きっと、大丈夫だよ。
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side:咲
「全員揃ったようね」
スラリとした綺麗な女の人が、数人の黒いスーツを着た男の人を引き連れて部屋に入ってきた。その女の人は、倉庫に来た人になんとなく似ている。
その人は3m以上ありそうな高いところから私たちを見下ろして、笑顔を浮かべ、両腕を大きく広げた。
「ようこそ、ドリームキングダムへ!ここは我ら在全グループが建設中の世界一のアミューズメントパーク。そして今、我々が探し求めているのは我がグループの会長、在全様の後継者に相応しい逸材。その者こそがすなわちこの国を救うたった1人の王なのです」
ワイン色と黒のドレスを身に纏った、その女性は、そう私たちに語りかけた。
「ドリームキングダム?夢の、王国…?」
後継者が王ってどういうこと?救うってどういう意味?たくさんの疑問符が浮かび上がる。
「ああ、1名、女の子もいたわね。本当は参加させるつもりはなかったのだけれど、仕方ないの。悪く思わないでちょうだい。あなたの場合はそうね、女王ってところかしら?」
女の人が私を見てウインクした。女性の下の方にいる人たちからの視線を浴びて居心地が悪くなる。思わず私はお兄の背に隠れた。
「よくわかんないけど、この中から王を選ぶってこと?」
スナオさんが呟いた。
「集まってる顔ぶれからすると、とてもそうは思えないけど」
首を左右に振りながら、ヒロシさんが応える。
「それを言ったら僕たちだって、なっ?」
「僕たちが、王…」
冗談めかしてスナオさんがチカラさんに話を振るも、チカラさんはうっとりとした表情をしていた。王になれるかもしれないことへの期待が大きいようだ。
「いい?これはあなたたちの人生に起きた奇跡なの。総資産100兆円の在全グループの後継者という、二度と訪れることのない最初で最後のビッグチャンス。今から始まるのはその王への選抜試験」
『試験』という言葉に、室内にいる人たちからざわめきが起こった。
「もちろん契約金は弾むわ。最後まで勝ち残った人間、すなわちたった1人の後継者。王となるべき人物には――」
女の人はそこで言葉を切ると、部屋の隅にいる黒服の男の人に頷いて、何か合図を送った。
すると今まで目の前にあった、四角い物体を覆っていた白い布が勢いよくめくられた。
現れたのは、黒い柵に囲われた札束の山。
綺麗に積み重ねられた大量の札束に誰もが目を丸くした。
「1000億円よ!!!!」
その女性は大げさに両手を広げて声高らかにそう言った。
おそらく今まで見たこともない大金に、室内にいたほとんどの人がうおおおっと叫びながら一斉に札束に群がった。
その声にびくりと肩を震わせて、咄嗟にお兄の腕を掴む。
柵の前に立っていた黒服の男の人たちは、参加者たちをそれ以上近づかせないよう抑えている。
「い、いっ、せんお、く…って」
「いくらくらいなんですかねえ…」
「さああ…?」
ヒロシさん、チカラさん、スナオさんが1000億という大金に実感が沸いていないようだった。
「んーと、海上自衛隊の艦艇…イージス艦1隻分くらい?」
「それだとちょっとオーバーだな。迎撃ミサイル1基分くらいですかね」
私の答えをお兄が訂正した。
「よくパッと出てくるよな…っていうか咲ちゃんまで詳しいんだな」
「たまたまですよ!だいぶ前ですが、テレビでやってたんです。自衛隊のお仕事とその経費について、みたいなものが」
「へえ~」
ヒロシさんが感心したような声を出した。
「え、で、でも、毎日1000万くらい使っても、一生遊んで暮らせますよねえ!」
チカラさんが興奮したように言った。
「どうなんです?」
「毎日1000万使って1万日ですよね…」
言いながら、う~ん、と私は考えた。でも、お兄の方が断然計算が早かった。
「ああ、残念ですが、30年後はまだ50代ですね」
「もう少し夢見させてくださいよお」
お兄が現実的な答えを出すと、チカラさんが膨れてしまった。
「い、いや、そんなのありえないし、帰ろう」
胃のあたりを押さえながら、ヒロシさんは出口に向かう。
「じゃあ1日の生活費をいくらに設定しますか?」
「俺の話聞いてる?」
スナオさんの言葉に、ヒロシさんがツッコミを入れながら戻ってきた。
「だからそういう現実的な話は…」
「おおい!」
チカラさんの言葉は続かなかった。派手な花柄のシャツを羽織った男の人が、思いっきりチカラさんの背中を叩いたようで、チカラさんは盛大にむせ込んだ。ものすごい声だった。ゔぉおえって言ったよ。大丈夫かな?
