きっと、大丈夫だよ。
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side:咲
「お兄!」
玄関を出ようとする兄を呼び止めた。お兄が振り返る。
ちょっと大きな白いTシャツの裾をぎゅっと握りしめて、私は右手の小指を立てて、腕をまっすぐ兄に向けて伸ばした。
「約束だからね」
ちゃんと帰ってきてね。
お兄は笑って、私と同じように、立てた小指をこちらに向けた。子供の頃からお兄とした、小指を絡めない、私たちの指切り。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
パタンと閉じられた玄関の前で、私はしばらく立ち尽くして扉を見つめていた。
送り出したはいいものの、私の胸はざわついていた。なぜかはわからないけれど、お兄はこのまま帰ってこないんじゃないかって、このまま会えなくなっちゃうんじゃないかって、得体の知れない不安に襲われた。
根拠のないそれはただの勘。もしかしたら思い過ごしで杞憂に終わるかもしれない。それならいいんだ。でも、違っていたら?
私は急いでリビングに戻った。ほったらかしにしていたサラダのボウルにラップをして、鍋と一緒に冷蔵庫に入れる。
その足で部屋へ駆けて紺色のパーカーを羽織ると、スマホと少しのお金を持って家を飛び出した。
まだそう遠くへは行っていないはず。
大通りまで全速力で走って、なんとかその姿を見つけた。いつものベストを着た兄は、ちょうどタクシーに乗るところだった。
待って、待って、車に乗ったら追いつけない。見失っちゃう!
するとタイミングよく、私のいる道路側にもタクシーが近づいて来た。迷わず手を挙げて、タクシーを止める。
「あそこにいる、あのタクシーを追ってください!!!」
まさか自分が刑事ドラマで耳にするような台詞を言うことになるとは思ってもいなかった。
訝しげに運転手さんからミラー越しに見られたけれど気にしない。運転手さんは何も聞かずに頼んだ通りに車を進めてくれた。
お兄を追って辿り着いた場所は、大きな倉庫のようなところだった。
車が2台止まっている。
近くに茂みがあったから、そこにひとまず隠れて、様子を伺う。
倉庫からは微かに明かりが漏れている。ということは、誰かいるってことだ。きっとお兄もこの中にいるはず。
でも、こんなところでいったい何を…?
もう少し近づいて、中の様子を窺おうとした時、1台の黒塗りの高そうな車がやって来た。私は慌てて茂みに体を引っ込めた。
その車から出て来たのは、黒いスーツを着た4、5人の男の人と、スラッとした女性と、車椅子に乗った年配の男性だった。
目を細めて、茂みからじーっとのぞく。
なんなの?あの人たち…。
彼らは車椅子を押しながら、ぞろぞろと倉庫の中に入って行った。
虫に刺されながら、茂みで息をひそめること数分。
「出てきた…!」
さっきの黒服の人たちの後ろから、お兄も出てきた。やっぱりここにいたんだ。でも、その後ろにいる人たちは誰だろう。5人の知らない男の人たちも一緒だった。
「早く乗れ」
そんな男の人の声が聞こえた。
お兄たちは、時々背中を押されたり、腕を引っ張られたりしながら、半ば強引に車に乗せられていく。
最後に小柄な男性を押し入れると、黒いスーツを着た男の人がドアを閉めて、あたりを警戒するように顔を左右に動かした。
「え、うそ…これって、誘拐…?」
咄嗟にポケットからスマホを取り出して、110番通報をしようとした。
だけど、できなかった。
「ひゃっ!」
110とタップして、発信ボタンを押そうとしたその時、突然後ろから伸びてきた手によってそれは阻まれた。誰かに右手を掴まれたんだ。
嘘、見つかった!?
「お前は誰だ」
ばっと振り向けば、長身の男の人が、鋭い目つきで私を睨みつけていた。
「そ、そっちこそ、誰なんですか?痛っ、離してください!」
強い力で引かれ、痛みに顔を歪める。
「私の大事な家族をどこに連れて行くつもりですか!?離して、離して!」
「あいつらの関係者か」
その男の人は目を細めた。
私は黒服の男の人をキッと睨みつけたが、全く効果はなかった。フンと鼻で笑った男の人は、インカムに人差し指と中指を当てた。
「青田です。申し訳ありません、挑戦者を車に乗せるところを女に見られてしまいました。少々威勢のいい小娘です。ええ、それが…どうやら先程の誰かの血縁者のようです。いかがいたしましょう」
掴まれた腕はびくともしない。
私はこの後の展開を考えた。ドラマや映画のようにどこかに連れていかれるのか、口封じに殺されてしまうのか、はたまた売り飛ばされてしまうのか…。
どっどっどっ…と心臓が忙しなく音を立てる。
「……承知しました」
そう言って耳元から手を離した男は、未だ掴んだままの私の腕を力任せに引いて背中に回させ、身動きを取れないように固められた。
「いっ!いった…!なにするん……」
抗議の声は最後まで続かなかった。指を揃えた手が振りかぶられる。
ガッと首に鈍い痛みが走ったかと思うと、私の意識はそこで途切れた。
「お兄!」
玄関を出ようとする兄を呼び止めた。お兄が振り返る。
ちょっと大きな白いTシャツの裾をぎゅっと握りしめて、私は右手の小指を立てて、腕をまっすぐ兄に向けて伸ばした。
「約束だからね」
ちゃんと帰ってきてね。
お兄は笑って、私と同じように、立てた小指をこちらに向けた。子供の頃からお兄とした、小指を絡めない、私たちの指切り。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
パタンと閉じられた玄関の前で、私はしばらく立ち尽くして扉を見つめていた。
送り出したはいいものの、私の胸はざわついていた。なぜかはわからないけれど、お兄はこのまま帰ってこないんじゃないかって、このまま会えなくなっちゃうんじゃないかって、得体の知れない不安に襲われた。
根拠のないそれはただの勘。もしかしたら思い過ごしで杞憂に終わるかもしれない。それならいいんだ。でも、違っていたら?
