夏目が見る夢
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「おーーい!
ニャンコ先生〜〜っ
………どこ行ったんだ、まったく」
林の中の道を
ニャンコ先生を探して歩く
またどこかに行ってしまった…
もうすぐ夕暮れだ
「……まったく頼りない用心棒だ」
つい愚痴をもらしつつ
探し歩く
いつもの道を歩いてるつもりだった
…急に視界が開け
広い場所に出た
夕暮れだったはずだが
強い光が差し込み、眩しくて目を細める
(あれ?こんな場所あったかな…?
……あれは?梅の木?)
眩しさでよく見えない
(……木のそばに…
誰か立ってる…………?)
ようやく明るさに慣れ
目を開く
開けた場所の真ん中に
白い花を付けた梅の木と
それを見上げる着物姿の女性がいた
(………人?それとも…)
この場合、経験から言ってあれは人ではない…
(………着物って時点で…
フラグたってるよな………)
またか、という気持ちになり
はぁ…と短いため息が出た
(……妖だよなぁ)
そう思ったとき
その人が振り返り
こちらを見た
はっと息を飲むような…
美しい人だった………
そもそもこの場所自体、普通の人は入ってこられない空間のような気がした
そこにいた美しい女性
いや
まだ幼さが残るような…
同じくらいの歳にも思える
(でも、とにかく…
妖だよな……?)
彼女がにこりとした
はっと我に返り、みとれていた自分に気付き恥ずかしくなった
しかし彼女はまた梅の木を見上げた
「……綺麗ですね
この梅の木…小さな白い花がとても素敵…」
柔らかく、綺麗な声だった…
「あ…、えっと………」
うまく返答できない
それに妖だと思うと、答えてしまってよいものか悩む
彼女はこちらを見て続ける
「わたしは野風と言います
あなたは…?」
優しい笑顔だ…
夏目……と言おうと思ったが
それすらもためらう…
「……その…」
答えない俺にも
彼女は笑顔のままでいてくれた
「ごめんなさい、いきなり」
「いえ…!俺の方こそ………」
名前すら答えられないなんて…
でも、妖だと思うと…
自分が夏目だということは
言わないほうがいい…はずだ
「…たまたま見つけたの、この木
香りも…素敵」
低い枝に顔を近づけ
香りをかぐ姿も
美しいと思った……
「俺も…初めて来ました、ここ」
彼女のいう通り、良い香りがする
こんな綺麗な人ですら
妖だからといって疑わなければならない……
これまでの経験がそうさせる
もし…
悪い妖だったら………
そう思ってしまう自分が少し悲しかった
(こんなに綺麗なのに………)
花の香りをかぎ
にこりと微笑む彼女は
本当に美しかった……
「……主様にもお見せしたい」
微笑んだまま彼女が言った
「…主様?」
妖が主様という表現を使う場合
自分より位が高く、尊敬する者に対してか
……自分が使役 する者に対して使う
「はい、花の好きな方なのです」
満面の笑みで彼女が言う
幸せそうな笑顔だ…
(………慕っているんだろうな
その、主様ってやつを)
急に……
背後にただならぬ気配を感じて
勢いよく後ろを振り返る
人が、立っていた………
「主様…!」
野風さんがその人にかけよる…
この場にその人がいることも
野風さんがその人を主様と呼んだことにも
驚きを隠せなかった………
「………的場、さん……?!」
「おや?また君でしたか、夏目君…
君は本当に… 色んな所にいますね」
あの胡散臭い笑顔をたたえた的場さんが……
そこにいたのだ
「…ど、どうしてここに…っ」
「それはこちらも聞きたいですね
君こそ何故ここに?
まさか野風と一緒だとは……」
的場さんが野風さんの名前を口にしたとき
胸の奥がチクリと痛んだ…
(……的場さんに、つかえているのか?)
