていただろう
俺がいつもの
自分の住むべき世界に戻ると
日が暮れていた……
野風さんも
的場さんの所に帰えると言っていた
俺は、そこが本当に彼女のいるべき場所なのかは
わからなかった………
それでも、彼女の笑顔は
本物のようだった…
(俺は……
やっぱり何もできない…
……傷、大丈夫かな……)
虚しさがこみ上げてくる
足取り重く、歩き始めたが…
「……ぁ……!」
一つ、思い出したことがあった
家とは反対に走り出していた
俺のできることはなんだろう?
俺のやりたいことはなんだろう?
正しいことなのか?
間違ったことなのか?
必要なのか?
不要なのか?
何だっていい…
ただ俺は……………
ーーーーーーー
「野風さん…っ!」
「……夏目君?」
「よかった…
はぁ…はぁー…まだここに…」
息切れがひどく
しゃべるのがやっとだ
「どうしたの?戻ってきたりして…」
野風さんは
まだあの桜の木の下にいた
「まだ、いてくれて…
よかった……はぁー…
これ、渡したくて……」
走ってきた息を整えながら
小さな瓶を彼女に渡す
「……これ、は?」
彼女が広げた両手の中で
小瓶が光った
「………前に中級たちに教えてもらったんだ
中身……傷に効く、湧き水…
少ししか取れなかったけど」
彼女にそれが必要なのかは
わからない
自分がしたことが
正しいことかもわからない
それでも………
俺がしたいと思ったことだから
「……ありがとう!
夏目君っ」
ただ、その笑顔を見たら
自分のしたことは
間違いではなかったと思える
人はよく考えすぎる、と
誰かに言われた気がする
考えて考えて… わからなくなったり
そもそも考えてもわからないことだったり
ただ
たまには自分に正直に……
後先考えず
思った通りに行動してもいいのではないだろうか
(何が正解かなんて………)
野風さんを
自分の側に置くことはできない
彼女が的場さんの側にいることが
いいことなのかもわからない
それでもやっぱり…
彼女の笑顔を見ていたいから
「また、俺と
デートしてくれますか?」
〜fin〜
やっぱり桜は綺麗ですね」
大木の桜の木を見上げて
野風さんが言った
「そうですね…」
正直、ここがどこなのかはわからない
野風さんいわく、人の世と妖の世との間らしい…
実際、俺はにゃんこ先生を探して歩いていたら
いつの間にかここにたどり着いていたわけで…
野風さんは別のところから入った、と言っていた
色んな所と繋がっている
不思議な場所だ……
そんな所にある
大木の桜
ふと野風さんを見る
今日は着物で、よりいっそう落ち着いた感じがある
可愛いより……綺麗、かな……
そのまま彼女を見ていた
桜を見上げている横顔
白い肌
まばたきするたび揺れる長い睫毛
ほんのり色づいた唇
髪を耳にかけるその仕草一つ一つが…
愛しい…………
ふと、あるものが目についた…
「野風さん………
それ、何ですか………?」
一気に
胸がざわつくのがわかった
思わず
彼女の腕を掴んだ
「な、夏目君……っ」
ドキリドキリと… 自分の胸が鳴る
「………何、この傷……」
野風さんの手首が傷だらけなのに気づく
平行で
直線の多くの傷が付いている…
嫌な予感がして
反対側の腕も掴む
「両方…………?!」
「……夏目君、あのね……!」
リストカット………
どうみてもそんな傷だ
でも、両手首に……?
胸の奥が痛い…
バクバクと心臓が音をたてている
気持ちが悪い……
「リストカット………?」
やっと声が出た
「……夏目君、気にしないで
大丈夫だから」
彼女は笑顔だ
だから余計に………
「大丈夫なわけないじゃないですかっ?!
こんなに……!
こんなに傷だらけなのにっっ」
目の奥まで熱くなってきた……
「夏目君…
わたしは妖ですから、こんな傷くらいで死にません」
……どうして彼女は笑顔なんだろう
どうして………
俺に背を向けて
また桜を見上げる彼女
美しい君が
どうして傷だらけにならなくてはいけないんだ
野風さんは的場さんの式だ
……以前から思っていたことだが
野風さんを的場さんが式としてそば側に置く理由とは………?
……一つの仮説が
俺の全身を熱くする
さらに心臓が音をたてている
苦しいくらいに、だ
気持ち悪い、嫌な感情が
全身を支配してる………
「………的場さん、ですか
あなたを傷つけているのは……?」
「……………」
彼女の沈黙は
俺の仮説を
肯定しているようだった……
「……おかしいと思ってたんだ!
