きっと、大丈夫だよ。
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side:咲
チカラさん大丈夫かな…。かなり刺々しい言葉を吐いて、去ってしまったチカラさん。お兄のことはもちろん心配だけど、仲が良さそうだと思っていたヒロシさんたちと言い争いをして、ひとり外れたチカラさんのことはもっと心配だった。だって、喧嘩だったとしても、たとえチカラさんが酷いことを言ったんだとしても、仲間外れになっちゃうのはとても悲しいことだから。
お兄の大きくてあったかい手が優しく頭を撫でてくれて、ちょっと心が落ち着いた。
ふとお兄を見ると、隣のサークルを見つめていた。そこは、さっきのお兄の1の目否定話によって、入っていた人全員が出て行ったと思っていた、1のサークルだった。
「標くん…」
そこには、1人だけ残っていたんだ。真っ先に1のサークルに入った彼が。
「探してた人は見つかったの?」
こちらを見ずに、標くんは聞いてきた。
「う、うん」
「そう、それはよかった」
抑揚のない声で標くんは言った。
「出ないんですか?」
お兄が問う。
「出ない。だってこれは、落ちてる金を拾うようなゲームだから」
床を見据えたままそんなことを言った標くん。それって、どういう意味…?
お兄もその言葉の意味を噛み締めるように、目を細めて頷くような仕草をしてから視線を標くんから外した。
サークルの外を見ると、まだ多くの参加者がどのサークルに入るか考えあぐねいている状態だった。でも、もう4分切ってる。
すぐ近くでは、何かわかったのか、ユウキさんがセイギさんに耳元でこそこそと話している。セイギさんがサークルを見上げた。
「締め切り3分前!」
女の人が残り時間を告げた。
しばらくすると、左隣の3のサークルに、チカラさんを連れてセイギさんとユウキさんが入った。
ユウキさんは笑顔を浮かべている。でもなんだろう、この違和感。さっき私と話してたときとは何か違うような…。
それに、チカラさんは少し不安そうな顔をしている。
お兄も気づいたみたいで、チカラさんたちを見ていた。
チカラさんはサークルの真ん中に立って、鉄球を見上げている。
「ここですか?」
「そう、特等席」
「だから、周りには嘘をつく」
「嘘?」
そんな会話が聞こえてきた。
「チカラ氏…なんで…」
スナオさんが苦しそうな声で呟いた。
そこへ、参加者の数名が、3のサークルへ駆け寄って来た。
「3が正解なのかよ?」
「俺たちも入れろよ」
彼らにセイギさんは近づくと、とんでもないことを口にした。
「処刑するんだよ、こいつを」
「え…」
意図せず声が漏れる。
「マジかよ」
「狂ってやがる」
口々にそう言って、参加者たちは3のサークルから離れた。
お兄はセイギさんたちと、サークル外の人たちを交互に見遣ると、おもむろに立ち上がった。
「これは…」
「お兄…」
チカラさんが…と呟いた私にお兄は頷いた。
「そこにいちゃだめだ」
お兄がチカラさんに呼びかけた。
チカラさんはこちらを振り返ると、ため息をついて、呆れたような、不貞腐れたような顔をして視線を前方へ戻した。
「何なんですか」
チカラさんは、鬱陶しそうにそう言った。
「騙されてるんです、チカラさんは。なんて言われたかわかんないですけど、早くそこから出て」
チカラさんは俯いて、また顔をあげた。でも、お兄の言葉を聞くつもりはないみたいだった。
「自分たち以外に中に入ろうとする人間には、鉄球を落としてチカラさんを殺すと言えば誰も入ろうとしない。騙されてるんです!チカラさんは」
黙って、前を見据えたままだ。でも、チカラさんの顔に少しだけ動揺が見られた。
「そっか…だからあの中には誰も」
隣に座るスナオさんが呟いて、3のサークルを見た。
サークルの外では、チカラさんを処刑するという話を聞いた参加者たちが、3のサークルに視線を送りながらざわついていた。
「締め切り1分前」
残り時間、わずか。
すると、今度は5が正解だという説が浮上してきた。誰かが、サイコロの目は5が一番出やすいと動画サイトで見た人がいる、と言うのだ。
「それ、ワンチャンありだよ!」
参加者たちは一斉に5のサークルへ詰めかけた。
末崎さんも中に入ろうとしているようだが、はじき出されてしまっている。
「5…!?」
