きっと、大丈夫だよ。
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side:咲
生き延びることができた私たちは、予選会場を出るところだった。
『何が義賊だ…この、偽善者が』
セイギさんの地を這うような低い声が耳に残っている。
チカラさんを利用して人を寄せ付けず、自分たちだけ助かろうとしていたセイギさんとユウキさん。
そのチカラさんを、お兄が自分の身を危険に晒してまで助けた行為が相当気に入らなかったみたいだ。
どうしてそこまでするのか、なんて聞くのは野暮だ。だって、お兄だから。お兄はそういう人だから。
結局お兄は失格を免れた。在全さんがお兄を残せって言ってたらしい。その意図はわからなかったけれど。
『王って何ですか?』
お兄が女の人——後で知ったけど、後藤峰子さんというらしい——に聞いていた。
人間の弱さに付け込み弄ぶ、悪意に満ちたこのゲームをどこかで眺めながら楽しんでいる、それが王なのかと。
それに対して峰子さんはこう言った。
古今東西、王というのは犠牲を糧に時代を前に押し進めていく人間。その清濁併せ持った人間こそが真の王なのだ、と。
それを聞いてお兄は戦うことを決意したんだ。本当の王とは峰子さんたちが思っているようなものではないと証明するために。
それはお兄の宣戦布告だった。
「咲?どうした?」
「…え?」
お兄の声で私は顔を上げて立ち止まった。あれ、私俯いてたんだ。手に持っていたブランケットを落としそうになった。急遽参加することになって足りないだろうと、峰子さんが渡してくれたものだ。
ついさっきの出来事を思い出してたら、浮かない顔をしてたみたい。
「気分でも悪い?」
「さっきのやばかったもんな」
気づけば、スナオさんとヒロシさんもこちらを見ていた。そこにチカラさんの姿はなかった。
私たちより先に会場を出て、どこかへ行ってしまった。
「ううん、大丈夫です!あ、あれでしょうか?」
私が指差した方に、みんなが視線を向ける。
指示を受けて芝生の広場のようなところに向かっていた私たち。そこには言われていた通り、テントが2つあった。1つはすでに明かりがついている。セイギさんたちだろうか。
「あれ?もしかして咲ちゃんも俺たちのテント?」
ヒロシさんに聞かれた。
「はい!あ、ごめんなさい、お兄がいるから一緒がいいなって思ったんですけど…今からでも、もう1つ増やしてもらうように頼んで――」
「いいよ!一緒で!うん、そうしよう!もちろん、全然問題ない!!」
スナオさんがよくわからないテンションの高さで、全力で同じテントを勧めてくれた。しかもすごい笑顔だ。
女が一緒だと気を遣わせちゃうかなって思ったけど、もしかしたら喜んでくれてるのかな?もしそうなら私も嬉しい。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
笑って、ぺこりと頭を下げた。なぜかスナオさんも深々とお辞儀した。
そうそう、夕飯は、各自、このドリームキングダムの中にある倉庫から調達しなきゃいけなかった。
でも、探してこれたのは、餃子だけ。
「できましたよ!」
フライパンの蓋を開けてちゃんと焼けたのを確認して、私は言った。
「何で王の候補の食事が餃子だけなんです…?ライスもスープもないなんて…」
「宿だって…目の前にホテルあるのに何でテントなんだよ…」
スナオさんもヒロシさんも不服そうだ。
「贅沢言わないでくださいよ」
お兄はそう言いながら、餃子の入った袋をスナオさんたちに見せた。
「『世界の餃子王』。在全グループの餃子チェーンのですね」
「あ、これ、100個に1個、中身がチョコなんですよね」
スナオさんがキラキラした笑顔で言った。
「そうなの!?だったら俺がもらう」
「僕だって食べたいですよ」
2人は私が見るフライパンに近寄った。
「あ、それはお兄が…」
私が言った時、お兄は隣でも火をつけていたもう1つのフライパンの元へ移動した。
お兄が蓋を開けると、そこで餃子が1個だけ焼かれていた。これがチョコ入りだって分かったんだって。
目には見えない部分を想像して考える力。すなわち思考力によってその1個が分かったっていうんだけど…私にはわからなかった。