的場さんが野風さんを何で側におくのかって
何のためかって前から思ってた…
的場さんは、あなたの…
あなたの…!」
「夏目君……
前にも言ったよね… わたし
幸せだよ…?」
彼女は俺に背を向けたままだ
桜の花びらが
ひらひらと舞っている
「………その言葉を信じてた
だから俺は、自分の気持ちを押し殺して……!」
「夏目君……?」
野風さんは振り返って俺をみたが
俺は彼女の顔が見られなくて
うつむくしかなかった
「………的場さんが必要としてるのは
野風さんの血、なんですね
だから…そんな傷だらけに…」
戦いによる傷じゃない
自殺願望によるリストカットじゃない
じゃあ何か………
「そんなんで幸せとか言われても…
信じられない…!」
怒りのような
悲しみのような
もう……ぐちゃぐちゃだ
「夏目君……
泣かないで……」
野風さんが
俺の頬に伝うものを
そっと指で拭った……
「……俺は、野風さんが幸せだと思ったから…
的場さんの側で幸せにしてるって思ってたから…
それなのに、こんな傷だらけで…」
さっき傷を見たときに思った
古い傷もあれば
新しい傷もあって……
定期的に
傷付けられてる………
「夏目君…… 聞いて…
わたしが、幸せっていうのは
本当だよ
心から、そう思ってる
静司さんの側にいたいと自ら願った
だから今、あの人の側にいられて
幸せだよ………」
彼女の笑顔は
美しい……
思わず、彼女を抱きしめた
思い切り… その細い体が
折れてしまいそうなくらい…
「あなたの名を……
縛ってしまいたい………
どこにも、いかないように…」
押し殺していた気持ちが
言葉として出てきていた
野風さんは俺の胸の中で
その表情を見ることはできなかった
桜の花びらが
たくさん舞っている
俺たちも
満開の桜も
ずっとこのままなら………
「夏目君…」
野風さんが俺を見上げていた
「花びら、頭にたくさん」
そう言って手をのばし
花びらを取ってくれた
「……野風さんこそ…
花びら付いてる…」
野風さんがにこりと笑っている
やはりその笑顔は美しい…
ーーーーー
どれくらい二人で桜を見ていただろう
俺がいつもの
自分の住むべき世界に戻ると
日が暮れていた……
野風さんも
的場さんの所に帰えると言っていた
俺は、そこが本当に彼女のいるべき場所なのかは
わからなかった………
それでも、彼女の笑顔は
本物のようだった…
(俺は……
やっぱり何もできない…
……傷、大丈夫かな……)
虚しさがこみ上げてくる
足取り重く、歩き始めたが…
「……ぁ……!」
一つ、思い出したことがあった
家とは反対に走り出していた
俺のできることはなんだろう?
俺のやりたいことはなんだろう?
正しいことなのか?
間違ったことなのか?
必要なのか?
不要なのか?
何だっていい…
ただ俺は……………
ーーーーーーー
「野風さん…っ!」
「……夏目君?」
「よかった…
はぁ…はぁー…まだここに…」
息切れがひどく
しゃべるのがやっとだ
「どうしたの?戻ってきたりして…」
野風さんは
まだあの桜の木の下にいた
「まだ、いてくれて…
よかった……はぁー…
これ、渡したくて……」
走ってきた息を整えながら
小さな瓶を彼女に渡す
「……これ、は?」
彼女が広げた両手の中で
小瓶が光った
「………前に中級たちに教えてもらったんだ
中身……傷に効く、湧き水…
少ししか取れなかったけど」
彼女にそれが必要なのかは
わからない
自分がしたことが
正しいことかもわからない
それでも………
俺がしたいと思ったことだから
「……ありがとう!
夏目君っ」
ただ、その笑顔を見たら
自分のしたことは
間違いではなかったと思える
人はよく考えすぎる、と
誰かに言われた気がする
考えて考えて… わからなくなったり
そもそも考えてもわからないことだったり
ただ
たまには自分に正直に……
後先考えず
思った通りに行動してもいいのではないだろうか
(何が正解かなんて………)
野風さんを
自分の側に置くことはできない
彼女が的場さんの側にいることが
いいことなのかもわからない
それでもやっぱり…
彼女の笑顔を見ていたいから
「また、俺と
デートしてくれますか?」
〜fin〜