チカラさんがうろたえた。
「そうなの!?」
「えっ!?あ、はい!」
スナオさんが私を見るものだから、驚いた。てっきりお兄に聞くと思ったから。
「確かに、サイコロは素材を削って加工されてできているので、表と裏で重さに差が生まれて、重心がずれるんです」
「5の裏は2なので、一番バランスが悪い。だから計算上、最も上を向きやすいのは5なんです」
私の説明をお兄が継いだ。
「そんな…」
鉄球を見上げながら、チカラさんが絶望的な声を出した。
「じゃ、やばいでしょ、ここにいたら!」
ヒロシさんが立ち上がろうとする。
「待ってください」
私はヒロシさんを呼び止めた。
「え…!?」
「問題はそこじゃないと思うんです」
「混乱させないでくださいよおおお!!!」
お兄の言葉に、チカラさんが叫んだ。もう、何が正解なのか、何を信じたらいいのかわからなくなってしまいそうなチカラさんがそこにいた。
すると、セイギさんがチカラさんに近づいて、何かを囁いた。途端にチカラさんはおとなしくなった。
「チカラさん…」
「もう、放っとけ」
ゆっくりとずり落ちるようにして座り直すヒロシさんが、そう言い放った。
「え…」
「ヒロシさん?」
「そうですよね、チカラ氏の、自業自得です」
スナオさんまでそう言い出した。
チカラさんは、鉄球を見上げたり、サークルの外を見たり、視線をさまよわせ、呼吸を荒くさせている。
お兄は立ったまま、そんなチカラさんを見つめていた。その表情は何かを迷っているように見える。
「お兄…?」
今、何を考えているの?
思わず、私も立ち上がりかけた。
「咲ちゃん、行かないで」
スナオさんが私の腕を掴んだ。
「スナオさん?」
「40秒前!」
女の人の声が聞こえた。
より一層、サークルの外が騒がしくなる。
「ええーい、こうなったらどこだっていい!」
声の方を見ると、末崎さんが4のサークルに飛び込んだらしかった。
私の腕にしがみつくスナオさんに視線を戻した。
「スナオさん、大丈夫ですか?」
「お願い咲ちゃん、ここにいて。このままでいさせてくれないかな」
スナオさんの視線は床を捉えたままだ。
「スナオさん、スナオさん、こっちを向いてください」
スナオさんはゆっくりと顔を上げる。不安そうな目が、私の目を捉えた。
お兄みたいに、頬にそっと両手を添えると、スナオさんが目を大きくした。
「どこにも行きません。きっと…ううん、絶対、大丈夫ですよ」
スナオさんの目をしっかり見て、微笑み、力強く私は言った。自分にも言い聞かせるように。
「おい、零、どうした」
ヒロシさんの声にお兄を見上げる。
お兄は俯いたまま何か考えているようだった。
「20秒前!」
19…18…17…
そこからはついに秒読みになった。
「助けても、失格ですか」
お兄が顔を上げたかと思うと、突然そう呟いた。
「すみません、落ちます」
右手を上げて、お兄は私たちに告げた。
「え?落ちるって?」
「お兄ちゃん…?」
まさか…
女の人の「12」という声が聞こえた。
サークルの扉が閉められていく。
「10秒前!」
その時、お兄は助走をつけて、サークルの柵に足を掛けて登り始めた。
「お兄ちゃん!!?」
私は、金切り声をあげた。
お兄は柵の隙間から、チカラさんのいる3のサークルへ飛んだ。
チカラさんの叫び声が聞こえる。
お兄が履いていたサンダルが、落ちてきた。
「んもう!!お兄ちゃんの馬鹿ああああああ!!」
「ささ咲ちゃん!?」
「いいですか、スナオさん、ヒロシさん。今の体育座りのまま、柵に背中をぴったり押し付けててくださいねっ!」
泣きそうになりながら、素早く小さな声で指示を出した。
「え?」
「いいから!」
囁くような声でやり取りをする。
向こうからも、チカラさんに説明するお兄の声が聞こえる。
チラリと見ると、セイギさんやユウキさんも同じように縮こまったのが見えた。
「5秒前!」
4…3…2…1…
「ゼロ!」
銅鑼の音が響き渡る。サークルに南京錠が掛けられた。
女の人が、器の蓋を開けるのを、私たちは見守る。
モニターに映し出されたのは——
4の目。
外れた…。
私の腕を掴むスナオさんの手に、力が入るのがわかった。私はスナオさんの手を握りしめ、固く目をつぶった。
「動かないで!!!」
お兄の叫び声が聞こえた。
その瞬間——
ドーン!!