考えが追い付かない……
「主様のお友達だったのですね!」
「……え?」
彼女が嬉しそうにこちらを見ていた
「気づかなくてごめんなさい」
「あ、いや………
友達……」
ではないな、うん、友達ではない……
「ふふ、野風…
夏目君はわたしとあまり関わりたくないそうです」
的場さん自ら、自虐的なことを…
「あら…、そうなのですか?」
彼女は少し困ったような顔をしていた
「帰りますよ、野風……」
「あ、はい…!主様」
そう言うと、野風さんは的場さんと行ってしまったのだ
去り際に、笑顔で手を振ってくれた……
「あれが的場の式とはな…」
「……うわぁ!ニャンコ先生?!」
急に足元に現れたニャンコ先生に驚く
「ぉ、おどかすなよ…!」
「さっきからおったぞ〜」
あの二人に夢中で… まったく気がつかなかった
「やっぱり、的場さんの式なのかな…?」
「おそらくな
それにしても、あの的場につかえるとは…
よっぽど頭がおかしいな
あの野風とかいう妖は」
「先生、何もそこまで言わなくても…」
と言いつつ、心の中では
(どうしてあの人なんかに…)
と思っている自分がいた…
的場一門のやり方を知っているからだ…
(式を………
捨て駒のように……)
彼女は的場一門のことを
よく知らないのだろうか…
わかってあの人に
誓えているのだろうか
主様、と
的場さんにかけよる野風さんを思い返していた
(嬉しそうだったな………)
彼女の笑顔が頭から離れない
「………そうでなければ…」
ニャンコ先生が
急に神妙な面持ちになった
「無理矢理
縛られているか、だ」
……無理矢理?
……
………
…………
「……えぇ〜〜〜っっ?!!」
無理矢理、縛る??
的場さんが……
彼女を…………?!
「……おい、夏目っ
お前、物理的な緊縛 を想像しておらんか?
勘違いするな、妖の名の話だ」
「………ぁっ、名前…💦」
…………自分を恥じた…
「名を縛られ
無理矢理、使役されてる可能性もあると言っておるのだ
夏目、卑猥な想像をしたな…😏」
「し、してない……!!」
女の子を縛る的場さんを想像してしまったなんて……
口が裂けても言えない……
「それに、聞いたことがある…
昔、力を欲した祓い人が
妖の姫をさらい
犯したと…………」
「……?!」
「強い妖とつながることで
強い力を得られると思ったのだろうなぁ………」
ニャンコ先生のその話に
胸焼けのような
気持ちの悪い感覚に襲われた
「あの野風とやらも……
的場にあーんなことやこーんなことを…」
「や、やめろよ!先生……っ」
「まぁ、古い昔話だ…
本当かどうかもわからん
とにかく、あの妖が
捨て駒にされなければよいがな」
「…………」
……と、そこに
「何を騒いでるんだい?」
「夏目様〜〜」
どこからともなく
ヒノエや中級たちがやってきた
「おや、今年も咲いたのかい!
もうそんな季節だねぇ〜…」
ヒノエが梅の木を見上げ言う
「この場所は、この木の花が咲くときにしか開かれないんだよ」
「そうか…
だから知らなかったのか」
ヒノエの説明で納得した
「それより何を騒いでいたんだい?」
「おー、それがな…
夏目のやつ、人の女で卑猥な想像を……」
………ゴツン、と
ニャンコ先生にげんこつを食らわせた
その後は
ヒノエは異常に興奮するし
ニャンコ先生と中級たちは
花見だといって酒盛りを始める始末だ
うんざりして、ニャンコ先生を置いて帰ることにした…
再び梅の木を見る
(綺麗だ……)
無理矢理、にしては
的場さんに対して笑顔だった野風さん…
(それにしてもニャンコ先生…
人の女、なんて言い方…)
……納得できない
的場さんの式
的場さんの妖
的場さんの女………
絶対納得できない
彼女は………
的場さんのどんな存在なのだろう…
彼女の笑顔だけが
脳裏をよぎった…
ーーーーーー
数日後
再びあの梅の木がある場所に赴いた
(もう花が散ってしまうかもしれない……)
そうすると
またあの場所には行けなくなってしまう
そう思うと惜しい気がして
自然と足が向かっていた
しばらく歩くと
また眩しい光が差し込んだ
「……ぁ」
眩しい光の奥に
あの綺麗な梅の木と
彼女が立っていたのだ……
「……野風さん」
「…ぁ!夏目様…!」
にこやかに彼女がかけよってきた
「またお会いできて嬉しいです」
躊躇なく、そんな嬉しいような恥ずかしくなるようなことを言われ
自分の顔が熱くなった気がした
野風さんは……
とても無邪気だ
「今日は的場さん…
一緒じゃないんですか?」
しばらく二人で梅の木を眺めた後
勇気を出して聞いてみた…
「主様ですか?
