過去編
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「おい萩原、爆薬訓練でお前ふざけたろ」
伊達の怒号が響く。
「ふざけてねぇって!ちょっと火薬多かっただけ!」
「“ちょっと”の基準がバカなんだよ!」
「まぁまぁ、花火みたいで綺麗だったじゃん」
松田がケラケラ笑いながら肩をすくめる。
「お前ら、ほんとに警察官になる気あるのか」
諸伏が苦笑いしている隣で、私はため息をついた。
「訓練中に爆音立てて怒られるとか、もはや伝統芸能だね」
「お前だって昨日、射撃訓練で的に“降谷”って書いてただろ」
「ストレス発散」
「犯罪予備軍だ」
「はぁ!?」
また言い合い。
訓練所の空気は相変わらず賑やかで、笑い声が絶えなかった。本気で喧嘩して、本気で笑って、でも次の瞬間には皆でフォローし合う。そんな日々が、ずっと続くと思ってた。
午後の訓練が終わり、夕暮れ。
校舎の屋上に上がると、オレンジ色の光に包まれた校庭が見えた。風が少し冷たい。制服の襟を直して、フェンスに背中を預ける。下では、萩原と松田がじゃれ合っているのが見えた。声を上げて笑う二人。伊達がそれを止め、諸伏が静かに笑う。
……その少し離れた場所に、降谷が一人、訓練記録を眺めていた。
「真面目だねぇ」
「……仕事だからな」
「まだ仕事じゃないでしょ。訓練」
「訓練も仕事のうちだ」
「相変わらず、融通きかない」
「お前は相変わらず、口が悪い」
「お互い様」
少し沈黙。風が髪を揺らした。彼の横顔は、夕焼けを背にして輪郭が柔らかく見える。不意に、言葉がこぼれた。
「ねぇ、降谷」
「なんだ」
「いつかさ、どっちかが本当に危ない任務につくこともあるかもしれないけど――」
「……」
「その時、どんなことがあっても死なないでよ」
「……は?」
「約束」
「子どもみたいなこと言うな」
「いいじゃん。約束ぐらいしてくれても」
彼は少し黙ってから、息を吐いた。
「お前こそ、無茶はするなよ」
「心配性」
「違う。お前は無茶しかしない」
「うるさい」
「お互い様だ」
少し笑い合う。沈みゆく夕陽が、二人の影を長く伸ばしていた。
「……じゃあ」
「ん?」
「お前が死にそうになったら、俺が助ける」
「へぇ、頼もしいね」
「そう思うなら、感謝しとけ」
「顔だけはいいんだから、ヒーローには向いてるかも」
「“だけ”は余計だ」
「事実」
そんな軽口のあと――彼は少しだけ真面目な顔に戻って、私を見つめた。
「……必ず、生きろ」
「……うん」
その声が、不思議と耳の奥に残った。
遠くで、松田と萩原の騒ぐ声がまた響く。
「おーい降谷ー!お前らいちゃついてんじゃねぇー!」
「いちゃついてない!!」
「またハモった」
「うるさい!!」
笑いながらフェンス越しに叫び返す。
あの夕焼けの色を、私は今でも忘れられない。
――誰も死なない。
――みんな、生きて帰る。
そう信じていた。
だけど現実は、そんな約束をあっさりと裏切る。
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