凄まじい衝撃音と地響きがした。
チカラさん大丈夫かな…。かなり刺々しい言葉を吐いて、去ってしまったチカラさん。お兄のことはもちろん心配だけど、仲が良さそうだと思っていたヒロシさんたちと言い争いをして、ひとり外れたチカラさんのことはもっと心配だった。だって、喧嘩だったとしても、たとえチカラさんが酷いことを言ったんだとしても、仲間外れになっちゃうのはとても悲しいことだから。
お兄の大きくてあったかい手が優しく頭を撫でてくれて、ちょっと心が落ち着いた。
ふとお兄を見ると、隣のサークルを見つめていた。そこは、さっきのお兄の1の目否定話によって、入っていた人全員が出て行ったと思っていた、1のサークルだった。
「標くん…」
そこには、1人だけ残っていたんだ。真っ先に1のサークルに入った彼が。
「探してた人は見つかったの?」
こちらを見ずに、標くんは聞いてきた。
「う、うん」
「そう、それはよかった」
抑揚のない声で標くんは言った。
「出ないんですか?」
お兄が問う。
「出ない。だってこれは、落ちてる金を拾うようなゲームだから」
床を見据えたままそんなことを言った標くん。それって、どういう意味…?
お兄もその言葉の意味を噛み締めるように、目を細めて頷くような仕草をしてから視線を標くんから外した。
サークルの外を見ると、まだ多くの参加者がどのサークルに入るか考えあぐねいている状態だった。でも、もう4分切ってる。
すぐ近くでは、何かわかったのか、ユウキさんがセイギさんに耳元でこそこそと話している。セイギさんがサークルを見上げた。
「締め切り3分前!」
女の人が残り時間を告げた。
しばらくすると、左隣の3のサークルに、チカラさんを連れてセイギさんとユウキさんが入った。
ユウキさんは笑顔を浮かべている。でもなんだろう、この違和感。さっき私と話してたときとは何か違うような…。
それに、チカラさんは少し不安そうな顔をしている。
お兄も気づいたみたいで、チカラさんたちを見ていた。
チカラさんはサークルの真ん中に立って、鉄球を見上げている。
「ここですか?」
「そう、特等席」
「だから、周りには嘘をつく」
「嘘?」
そんな会話が聞こえてきた。
「チカラ氏…なんで…」
スナオさんが苦しそうな声で呟いた。
そこへ、参加者の数名が、3のサークルへ駆け寄って来た。
「3が正解なのかよ?」
「俺たちも入れろよ」
彼らにセイギさんは近づくと、とんでもないことを口にした。
「処刑するんだよ、こいつを」
「え…」
意図せず声が漏れる。
「マジかよ」
「狂ってやがる」
口々にそう言って、参加者たちは3のサークルから離れた。
お兄はセイギさんたちと、サークル外の人たちを交互に見遣ると、おもむろに立ち上がった。
「これは…」
「お兄…」
チカラさんが…と呟いた私にお兄は頷いた。
「そこにいちゃだめだ」
お兄がチカラさんに呼びかけた。
チカラさんはこちらを振り返ると、ため息をついて、呆れたような、不貞腐れたような顔をして視線を前方へ戻した。
「何なんですか」
チカラさんは、鬱陶しそうにそう言った。
「騙されてるんです、チカラさんは。なんて言われたかわかんないですけど、早くそこから出て」
チカラさんは俯いて、また顔をあげた。でも、お兄の言葉を聞くつもりはないみたいだった。
「自分たち以外に中に入ろうとする人間には、鉄球を落としてチカラさんを殺すと言えば誰も入ろうとしない。騙されてるんです!チカラさんは」
黙って、前を見据えたままだ。でも、チカラさんの顔に少しだけ動揺が見られた。
「そっか…だからあの中には誰も」
隣に座るスナオさんが呟いて、3のサークルを見た。
サークルの外では、チカラさんを処刑するという話を聞いた参加者たちが、3のサークルに視線を送りながらざわついていた。
「締め切り1分前」
残り時間、わずか。
すると、今度は5が正解だという説が浮上してきた。誰かが、サイコロの目は5が一番出やすいと動画サイトで見た人がいる、と言うのだ。
「それ、ワンチャンありだよ!」
参加者たちは一斉に5のサークルへ詰めかけた。
末崎さんも中に入ろうとしているようだが、はじき出されてしまっている。
「5…!?」
チカラさんがうろたえた。
「そうなの!?」
「えっ!?あ、はい!」