今日は一緒ではないんですよ
でも、ちゃんと許可をいただいて
ここに来てますから」
にこりと彼女が言う
「………許可がいるの?」
「はい、一応ですが
どこどこに行ってきますね、くらいのものです」
………本当だろうか、と疑ってしまう
もっと、窮屈な暮らしを強いられてるのではと…
つい思ってしまう
そんな俺の表情を読んでか…
彼女が言う
「夏目様…
わたしは自らの意思で主様におつかえしております
決して無理矢理ではありません」
彼女を見ると
柔らかい笑顔でこちらを見ていた
「大事にされております」
また、にこりと笑った
ふと…
ニャンコ先生が言った言葉を思い出す
的場さんにあーんなことやこーんなことを………
「夏目様………?」
野風さんに呼ばれ、はっと我に返る
よからぬ想像をしてしまった自分を恥じる…
「夏目様?顔が赤いですよ?」
「な、何でもないよ……💦」
恥ずかしさのあまりうつむいてしまった
「ふふふ
夏目様、面白い…」
くすくすと、ちいさく笑う彼女は
とても可愛らしかった
……もしかしたら
野風さんは本当に妖の姫なのかもしれない
ーーーーー
「もうすぐ散ってしまいますね…」
「そうですね…
そしたら、この場所は閉じてしまうらしいです…」
「そうですか……」
彼女が寂しげに言う
大事にされている
彼女はそう言った……
(的場さんが…
女性を大事に………)
そういえば…
思い出したことがある
前回彼女が
「主様は花が好きだ」と言っていたことだ……
そのときは、まさか的場さんにつかえているなんて思っていなかったが…
(的場さんが、花ねぇ………)
花を愛でる的場さんを
想像できなかった……
「そうだ、今日俺に会ったことは…
的場さんには言わないで下さい」
「…?なぜです?」
「な、なぜって………
気まずいというか…」
何と説明したらよいかわからないが
とにかく野風さんと会っていたことを
的場さんに知られたくなかった…
「…では、二人だけの秘密ですね」
「…え?」
彼女の笑顔に
再びドキリとした……
「また、見たいですね…
この場所で、この梅の花を…」
「うん……
また来年だ………」
来年、自分は何をしているだろうか…
ふと思いを巡らせる
妖たちに名前を返し終わっているだろうか…
野風さんは誰と
一緒にいるのだろうか…
「また二人で梅の花を見ましょう」
「……うん、また」
野風さんがすっと…
小指を出した
「約束です、夏目様」
にこりと
可愛らしい笑顔を向けてくれた
「……あぁ、約束だ」
こちらも自然と笑みがこぼれる
野風さんと、指切りをした
的場さんには悪いが
二人だけの秘密
二人だけの約束だ
的場さんは遠い人だ…
でも、今日だけ少し
近づけた気がした…
(バレたら呪われそうだけど……)
〜fin〜
ニャンコ先生〜〜っ
………どこ行ったんだ、まったく」
林の中の道を
ニャンコ先生を探して歩く
またどこかに行ってしまった…
もうすぐ夕暮れだ
「……まったく頼りない用心棒だ」
つい愚痴をもらしつつ
探し歩く
いつもの道を歩いてるつもりだった
…急に視界が開け
広い場所に出た
夕暮れだったはずだが
強い光が差し込み、眩しくて目を細める
(あれ?こんな場所あったかな…?
……あれは?梅の木?)
眩しさでよく見えない
(……木のそばに…
誰か立ってる…………?)
ようやく明るさに慣れ
目を開く
開けた場所の真ん中に
白い花を付けた梅の木と
それを見上げる着物姿の女性がいた
(………人?それとも…)
この場合、経験から言ってあれは人ではない…
(………着物って時点で…
フラグたってるよな………)
またか、という気持ちになり
はぁ…と短いため息が出た
(……妖だよなぁ)
そう思ったとき
その人が振り返り
こちらを見た
はっと息を飲むような…
美しい人だった………
そもそもこの場所自体、普通の人は入ってこられない空間のような気がした
そこにいた美しい女性
いや
まだ幼さが残るような…
同じくらいの歳にも思える
(でも、とにかく…
妖だよな……?)