しかもお兄ったら、「消えかけた蝋燭がもう一度燃えるために、清新な空気、淀んでない流れ、清風、風穴が必要なように、疲弊した脳をもう一度動かすためには、清新な糖質、淀んでないブドウ糖、チョコが必要なんです」なんて力説して、みんながポカンってしてる間に半分食べちゃった。
「んん、うまい!」
「えーい!残りはもらったああ!」
だから、半分残ってたその餃子を、お兄の手から奪い取ってやった。
「ちょ、咲!」
「ああああ咲ちゃんずるい!!」
「私も脳が疲れてます、私にも食べる権利はあると思うんです!」
なんてもぐもぐしながら言った。
「おいしい…」
頬が緩む。甘いものは疲れた時に一番だよね。
そんな私を見てお兄たちは呆れたような困ったような顔をしながら笑っていた。
「そういえば、チカラさんは?」
お兄が思い出したように言った。
「さすがに顔出しにくいんだろ、あんな奴でも」
ヒロシさんがそう口にした時だった。
「あんな奴っていうのは、建設現場忍び込んでこういうの探してくるような奴ですか?」
「チカラさん!」
テントに入ってきたチカラさんは、その手に黒いスニーカを持っていた。
「がめてきました」
ニヤリと笑みを浮かべて、お兄に手渡すチカラさん。
「サンダル、鉄球に潰されちゃいましたから…僕のせいで…」
お兄に突っかかってしまったお詫びの気持ちと、助けられたお礼なのかもしれない。
騙されやすくて、お調子者で、自分のことを一番に考えちゃうところがあるチカラさんだけど、もしかしたら、とっても仲間思いの人なのかもしれない。
「かなりボロいですね」
お兄は靴を眺めて言った。
「贅沢言わないでくださいよお」
「ありがとう」
「…どういたしまして、心の友」
チカラさんがそう言った瞬間、私も、お兄も、ヒロシさんもスナオさんも笑顔になった。スナオさんとヒロシさんが、チカラさんをからかっている。
鉄球サークルでちょっと喧嘩しちゃったけど、2人とも、チカラさんが戻ってきてくれたことが嬉しかったんじゃないかな。私だって嬉しいもん。
会ったばかりで3人のことはまだまだ知らないことだらけだけれど、一緒に1つのゲームを勝ち抜いたことで、少しだけ心の距離が縮まったような気がした。
「咲」
「ん?なあに、お兄?」
みんなで餃子を食べたあと、ささっとシャワーを済ませて(なんかすっごい高そうなシャンプーとコンディショナー使わせてもらっちゃった!)寝床の準備をしていた。
名前を呼ばれて振り返ると、お兄は私の頭に手をおいた。
「…ごめんな、咲の大事な誕生日、潰しちゃって」
兄ちゃんを許してくれ、とお兄は言った。
「え……ああああ!そうだ、私今日、誕生日だったんだ!!」
いろんなことがありすぎて、すっかりすっぽり頭の中から抜けていた。もしかしたらもう、日付は変わっているかもしれないけれど。
「咲ちゃん誕生日なの!?」
スナオさんの驚きようはすごかった。そのあとすぐ、おめでとうって笑って言ってくれた。
「わーー!お誕生日おめでとうございます、咲氏ー!」
チカラさんは胸の前あたりで、パチパチパチって拍手してくれている。
「おめでとう、咲ちゃん。ああー…散々な誕生日になっちゃったかもしれないけど…」
ヒロシさんは苦笑しながらそう付け加えた。私は首を横に勢いよく振った。
「ありがとうございます」
私はえへへと照れ笑いした。
「ある意味、忘れられない誕生日になったかもしれません」
皆さんにも会えて嬉しいです。
そう言うと、今度は私がいじられる番だった。私はずっとえへへへへってだらしなく笑っていた。
本当に、今日はいろんなことがあった。連れ去られちゃうし、お兄が義賊だと知らされるし、かと思えば突然生死を賭けたゲームに参加させられて……うん、絶対に忘れられないだろうな。
すごく濃い1日だった。特別な、誕生日だった。
明日から、本選が始まる。またどんなゲームをさせられるのかわからない。正直まだ怖い。けれど、お兄は戦うと言っていた。だから私も、お兄の足を引っ張らないように、全力で頑張らなきゃ。
お兄の隣に横になって、峰子さんからもらったブランケットに包まりながら、決意を新たにした私は、次第にやってきた睡魔に抗うことなく、目を閉じた。
