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長編「暗黒閉鎖揺籃 東京 偽りの殺人鬼」

プロローグ

 湿ったコンクリートに影があった。影には頭と腕と足があった。影はネオンの光を受けてできたものだった。パンプスを履いた女性の影だった。影は走っていた。つまり女性は夜の街を走っていた。足は遅かった。ベージュのストッキングは伝線していた。黒いスカートを履いていた。腕に何かを抱えていた。何かは布に包まれていた。中身がいっぱいの紙袋も肘にかけていた。女性は息を切らせていた。ファンデーションが汗で浮いていた。パンプスが水たまりを踏んだ。飛沫でストッキングが濡れた。次の一歩がビールの空き缶を蹴っ飛ばした。走る速度が遅くなった。肩を上下させて呼吸を数回繰り返した。深夜の駅は人も疎らだった。入り口をくぐってすぐ左のコインロッカーに向かった。端から端まで視線を滑らせたあと空いているロッカーがないとみて場所を変えた。少し奥へ進んで右のコインロッカーの前に立った。端の方に鍵が刺さったままのロッカーがあった。扉を開けて抱えていたものを押し込んだ。紙袋の中を漁って掴んだ封筒を入れたあと面倒になって紙袋をそのまま中に突っ込んだ。扉を閉めて百円玉を四枚入れ鍵をかけた。それが済んだら足早にその場を離れた。駅から出て少しした地点の細い路地に鍵を投げ込んだ。ちょうど停まったタクシーに乗り込んだ。汗は乾いていたがファンデーションは浮いたままだった。お客さん、どちらまで。自宅近くのバス停に行くよう言って背もたれに身を預けた。
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