彼女がにこりとした
はっと我に返り、みとれていた自分に気付き恥ずかしくなった
しかし彼女はまた梅の木を見上げた
「……綺麗ですね
この梅の木…小さな白い花がとても素敵…」
柔らかく、綺麗な声だった…
「あ…、えっと………」
うまく返答できない
それに妖だと思うと、答えてしまってよいものか悩む
彼女はこちらを見て続ける
「わたしは野風と言います
あなたは…?」
優しい笑顔だ…
夏目……と言おうと思ったが
それすらもためらう…
「……その…」
答えない俺にも
彼女は笑顔のままでいてくれた
「ごめんなさい、いきなり」
「いえ…!俺の方こそ………」
名前すら答えられないなんて…
でも、妖だと思うと…
自分が夏目だということは
言わないほうがいい…はずだ
「…たまたま見つけたの、この木
香りも…素敵」
低い枝に顔を近づけ
香りをかぐ姿も
美しいと思った……
「俺も…初めて来ました、ここ」
彼女のいう通り、良い香りがする
こんな綺麗な人ですら
妖だからといって疑わなければならない……
これまでの経験がそうさせる
もし…
悪い妖だったら………
そう思ってしまう自分が少し悲しかった
(こんなに綺麗なのに………)
花の香りをかぎ
にこりと微笑む彼女は
本当に美しかった……
「……主様にもお見せしたい」
微笑んだまま彼女が言った
「…主様?」
妖が主様という表現を使う場合
自分より位が高く、尊敬する者に対してか
……自分が
「はい、花の好きな方なのです」
満面の笑みで彼女が言う
幸せそうな笑顔だ…
(………慕っているんだろうな
その、主様ってやつを)
急に……
背後にただならぬ気配を感じて
勢いよく後ろを振り返る
人が、立っていた………
「主様…!」
野風さんがその人にかけよる…
この場にその人がいることも
野風さんがその人を主様と呼んだことにも
驚きを隠せなかった………
「………的場、さん……?!」
「おや?また君でしたか、夏目君…
君は本当に… 色んな所にいますね」
あの胡散臭い笑顔をたたえた的場さんが……
そこにいたのだ
「…ど、どうしてここに…っ」
「それはこちらも聞きたいですね
君こそ何故ここに?
まさか野風と一緒だとは……」
的場さんが野風さんの名前を口にしたとき
胸の奥がチクリと痛んだ…
(……的場さんに、つかえているのか?)
考えが追い付かない……
「主様のお友達だったのですね!」
「……え?」
彼女が嬉しそうにこちらを見ていた
「気づかなくてごめんなさい」
「あ、いや………
友達……」
ではないな、うん、友達ではない……
「ふふ、野風…
夏目君はわたしとあまり関わりたくないそうです」
的場さん自ら、自虐的なことを…
「あら…、そうなのですか?」
彼女は少し困ったような顔をしていた
「帰りますよ、野風……」
「あ、はい…!主様」
そう言うと、野風さんは的場さんと行ってしまったのだ
去り際に、笑顔で手を振ってくれた……
「あれが的場の式とはな…」
「……うわぁ!ニャンコ先生?!」
急に足元に現れたニャンコ先生に驚く
「ぉ、おどかすなよ…!」
「さっきからおったぞ〜」
あの二人に夢中で… まったく気がつかなかった
「やっぱり、的場さんの式なのかな…?」
「おそらくな
それにしても、あの的場につかえるとは…
よっぽど頭がおかしいな
あの野風とかいう妖は」
「先生、何もそこまで言わなくても…」
と言いつつ、心の中では
(どうしてあの人なんかに…)
と思っている自分がいた…
的場一門のやり方を知っているからだ…
(式を………
捨て駒のように……)
彼女は的場一門のことを
よく知らないのだろうか…
わかってあの人に
誓えているのだろうか
主様、と
的場さんにかけよる野風さんを思い返していた
(嬉しそうだったな………)
彼女の笑顔が頭から離れない
「………そうでなければ…」
ニャンコ先生が
急に神妙な面持ちになった
「無理矢理
縛られているか、だ」
……無理矢理?
……
………
…………
「……えぇ〜〜〜っっ?!!」
無理矢理、縛る??
的場さんが……
彼女を…………?!
「……おい、夏目っ
お前、物理的な
勘違いするな、妖の名の話だ」
「………ぁっ、名前…💦」
…………自分を恥じた…
「名を縛られ
無理矢理、使役されてる可能性もあると言っておるのだ
夏目、卑猥な想像をしたな…😏」
「し、してない……!!」
女の子を縛る的場さんを想像してしまったなんて……
口が裂けても言えない……
「それに、聞いたことがある…
昔、力を欲した祓い人が
妖の姫をさらい
犯したと…………」
「……?!」
「強い妖とつながることで
強い力を得られると思ったのだろうなぁ………」
ニャンコ先生のその話に
胸焼けのような
気持ちの悪い感覚に襲われた
「あの野風とやらも……
的場にあーんなことやこーんなことを…」
「や、やめろよ!先生……っ」
「まぁ、古い昔話だ…
本当かどうかもわからん
とにかく、あの妖が
捨て駒にされなければよいがな」
「…………」
……と、そこに
「何を騒いでるんだい?」
「夏目様〜〜」
どこからともなく
ヒノエや中級たちがやってきた
「おや、今年も咲いたのかい!
