犬猿の悪友
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朝から空気がやけに冷たい。
緊張と眠気を引きずったまま、私は警察学校の門をくぐった。父には「向いてない」と言われたけど、ここまで来たら意地でもやる。
情報分析は得意だし、対人観察もまぁまぁ。
体力?……聞くな。そんなことを考えていたら、横から声が飛んできた。
「そこの新入り、突っ立ってると邪魔だぞ」
見上げた瞬間、思考が止まる。
ミルクティーみたいな髪、整った顔立ち、琥珀の瞳。
第一印象――顔だけはどストライク。
でも、口が悪い。
「まだ始業前でしょ? 邪魔って何よ」
「入口でぼーっとしてると、教官の餌食だぞ」
「あなたは何様?」
「同期様」
「……は?」
「降谷零。よろしく」
手を差し出されて、反射的に握る。握力、強っ……。
「中村愛実。よろしく……って、痛いんだけど」
「悪い、加減ミスった」
「絶対わざとでしょ」
「まさか」
「まさかって顔してんのよなぁ」
口喧嘩一往復目で、もうわかった。
この男、絶対に性格悪い。
でも――顔がいいのが腹立つ。
「お前ら、そろそろ点呼始まるぞー!」
教官の怒鳴り声に慌てて並ぶ。
隣を見ると、ちゃっかり降谷。
最初から面倒なやつに絡まれた気しかしない。
「中村、また降谷とペアか?」
「“また”って言い方やめてくれない?被害者扱いされてるみたい」
伊達が笑いながら声をかける。訓練ではなぜか毎回降谷と組まされる。射撃でも、格闘でも、救助でも。
「中村、手が甘い」
「そっちこそ、遠慮って言葉知ってる?」
「知ってる。でもお前には不要だ」
「はぁ?!」
後ろで松田と萩原が吹き出した。
「出た出た、犬猿ペア」
「俺、もう賭けしてるわ。どっちが先にブチギレるか」
「いやー、降谷の方が楽しそうじゃね?」
「だな。あの顔、完全にからかって遊んでる」
「降谷、なに笑ってんのよ」
「いや。お前、反応がわかりやすくて飽きないなと思って」
「……殺すぞ」
「暴言。減点だぞ」
「じゃあ“ぶん殴る”でいい?」
「加点対象」
「はぁあああ?!」
そんな日々が続けば、そりゃあもう自然と“犬猿”って呼ばれる。でも、誰よりも近くで訓練を乗り越えて、誰よりもよく喧嘩して、気づけば、視線の先にいつも彼がいた。夜。廊下を歩いていると、背後から声がする。
「おい、中村」
振り向くと、シャツの袖をまくった降谷が立っていた。
「さっきの救助訓練、危なかったぞ」
「また説教?」
「違う。落下物の下に飛び込むな。俺がいなかったら潰れてた」
「……放っとけない性分でね」
「そういうのを“無鉄砲”って言う」
「心配してくれた?」
「してない。ただ……」
言いかけて、ほんの少しだけ視線を逸らす。
「もう、誰かが目の前で死ぬのは見たくないだけだ」
「……そっか」
胸が少しだけ痛んだ。彼も、何かを背負ってる。私と同じように。
「じゃあさ、約束しよ」
「約束?」
「“死ぬなよ”って」
降谷は一瞬きょとんとして、すぐ口角を上げた。
「お前もな」
廊下に夜風が吹き抜けた。
その一瞬だけ、敵でも味方でもない――
“ただの同期”として笑い合えた。
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