「ついてるなこりゃあ!こんなチャンス、お前らに痛い目に合わせられたからだな!」
チカラさんの肩に腕を回して体を反らせ、ガハハハハっと豪快に笑った。チカラさんも巻き込まれてる。
「お、お知り合いですか?」
ヒロシさんに聞いた。
「さっき話した、振り込め詐欺の首謀者のヤクザのおっさんだよ」
「へ?ヤクザ…?」
まじまじと、その人を見てしまった。すごく陽気なおじさんのようにしか見えない…。ヤクザって、もっと厳つくて、怖いイメージがあるんだけど…。とてもヤクザには見えなかった。
「ん?嬢ちゃん、さっきあの女が言ってた女の子か?こいつらとどんな関係なんだ?」
「あ、はい、えっと、う、宇海零の妹です。咲と、申します…」
お兄を指し示して、ぺこりと頭を下げた。
「こいつの妹か!俺ぁ末崎さくらってんだ。よろしくな、嬢ちゃん」
「ど、どうも」
にかっと笑った、テンションの高い末崎さんに苦笑する。本当にヤクザなのか疑ってしまう。
「咲ちゃん、こんなやつに頭下げなくていいよ」
ヒロシさんが腕を引っ張って、末崎さんから離した。
「そうですよ、ここに来る前は僕たちのこと消そうとしてたんですから!」
肩を掴まれていたチカラさんもようやく解放されて、末崎さんから距離を取った。
「えっ!?消すって…」
物騒なワードに過剰に反応してしまった。
「5000万盗んだことがバレて捕まってた時、この人、鉄パイプ振りかざしたんだ。まあ、零が助けてくれたけど…」
スナオさんが私のそばに寄って、末崎さんをちょっと睨んで言った。
「まあなんだ。あんたの兄貴たちには酷い目に遭わされたが、この際どうでもいい。なんたって、1000億手に入るかもしれないんだからなあ!」
またガハハハと末崎さんは笑った。
「浮かれやがって…」
末崎さんの笑い声を聞いて、長身で銀髪、少し強面で低い声の男性が呆れたように鼻で笑いながら近づいてきた。
「勝てば100兆円使える話だろ?1000億円なんて1000分の1、たった0.1%じゃないか」
チカラさんたちから、乾いた笑い声が漏れる。馬鹿にしたような言い方だけど、確かにその通りだ。
「お前はいつもそうやって話の腰を折るな!」
末崎さんが突っかかった。そしてそのまま、俺にも触らせろ!っと言って、札束の方へ駆けて行ってしまった。
「いつも?」
「あれは、末崎セイギって言って、さっきのおっさんの弟」
また知り合いかなと思っていたら、ヒロシさんがこそっと教えてくれた。
「え…」
弟さん、なんだ…。でも、全然似てないなあ…。
性格も雰囲気も正反対な印象を受けた。ちょっと驚いて見ていると、銀髪の男性――セイギさんと目がかち合った。
「あんたか、たった1人の女ってのは」
片方の口角を器用に上げて、ニヤリと笑みを浮かべた男性。スナオさんほどではないが、それでもかなり背の高いその男の人は威圧感がある。スナオさんはほわほわしてて優しい雰囲気だけど、その人は挑発的な目をしていてちょっと怖い。
「ええ、そうですけど…」
返事をすると、「ふ~ん、まあ、せいぜい頑張れよ」と怪しい笑みを浮かべながら言った。
何やら上から物を言うようなその人に、思わずちょっとムッとしてしまった。なんか、嫌な感じの人だなあ…。
「でも……1000億円は、1000億円ですよね」
お兄が呟いた。さっきのセイギさんの、”たった0.1%”っていう話に引っかかっていたみたい。
「…何が言いたい?」
「使い方次第で毒にも薬にもなる」
答えたお兄をセイギさんがじっと見据えた。
「これが一点の曇りもない、本当の話だったらね」
そこへ、また1人、誰かが近づいてきた。セイギさんと歳の近そうな、茶髪の若い男性だった。彼はにこにこ笑いながら言葉を続ける。
「最初は何事も疑ってかかるタチなんで。それに1000億を餌に誰かの下で働かされんのはちょっとね」
そう言って、札束に群がる男性たちへ視線を移した。
「俺もだ。つまり、現実打ち破って最短で理想にたどり着きたい」
セイギさんが言った。
「理想って?」
「金から自由になれるくらいの金を掴むこと」
「気が合うねえ」
笑顔で茶髪の男性が手を差し出すと、セイギさんはその手を一瞥してから取り、2人は握手を交わした。