明日も生きていられますように。そう祈りながら。
生き延びることができた私たちは、予選会場を出るところだった。
『何が義賊だ…この、偽善者が』
セイギさんの地を這うような低い声が耳に残っている。
チカラさんを利用して人を寄せ付けず、自分たちだけ助かろうとしていたセイギさんとユウキさん。
そのチカラさんを、お兄が自分の身を危険に晒してまで助けた行為が相当気に入らなかったみたいだ。
どうしてそこまでするのか、なんて聞くのは野暮だ。だって、お兄だから。お兄はそういう人だから。
結局お兄は失格を免れた。在全さんがお兄を残せって言ってたらしい。その意図はわからなかったけれど。
『王って何ですか?』
お兄が女の人——後で知ったけど、後藤峰子さんというらしい——に聞いていた。
人間の弱さに付け込み弄ぶ、悪意に満ちたこのゲームをどこかで眺めながら楽しんでいる、それが王なのかと。
それに対して峰子さんはこう言った。
古今東西、王というのは犠牲を糧に時代を前に押し進めていく人間。その清濁併せ持った人間こそが真の王なのだ、と。
それを聞いてお兄は戦うことを決意したんだ。本当の王とは峰子さんたちが思っているようなものではないと証明するために。
それはお兄の宣戦布告だった。
「咲?どうした?」
「…え?」
お兄の声で私は顔を上げて立ち止まった。あれ、私俯いてたんだ。手に持っていたブランケットを落としそうになった。急遽参加することになって足りないだろうと、峰子さんが渡してくれたものだ。
ついさっきの出来事を思い出してたら、浮かない顔をしてたみたい。
「気分でも悪い?」
「さっきのやばかったもんな」
気づけば、スナオさんとヒロシさんもこちらを見ていた。そこにチカラさんの姿はなかった。
私たちより先に会場を出て、どこかへ行ってしまった。
「ううん、大丈夫です!あ、あれでしょうか?」
私が指差した方に、みんなが視線を向ける。
指示を受けて芝生の広場のようなところに向かっていた私たち。そこには言われていた通り、テントが2つあった。1つはすでに明かりがついている。セイギさんたちだろうか。
「あれ?もしかして咲ちゃんも俺たちのテント?」
ヒロシさんに聞かれた。
「はい!あ、ごめんなさい、お兄がいるから一緒がいいなって思ったんですけど…今からでも、もう1つ増やしてもらうように頼んで――」
「いいよ!一緒で!うん、そうしよう!もちろん、全然問題ない!!」
スナオさんがよくわからないテンションの高さで、全力で同じテントを勧めてくれた。しかもすごい笑顔だ。
女が一緒だと気を遣わせちゃうかなって思ったけど、もしかしたら喜んでくれてるのかな?もしそうなら私も嬉しい。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
笑って、ぺこりと頭を下げた。なぜかスナオさんも深々とお辞儀した。
そうそう、夕飯は、各自、このドリームキングダムの中にある倉庫から調達しなきゃいけなかった。
でも、探してこれたのは、餃子だけ。
「できましたよ!」
フライパンの蓋を開けてちゃんと焼けたのを確認して、私は言った。
「何で王の候補の食事が餃子だけなんです…?ライスもスープもないなんて…」
「宿だって…目の前にホテルあるのに何でテントなんだよ…」
スナオさんもヒロシさんも不服そうだ。
「贅沢言わないでくださいよ」
お兄はそう言いながら、餃子の入った袋をスナオさんたちに見せた。
「『世界の餃子王』。在全グループの餃子チェーンのですね」
「あ、これ、100個に1個、中身がチョコなんですよね」
スナオさんがキラキラした笑顔で言った。
「そうなの!?だったら俺がもらう」
「僕だって食べたいですよ」
2人は私が見るフライパンに近寄った。
「あ、それはお兄が…」
私が言った時、お兄は隣でも火をつけていたもう1つのフライパンの元へ移動した。
お兄が蓋を開けると、そこで餃子が1個だけ焼かれていた。これがチョコ入りだって分かったんだって。
目には見えない部分を想像して考える力。すなわち思考力によってその1個が分かったっていうんだけど…私にはわからなかった。
