夏目が見る夢
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「………夏目君……?」
雨上がり、例の廃駅の帰り道だった
寂しげで浮かない顔をして、その人は立っていた
「野風さん……」
「夏目君… 主様に、お会いになりました…?」
妖である野風さんが、主様と呼ぶのは
彼女の主である、あの人…
俺がさっきまで廃駅で一緒にいた
的場さん、その人だ………
「………会いましたよ
さっきまで一緒でした……」
「そう……ですか……」
「今行けば、まだ追い付くかもしれませんよ?」
「いえ……
来るなとの言い付けでしたから…」
野風さんはますます寂しげで
悲しそうだった
……何があったか、大方予想できているのかもしれない
「ヒトクビを処分しにきたらしいな、あやつは」
にゃんこ先生が、躊躇も気遣いもなく言葉を投げ掛けた
「……やはり……
そうでしたか……」
にゃんこ先生の言葉を聞いた野風さんは、手で口元を覆い
動揺を隠しているようだったが
顔はもはや青ざめていた
「あれが本当にヒトクビだったかどうかは別として…
確実に処分していったぞ、お前の主様とやらはな」
にゃんこ先生は野風さんの様子にもお構い無しだった
「なんて、危険なことを……
おひとりで…… あの方は……っ」
「野風さん……」
彼女の動揺は、涙として溢れていた…
的場さんを想い、ポロポロと涙を流す彼女を見ていたたまれなくなった俺だったが
大してかけてあげる言葉も見つからず、ただ彼女の肩に手を置いた
「野風さん…
的場さんはあなたや一門の人を危険に巻き込まないために、1人でここに来たんじゃないんですか……?
1人で…… 片をつけるために」
俺の言葉に、野風さんはこくこくと頷いた
「言葉では決しておっしゃりませんが…… そうだと思います
そういう方なのです、主様は……
今日も、わたしには決して付いてくるなとだけおっしゃられて……
でも、どうしても嫌な予感がして
主様の気配をたどってここまで来た次第なのです……」
彼女は、一生懸命涙をぬぐっていた
「でも、わたしは……
主様のために側にいるのに…
主様のお役にたちたくて、側にいるのに…
ダメな式ですよね……」
「そんなこと……絶対ないですよ」
俺は、彼女に笑ってみせた
彼女にも
笑ってほしかったから……
俺にはとっくにわかっていたことなのだが
的場さんと野風さんは
祓い人と式という関係だけではなく
もっと、それ以上の関係なのだ
だから的場さんは危険の及ぶところに野風さんを近付けさせない
式なのに、あまり連れてあるかないのはそのためだろう……
野風さんを、想ってのことだ
「ふん…!
相変わらず生け##RUBY#簀#す##かないガキだっ」
「にゃんこ先生!
そんな言い方ないだろっ?!」
にゃんこ先生が的場さんのことを好きじゃないのはわかるが、野風さんの前でもお構い無しだから困る
「いいんです、夏目君…
主様のやり方が正しいかは…
わたしにもわかりません
それでも主様には、やらねばならぬときがあるのです
それがあの方の使命………」
さっきまでの涙はとまり
野風さんの瞳には力強さのようなものがあった
そんな使命を背負う的場さんを
野風さんは式として護る覚悟なのだろう……
そんな彼女を、俺が止めることなどできない
ましてや的場さんの側ではなく
俺の側にいてくれなどと……
「………野風さん…
あなたの、本当の名前は
なんていうんですか………?」
「………え……?」
俺の唐突な質問に、彼女は少し驚いたようだった
「野風というのは、契約するときに与えられた仮の名ですよね?
……本当の名前が、別にあるのかなって…」
「……知ったら、夏目君はどうしますか?」
逆に質問されてしまって、今度はこちらが少し驚いた
「俺は…………」
「夏目君、わたしは主様と契約するときに
自ら紙に名を書きました」
………思わぬ言葉に驚いて彼女を見た
力強い瞳で、こちらを見ていた
「………愚かなことを……」
野風さんの言葉の意味を理解したにゃんこ先生が、一言呟いた
俺も…… 意味を理解した……
「………的場さんに
名を預けているんですね……」
俺の言葉に、野風さんは黙っているだけだったが
それは肯定を意味していた
「……あなたが的場さんを護りたいというのは前から知っています…!
でも、何もそこまで…
名を…… 命を預けてまで…っ」
「………夏目君……
いつも、ありがとう
心配してくれて」
彼女を見ると、優しく微笑んでくれていた
今は、俺だけに向けられている
彼女の笑顔だ
その笑顔を見て、俺は冷静さを取り戻す
「わたしは屋敷に戻ります
そこで主様の帰りを待つことにします……
わたしがここに来たことは、秘密ですよ?
言いつけを破ってきてしまってますから…」
「わかりました…」
野風さんは、笑顔のまま俺に手を振った後
行ってしまった
「………夏目
お前もいい加減、あの女と関わるのはやめたらどうだ…
自分が辛くなるだけだろうに」
にゃんこ先生が珍しく、俺を気遣ってくれている
「関わろうとしてるわけじゃない
今日だってたまたま会っちゃっただけだし……
でもまぁ… 今日はにゃんこ先生がいてくれてよかったよ」
「……にゃぬ?」
先生が側にいなかったら、たぶん俺は冷静でいられなかった
(……野風さんのこと、抱きしめてたかもしれない……)
そんな衝動を思い出す
「このわたしがいなかったら夏目……
お前、野風を犯してたんじゃないのか?😏」
「なっ?!
なんてこと言うんだよ先生!!」
「わたしがいたから思いとどまっていられたのだろう!
感謝しろっ✨」
「誰が感謝なんかするか!!💢」
………抱きしめたいと思ってしまったことなど、決して先生には言えない
「まったく……!
いいから帰るぞ、先生っ」
俺は歩きだして、そして空を見上げる
「あ………」
空にかかる大きな虹を見つけて
思わず声が漏れた
「おー!デカイ虹だなぁ
見事だ見事!」
先生も虹を見つけてテンションが上がったのか、ピョンピョン跳ねて喜んでいる
「………綺麗だな…」
野風さん…
あなたもこの虹を見ていますか?
空を見上げ、何を想っていますか…?
「よーし、夏目!!
これから虹見酒だ〜!✨」
「なんだよ、虹見酒って…💦
聞いたことないぞ
てか見るものなくても酒飲んでるじゃないか…!」
「うるさーい!
風流の邪魔をするでない!」
「何が風流だ!💢」
こうして俺は、日常に戻っていく……
この切ない想いを、心の片隅に置いて
「先生〜
早くしないと虹消えちゃうぞー」
〜fin〜