2人を眺めていると、茶髪の男性ははこちらに視線を移した。
「あー!ねえ、女の子って君のことだね?」
茶髪の男性が私を見て大げさに声をあげて、笑顔で近づいてくる。
「氷川ユウキ。よろしくね。君は?」
可愛らしい顔をしたその人は、私にも握手を求めてきた。この1時間くらいのうちに3回目となる自己紹介をする。
「えっと、宇海咲です」
鼻と頬にあるほくろが彼の可愛らしさをさらに引き立てている気がする。笑みを浮かべるユウキさんに癒されながら、私は手を握り返した。
「咲ちゃんか~可愛い名前だねえ。咲ちゃんはいくつなの?」
そのまま私の隣で話し続けるユウキさん。ユウキさんも背が高いなあ。
「19です。ユウキさんは?」
「僕は23だよ。咲ちゃん若いな~」
「ユウキさんだって十分若いじゃないですか」
「10代と20代の差は埋められないんだよ」
「何ですかそれ」
大げさに肩を落としてため息をついたユウキさんに、思わずくすくす笑ってしまった。
しばらくユウキさんと他愛もないお話をしていると、ユウキさんは私の向こう側を見ながら、パーカーの袖を引っ張った。
「ねえねえ咲ちゃん、さっきからあの人見てるんだけど。もしかして咲ちゃんの彼氏だったりする?」
「へ?」
ユウキさんの視線の先を見ると、お兄がちらちらと私たちを見ていた。
その隣では、チカラさんたちが1日いくら使うか計算しようとしているところだった。
「お兄……あ、えっと、私の兄ですよ」
「へえ、そうなんだ」
ユウキさんが笑みを深くしたように見えた。
「君のお兄ちゃん、僕と咲ちゃんが話してるの気になるみたいだから、僕はセイギくんのところに戻るね」
またね、と言って手を振って、セイギさんのところへ行ってしまった。ユウキさんはセイギさんに何かを耳打ちしている。
なんだろう?と首を傾げていると、私の視線に気づいたユウキさんはこちらに向かってニコッと笑った。つられて私も微笑んでしまった。
「全員揃ったようね」
スラリとした綺麗な女の人が、数人の黒いスーツを着た男の人を引き連れて部屋に入ってきた。その女の人は、倉庫に来た人になんとなく似ている。
その人は3m以上ありそうな高いところから私たちを見下ろして、笑顔を浮かべ、両腕を大きく広げた。
「ようこそ、ドリームキングダムへ!ここは我ら在全グループが建設中の世界一のアミューズメントパーク。そして今、我々が探し求めているのは我がグループの会長、在全様の後継者に相応しい逸材。その者こそがすなわちこの国を救うたった1人の王なのです」
ワイン色と黒のドレスを身に纏った、その女性は、そう私たちに語りかけた。
「ドリームキングダム?夢の、王国…?」
後継者が王ってどういうこと?救うってどういう意味?たくさんの疑問符が浮かび上がる。
「ああ、1名、女の子もいたわね。本当は参加させるつもりはなかったのだけれど、仕方ないの。悪く思わないでちょうだい。あなたの場合はそうね、女王ってところかしら?」
女の人が私を見てウインクした。女性の下の方にいる人たちからの視線を浴びて居心地が悪くなる。思わず私はお兄の背に隠れた。
「よくわかんないけど、この中から王を選ぶってこと?」
スナオさんが呟いた。
「集まってる顔ぶれからすると、とてもそうは思えないけど」
首を左右に振りながら、ヒロシさんが応える。
「それを言ったら僕たちだって、なっ?」
「僕たちが、王…」
冗談めかしてスナオさんがチカラさんに話を振るも、チカラさんはうっとりとした表情をしていた。王になれるかもしれないことへの期待が大きいようだ。
「いい?これはあなたたちの人生に起きた奇跡なの。総資産100兆円の在全グループの後継者という、二度と訪れることのない最初で最後のビッグチャンス。今から始まるのはその王への選抜試験」
『試験』という言葉に、室内にいる人たちからざわめきが起こった。
「もちろん契約金は弾むわ。最後まで勝ち残った人間、すなわちたった1人の後継者。王となるべき人物には――」
女の人はそこで言葉を切ると、部屋の隅にいる黒服の男の人に頷いて、何か合図を送った。
すると今まで目の前にあった、四角い物体を覆っていた白い布が勢いよくめくられた。