もうそんな季節だねぇ〜…」
ヒノエが梅の木を見上げ言う
「この場所は、この木の花が咲くときにしか開かれないんだよ」
「そうか…
だから知らなかったのか」
ヒノエの説明で納得した
「それより何を騒いでいたんだい?」
「おー、それがな…
夏目のやつ、人の女で卑猥な想像を……」
………ゴツン、と
ニャンコ先生にげんこつを食らわせた
その後は
ヒノエは異常に興奮するし
ニャンコ先生と中級たちは
花見だといって酒盛りを始める始末だ
うんざりして、ニャンコ先生を置いて帰ることにした…
再び梅の木を見る
(綺麗だ……)
無理矢理、にしては
的場さんに対して笑顔だった野風さん…
(それにしてもニャンコ先生…
人の女、なんて言い方…)
……納得できない
的場さんの式
的場さんの妖
的場さんの女………
絶対納得できない
彼女は………
的場さんのどんな存在なのだろう…
彼女の笑顔だけが
脳裏をよぎった…
ーーーーーー
数日後
再びあの梅の木がある場所に赴いた
(もう花が散ってしまうかもしれない……)
そうすると
またあの場所には行けなくなってしまう
そう思うと惜しい気がして
自然と足が向かっていた
しばらく歩くと
また眩しい光が差し込んだ
「……ぁ」
眩しい光の奥に
あの綺麗な梅の木と
彼女が立っていたのだ……
「……野風さん」
「…ぁ!夏目様…!」
にこやかに彼女がかけよってきた
「またお会いできて嬉しいです」
躊躇なく、そんな嬉しいような恥ずかしくなるようなことを言われ
自分の顔が熱くなった気がした
野風さんは……
とても無邪気だ
「今日は的場さん…
一緒じゃないんですか?」
しばらく二人で梅の木を眺めた後
勇気を出して聞いてみた…
「主様ですか?
今日は一緒ではないんですよ
でも、ちゃんと許可をいただいて
ここに来てますから」
にこりと彼女が言う
「………許可がいるの?」
「はい、一応ですが
どこどこに行ってきますね、くらいのものです」
………本当だろうか、と疑ってしまう
もっと、窮屈な暮らしを強いられてるのではと…
つい思ってしまう
そんな俺の表情を読んでか…
彼女が言う
「夏目様…
わたしは自らの意思で主様におつかえしております
決して無理矢理ではありません」
彼女を見ると
柔らかい笑顔でこちらを見ていた
「大事にされております」
また、にこりと笑った
ふと…
ニャンコ先生が言った言葉を思い出す
的場さんにあーんなことやこーんなことを………
「夏目様………?」
野風さんに呼ばれ、はっと我に返る
よからぬ想像をしてしまった自分を恥じる…
「夏目様?顔が赤いですよ?」
「な、何でもないよ……💦」
恥ずかしさのあまりうつむいてしまった
「ふふふ
夏目様、面白い…」
くすくすと、ちいさく笑う彼女は
とても可愛らしかった
……もしかしたら
野風さんは本当に妖の姫なのかもしれない
ーーーーー
「もうすぐ散ってしまいますね…」
「そうですね…
そしたら、この場所は閉じてしまうらしいです…」
「そうですか……」
彼女が寂しげに言う
大事にされている
彼女はそう言った……
(的場さんが…
女性を大事に………)
そういえば…
思い出したことがある
前回彼女が
「主様は花が好きだ」と言っていたことだ……
そのときは、まさか的場さんにつかえているなんて思っていなかったが…
(的場さんが、花ねぇ………)
花を愛でる的場さんを
想像できなかった……
「そうだ、今日俺に会ったことは…
的場さんには言わないで下さい」
「…?なぜです?」
「な、なぜって………
気まずいというか…」
何と説明したらよいかわからないが
とにかく野風さんと会っていたことを
的場さんに知られたくなかった…
「…では、二人だけの秘密ですね」
「…え?」
彼女の笑顔に
再びドキリとした……
「また、見たいですね…
この場所で、この梅の花を…」
「うん……
また来年だ………」
来年、自分は何をしているだろうか…
ふと思いを巡らせる
妖たちに名前を返し終わっているだろうか…
野風さんは誰と
一緒にいるのだろうか…
「また二人で梅の花を見ましょう」
「……うん、また」
野風さんがすっと…
小指を出した
「約束です、夏目様」
にこりと
可愛らしい笑顔を向けてくれた
「……あぁ、約束だ」
こちらも自然と笑みがこぼれる
野風さんと、指切りをした
的場さんには悪いが
二人だけの秘密
二人だけの約束だ
的場さんは遠い人だ…
でも、今日だけ少し
近づけた気がした…
(バレたら呪われそうだけど……)
〜fin〜