スナオさんが私を見るものだから、驚いた。てっきりお兄に聞くと思ったから。
「確かに、サイコロは素材を削って加工されてできているので、表と裏で重さに差が生まれて、重心がずれるんです」
「5の裏は2なので、一番バランスが悪い。だから計算上、最も上を向きやすいのは5なんです」
私の説明をお兄が継いだ。
「そんな…」
鉄球を見上げながら、チカラさんが絶望的な声を出した。
「じゃ、やばいでしょ、ここにいたら!」
ヒロシさんが立ち上がろうとする。
「待ってください」
私はヒロシさんを呼び止めた。
「え…!?」
「問題はそこじゃないと思うんです」
「混乱させないでくださいよおおお!!!」
お兄の言葉に、チカラさんが叫んだ。もう、何が正解なのか、何を信じたらいいのかわからなくなってしまいそうなチカラさんがそこにいた。
すると、セイギさんがチカラさんに近づいて、何かを囁いた。途端にチカラさんはおとなしくなった。
「チカラさん…」
「もう、放っとけ」
ゆっくりとずり落ちるようにして座り直すヒロシさんが、そう言い放った。
「え…」
「ヒロシさん?」
「そうですよね、チカラ氏の、自業自得です」
スナオさんまでそう言い出した。
チカラさんは、鉄球を見上げたり、サークルの外を見たり、視線をさまよわせ、呼吸を荒くさせている。
お兄は立ったまま、そんなチカラさんを見つめていた。その表情は何かを迷っているように見える。
「お兄…?」
今、何を考えているの?
思わず、私も立ち上がりかけた。
「咲ちゃん、行かないで」
スナオさんが私の腕を掴んだ。
「スナオさん?」
「40秒前!」
女の人の声が聞こえた。
より一層、サークルの外が騒がしくなる。
「ええーい、こうなったらどこだっていい!」
声の方を見ると、末崎さんが4のサークルに飛び込んだらしかった。
私の腕にしがみつくスナオさんに視線を戻した。
「スナオさん、大丈夫ですか?」
「お願い咲ちゃん、ここにいて。このままでいさせてくれないかな」
スナオさんの視線は床を捉えたままだ。
「スナオさん、スナオさん、こっちを向いてください」
スナオさんはゆっくりと顔を上げる。不安そうな目が、私の目を捉えた。
お兄みたいに、頬にそっと両手を添えると、スナオさんが目を大きくした。
「どこにも行きません。きっと…ううん、絶対、大丈夫ですよ」
スナオさんの目をしっかり見て、微笑み、力強く私は言った。自分にも言い聞かせるように。
「おい、零、どうした」
ヒロシさんの声にお兄を見上げる。
お兄は俯いたまま何か考えているようだった。
「20秒前!」
19…18…17…
そこからはついに秒読みになった。
「助けても、失格ですか」
お兄が顔を上げたかと思うと、突然そう呟いた。
「すみません、落ちます」
右手を上げて、お兄は私たちに告げた。
「え?落ちるって?」
「お兄ちゃん…?」
まさか…
女の人の「12」という声が聞こえた。
サークルの扉が閉められていく。
「10秒前!」
その時、お兄は助走をつけて、サークルの柵に足を掛けて登り始めた。
「お兄ちゃん!!?」
私は、金切り声をあげた。
お兄は柵の隙間から、チカラさんのいる3のサークルへ飛んだ。
チカラさんの叫び声が聞こえる。
お兄が履いていたサンダルが、落ちてきた。
「んもう!!お兄ちゃんの馬鹿ああああああ!!」
「ささ咲ちゃん!?」
「いいですか、スナオさん、ヒロシさん。今の体育座りのまま、柵に背中をぴったり押し付けててくださいねっ!」
泣きそうになりながら、素早く小さな声で指示を出した。
「え?」
「いいから!」
囁くような声でやり取りをする。
向こうからも、チカラさんに説明するお兄の声が聞こえる。
チラリと見ると、セイギさんやユウキさんも同じように縮こまったのが見えた。
「5秒前!」
4…3…2…1…
「ゼロ!」
銅鑼の音が響き渡る。サークルに南京錠が掛けられた。
女の人が、器の蓋を開けるのを、私たちは見守る。
モニターに映し出されたのは——
4の目。
外れた…。
私の腕を掴むスナオさんの手に、力が入るのがわかった。私はスナオさんの手を握りしめ、固く目をつぶった。
「動かないで!!!」
お兄の叫び声が聞こえた。
その瞬間——
ドーン!!
凄まじい衝撃音と地響きがした。