現れたのは、黒い柵に囲われた札束の山。
綺麗に積み重ねられた大量の札束に誰もが目を丸くした。
「1000億円よ!!!!」
その女性は大げさに両手を広げて声高らかにそう言った。
おそらく今まで見たこともない大金に、室内にいたほとんどの人がうおおおっと叫びながら一斉に札束に群がった。
その声にびくりと肩を震わせて、咄嗟にお兄の腕を掴む。
柵の前に立っていた黒服の男の人たちは、参加者たちをそれ以上近づかせないよう抑えている。
「い、いっ、せんお、く…って」
「いくらくらいなんですかねえ…」
「さああ…?」
ヒロシさん、チカラさん、スナオさんが1000億という大金に実感が沸いていないようだった。
「んーと、海上自衛隊の艦艇…イージス艦1隻分くらい?」
「それだとちょっとオーバーだな。迎撃ミサイル1基分くらいですかね」
私の答えをお兄が訂正した。
「よくパッと出てくるよな…っていうか咲ちゃんまで詳しいんだな」
「たまたまですよ!だいぶ前ですが、テレビでやってたんです。自衛隊のお仕事とその経費について、みたいなものが」
「へえ~」
ヒロシさんが感心したような声を出した。
「え、で、でも、毎日1000万くらい使っても、一生遊んで暮らせますよねえ!」
チカラさんが興奮したように言った。
「どうなんです?」
「毎日1000万使って1万日ですよね…」
言いながら、う~ん、と私は考えた。でも、お兄の方が断然計算が早かった。
「ああ、残念ですが、30年後はまだ50代ですね」
「もう少し夢見させてくださいよお」
お兄が現実的な答えを出すと、チカラさんが膨れてしまった。
「い、いや、そんなのありえないし、帰ろう」
胃のあたりを押さえながら、ヒロシさんは出口に向かう。
「じゃあ1日の生活費をいくらに設定しますか?」
「俺の話聞いてる?」
スナオさんの言葉に、ヒロシさんがツッコミを入れながら戻ってきた。
「だからそういう現実的な話は…」
「おおい!」
チカラさんの言葉は続かなかった。派手な花柄のシャツを羽織った男の人が、思いっきりチカラさんの背中を叩いたようで、チカラさんは盛大にむせ込んだ。ものすごい声だった。ゔぉおえって言ったよ。大丈夫かな?
「ついてるなこりゃあ!こんなチャンス、お前らに痛い目に合わせられたからだな!」
チカラさんの肩に腕を回して体を反らせ、ガハハハハっと豪快に笑った。チカラさんも巻き込まれてる。
「お、お知り合いですか?」
ヒロシさんに聞いた。
「さっき話した、振り込め詐欺の首謀者のヤクザのおっさんだよ」
「へ?ヤクザ…?」
まじまじと、その人を見てしまった。すごく陽気なおじさんのようにしか見えない…。ヤクザって、もっと厳つくて、怖いイメージがあるんだけど…。とてもヤクザには見えなかった。
「ん?嬢ちゃん、さっきあの女が言ってた女の子か?こいつらとどんな関係なんだ?」
「あ、はい、えっと、う、宇海零の妹です。咲と、申します…」
お兄を指し示して、ぺこりと頭を下げた。
「こいつの妹か!俺ぁ末崎さくらってんだ。よろしくな、嬢ちゃん」
「ど、どうも」
にかっと笑った、テンションの高い末崎さんに苦笑する。本当にヤクザなのか疑ってしまう。
「咲ちゃん、こんなやつに頭下げなくていいよ」
ヒロシさんが腕を引っ張って、末崎さんから離した。
「そうですよ、ここに来る前は僕たちのこと消そうとしてたんですから!」
肩を掴まれていたチカラさんもようやく解放されて、末崎さんから距離を取った。
「えっ!?消すって…」
物騒なワードに過剰に反応してしまった。
「5000万盗んだことがバレて捕まってた時、この人、鉄パイプ振りかざしたんだ。まあ、零が助けてくれたけど…」
スナオさんが私のそばに寄って、末崎さんをちょっと睨んで言った。
「まあなんだ。あんたの兄貴たちには酷い目に遭わされたが、この際どうでもいい。なんたって、1000億手に入るかもしれないんだからなあ!」
またガハハハと末崎さんは笑った。
「浮かれやがって…」
末崎さんの笑い声を聞いて、長身で銀髪、少し強面で低い声の男性が呆れたように鼻で笑いながら近づいてきた。