私は急いでリビングに戻った。ほったらかしにしていたサラダのボウルにラップをして、鍋と一緒に冷蔵庫に入れる。
その足で部屋へ駆けて紺色のパーカーを羽織ると、スマホと少しのお金を持って家を飛び出した。
まだそう遠くへは行っていないはず。
大通りまで全速力で走って、なんとかその姿を見つけた。いつものベストを着た兄は、ちょうどタクシーに乗るところだった。
待って、待って、車に乗ったら追いつけない。見失っちゃう!
するとタイミングよく、私のいる道路側にもタクシーが近づいて来た。迷わず手を挙げて、タクシーを止める。
「あそこにいる、あのタクシーを追ってください!!!」
まさか自分が刑事ドラマで耳にするような台詞を言うことになるとは思ってもいなかった。
訝しげに運転手さんからミラー越しに見られたけれど気にしない。運転手さんは何も聞かずに頼んだ通りに車を進めてくれた。
お兄を追って辿り着いた場所は、大きな倉庫のようなところだった。
車が2台止まっている。
近くに茂みがあったから、そこにひとまず隠れて、様子を伺う。
倉庫からは微かに明かりが漏れている。ということは、誰かいるってことだ。きっとお兄もこの中にいるはず。
でも、こんなところでいったい何を…?
もう少し近づいて、中の様子を窺おうとした時、1台の黒塗りの高そうな車がやって来た。私は慌てて茂みに体を引っ込めた。
その車から出て来たのは、黒いスーツを着た4、5人の男の人と、スラッとした女性と、車椅子に乗った年配の男性だった。
目を細めて、茂みからじーっとのぞく。
なんなの?あの人たち…。
彼らは車椅子を押しながら、ぞろぞろと倉庫の中に入って行った。
虫に刺されながら、茂みで息をひそめること数分。
「出てきた…!」
さっきの黒服の人たちの後ろから、お兄も出てきた。やっぱりここにいたんだ。でも、その後ろにいる人たちは誰だろう。5人の知らない男の人たちも一緒だった。
「早く乗れ」
そんな男の人の声が聞こえた。
お兄たちは、時々背中を押されたり、腕を引っ張られたりしながら、半ば強引に車に乗せられていく。
最後に小柄な男性を押し入れると、黒いスーツを着た男の人がドアを閉めて、あたりを警戒するように顔を左右に動かした。
「え、うそ…これって、誘拐…?」
咄嗟にポケットからスマホを取り出して、110番通報をしようとした。
だけど、できなかった。
「ひゃっ!」
110とタップして、発信ボタンを押そうとしたその時、突然後ろから伸びてきた手によってそれは阻まれた。誰かに右手を掴まれたんだ。
嘘、見つかった!?
「お前は誰だ」
ばっと振り向けば、長身の男の人が、鋭い目つきで私を睨みつけていた。
「そ、そっちこそ、誰なんですか?痛っ、離してください!」
強い力で引かれ、痛みに顔を歪める。
「私の大事な家族をどこに連れて行くつもりですか!?離して、離して!」
「あいつらの関係者か」
その男の人は目を細めた。
私は黒服の男の人をキッと睨みつけたが、全く効果はなかった。フンと鼻で笑った男の人は、インカムに人差し指と中指を当てた。
「青田です。申し訳ありません、挑戦者を車に乗せるところを女に見られてしまいました。少々威勢のいい小娘です。ええ、それが…どうやら先程の誰かの血縁者のようです。いかがいたしましょう」
掴まれた腕はびくともしない。
私はこの後の展開を考えた。ドラマや映画のようにどこかに連れていかれるのか、口封じに殺されてしまうのか、はたまた売り飛ばされてしまうのか…。
どっどっどっ…と心臓が忙しなく音を立てる。
「……承知しました」
そう言って耳元から手を離した男は、未だ掴んだままの私の腕を力任せに引いて背中に回させ、身動きを取れないように固められた。
「いっ!いった…!なにするん……」
抗議の声は最後まで続かなかった。指を揃えた手が振りかぶられる。
ガッと首に鈍い痛みが走ったかと思うと、私の意識はそこで途切れた。