しかもお兄ったら、「消えかけた蝋燭がもう一度燃えるために、清新な空気、淀んでない流れ、清風、風穴が必要なように、疲弊した脳をもう一度動かすためには、清新な糖質、淀んでないブドウ糖、チョコが必要なんです」なんて力説して、みんながポカンってしてる間に半分食べちゃった。
「んん、うまい!」
「えーい!残りはもらったああ!」
だから、半分残ってたその餃子を、お兄の手から奪い取ってやった。
「ちょ、咲!」
「ああああ咲ちゃんずるい!!」
「私も脳が疲れてます、私にも食べる権利はあると思うんです!」
なんてもぐもぐしながら言った。
「おいしい…」
頬が緩む。甘いものは疲れた時に一番だよね。
そんな私を見てお兄たちは呆れたような困ったような顔をしながら笑っていた。
「そういえば、チカラさんは?」
お兄が思い出したように言った。
「さすがに顔出しにくいんだろ、あんな奴でも」
ヒロシさんがそう口にした時だった。
「あんな奴っていうのは、建設現場忍び込んでこういうの探してくるような奴ですか?」
「チカラさん!」
テントに入ってきたチカラさんは、その手に黒いスニーカを持っていた。
「がめてきました」
ニヤリと笑みを浮かべて、お兄に手渡すチカラさん。
「サンダル、鉄球に潰されちゃいましたから…僕のせいで…」
お兄に突っかかってしまったお詫びの気持ちと、助けられたお礼なのかもしれない。
騙されやすくて、お調子者で、自分のことを一番に考えちゃうところがあるチカラさんだけど、もしかしたら、とっても仲間思いの人なのかもしれない。
「かなりボロいですね」
お兄は靴を眺めて言った。
「贅沢言わないでくださいよお」
「ありがとう」
「…どういたしまして、心の友」
チカラさんがそう言った瞬間、私も、お兄も、ヒロシさんもスナオさんも笑顔になった。スナオさんとヒロシさんが、チカラさんをからかっている。
鉄球サークルでちょっと喧嘩しちゃったけど、2人とも、チカラさんが戻ってきてくれたことが嬉しかったんじゃないかな。私だって嬉しいもん。
会ったばかりで3人のことはまだまだ知らないことだらけだけれど、一緒に1つのゲームを勝ち抜いたことで、少しだけ心の距離が縮まったような気がした。
「咲」
「ん?なあに、お兄?」
みんなで餃子を食べたあと、ささっとシャワーを済ませて(なんかすっごい高そうなシャンプーとコンディショナー使わせてもらっちゃった!)寝床の準備をしていた。
名前を呼ばれて振り返ると、お兄は私の頭に手をおいた。
「…ごめんな、咲の大事な誕生日、潰しちゃって」
兄ちゃんを許してくれ、とお兄は言った。
「え……ああああ!そうだ、私今日、誕生日だったんだ!!」
いろんなことがありすぎて、すっかりすっぽり頭の中から抜けていた。もしかしたらもう、日付は変わっているかもしれないけれど。
「咲ちゃん誕生日なの!?」
スナオさんの驚きようはすごかった。そのあとすぐ、おめでとうって笑って言ってくれた。
「わーー!お誕生日おめでとうございます、咲氏ー!」
チカラさんは胸の前あたりで、パチパチパチって拍手してくれている。
「おめでとう、咲ちゃん。ああー…散々な誕生日になっちゃったかもしれないけど…」
ヒロシさんは苦笑しながらそう付け加えた。私は首を横に勢いよく振った。
「ありがとうございます」
私はえへへと照れ笑いした。
「ある意味、忘れられない誕生日になったかもしれません」
皆さんにも会えて嬉しいです。
そう言うと、今度は私がいじられる番だった。私はずっとえへへへへってだらしなく笑っていた。
本当に、今日はいろんなことがあった。連れ去られちゃうし、お兄が義賊だと知らされるし、かと思えば突然生死を賭けたゲームに参加させられて……うん、絶対に忘れられないだろうな。
すごく濃い1日だった。特別な、誕生日だった。
明日から、本選が始まる。またどんなゲームをさせられるのかわからない。正直まだ怖い。けれど、お兄は戦うと言っていた。だから私も、お兄の足を引っ張らないように、全力で頑張らなきゃ。
お兄の隣に横になって、峰子さんからもらったブランケットに包まりながら、決意を新たにした私は、次第にやってきた睡魔に抗うことなく、目を閉じた。
明日も生きていられますように。そう祈りながら。