「勝てば100兆円使える話だろ?1000億円なんて1000分の1、たった0.1%じゃないか」
チカラさんたちから、乾いた笑い声が漏れる。馬鹿にしたような言い方だけど、確かにその通りだ。
「お前はいつもそうやって話の腰を折るな!」
末崎さんが突っかかった。そしてそのまま、俺にも触らせろ!っと言って、札束の方へ駆けて行ってしまった。
「いつも?」
「あれは、末崎セイギって言って、さっきのおっさんの弟」
また知り合いかなと思っていたら、ヒロシさんがこそっと教えてくれた。
「え…」
弟さん、なんだ…。でも、全然似てないなあ…。
性格も雰囲気も正反対な印象を受けた。ちょっと驚いて見ていると、銀髪の男性――セイギさんと目がかち合った。
「あんたか、たった1人の女ってのは」
片方の口角を器用に上げて、ニヤリと笑みを浮かべた男性。スナオさんほどではないが、それでもかなり背の高いその男の人は威圧感がある。スナオさんはほわほわしてて優しい雰囲気だけど、その人は挑発的な目をしていてちょっと怖い。
「ええ、そうですけど…」
返事をすると、「ふ~ん、まあ、せいぜい頑張れよ」と怪しい笑みを浮かべながら言った。
何やら上から物を言うようなその人に、思わずちょっとムッとしてしまった。なんか、嫌な感じの人だなあ…。
「でも……1000億円は、1000億円ですよね」
お兄が呟いた。さっきのセイギさんの、”たった0.1%”っていう話に引っかかっていたみたい。
「…何が言いたい?」
「使い方次第で毒にも薬にもなる」
答えたお兄をセイギさんがじっと見据えた。
「これが一点の曇りもない、本当の話だったらね」
そこへ、また1人、誰かが近づいてきた。セイギさんと歳の近そうな、茶髪の若い男性だった。彼はにこにこ笑いながら言葉を続ける。
「最初は何事も疑ってかかるタチなんで。それに1000億を餌に誰かの下で働かされんのはちょっとね」
そう言って、札束に群がる男性たちへ視線を移した。
「俺もだ。つまり、現実打ち破って最短で理想にたどり着きたい」
セイギさんが言った。
「理想って?」
「金から自由になれるくらいの金を掴むこと」
「気が合うねえ」
笑顔で茶髪の男性が手を差し出すと、セイギさんはその手を一瞥してから取り、2人は握手を交わした。
2人を眺めていると、茶髪の男性ははこちらに視線を移した。
「あー!ねえ、女の子って君のことだね?」
茶髪の男性が私を見て大げさに声をあげて、笑顔で近づいてくる。
「氷川ユウキ。よろしくね。君は?」
可愛らしい顔をしたその人は、私にも握手を求めてきた。この1時間くらいのうちに3回目となる自己紹介をする。
「えっと、宇海咲です」
鼻と頬にあるほくろが彼の可愛らしさをさらに引き立てている気がする。笑みを浮かべるユウキさんに癒されながら、私は手を握り返した。
「咲ちゃんか~可愛い名前だねえ。咲ちゃんはいくつなの?」
そのまま私の隣で話し続けるユウキさん。ユウキさんも背が高いなあ。
「19です。ユウキさんは?」
「僕は23だよ。咲ちゃん若いな~」
「ユウキさんだって十分若いじゃないですか」
「10代と20代の差は埋められないんだよ」
「何ですかそれ」
大げさに肩を落としてため息をついたユウキさんに、思わずくすくす笑ってしまった。
しばらくユウキさんと他愛もないお話をしていると、ユウキさんは私の向こう側を見ながら、パーカーの袖を引っ張った。
「ねえねえ咲ちゃん、さっきからあの人見てるんだけど。もしかして咲ちゃんの彼氏だったりする?」
「へ?」
ユウキさんの視線の先を見ると、お兄がちらちらと私たちを見ていた。
その隣では、チカラさんたちが1日いくら使うか計算しようとしているところだった。
「お兄……あ、えっと、私の兄ですよ」
「へえ、そうなんだ」
ユウキさんが笑みを深くしたように見えた。
「君のお兄ちゃん、僕と咲ちゃんが話してるの気になるみたいだから、僕はセイギくんのところに戻るね」
またね、と言って手を振って、セイギさんのところへ行ってしまった。ユウキさんはセイギさんに何かを耳打ちしている。
なんだろう?と首を傾げていると、私の視線に気づいたユウキさんはこちらに向かってニコッと笑った。つられて私も微笑んでしまった。