瓶詰めこぼれ話
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クソ邪魔なところでクソ重てぇ話が始まって不本意だが何となく聞き耳を立てた。通路の向こう側から間の悪い足音が響いてんな時にどこのアホだと思ったらイラつく笑い方する女。
「爆豪く、」
空気読めやと口を塞ぎかけたがこいつの理解の方が一瞬早い。
「オールマイトの隠し子か何かか?」
「!」
あからさまに半分野郎の声に反応した女は青白い顔で俺と視線を合わせた。そういや体育祭前にデクもこいつも変な絡み方されてたな。訳ありかよ面倒くせェ。
「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ。」
別に聞きたくもねえ身内話をつらつら並べ立てられ苛立ちが増す。個性婚だの夫婦の不仲だの母親に火傷負わされただのんなセンシティブな暴露ここですんじゃねぇわ。息の詰まりそうな空気に嫌気がさして横を見れば辛気臭ぇツラした女が下向いてた。
んでてめーがんな顔しとんだ。半分野郎が低い声を吐く度細ぇ手が震えてきて終いにそいつは立ってられなくなった。どんなメンタルでヒーロー目指してんだと眉を顰めたが内容が内容なだけに口出しも出来ねぇ。
「記憶の中の母はいつも泣いている……。お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた。」
身を守るみてぇに自分の肩を抱いてその場にしゃがみ込む女。こいつと半分野郎がどう繋がってようが毛ほども興味なんざねぇのに意味も分からず苛々する。
「ざっと話したが俺がおまえにつっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、使わず一番になることで、奴を完全否定する。」
庶民にゃ理解し難ぇ理論だわな。さすが強個性のエリート様だがこの世界はんな甘くねェんだよ。沸々と胃の奥が煮えて後味の悪さに吐き気がする。隣に泣きそうな奴が蹲ってんのも相まって危うく腕が暴発しかけた。
「僕は……ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は、誰かに助けられてここにいる。」
話し終わった半分野郎の背中に虫唾が走るような綺麗ごとを語ってんのはデク。あいつの声なんざ聞きたかねぇのに何故か一人でこいつを残してくのに気が引けた。
「僕も君に勝つ!」
しょうもねぇ宣戦布告に心底傷ついたみてぇな顔してる女はしばらく同じ体勢のまま動こうとしねぇ。半分野郎もデクもとっくにいなくなっとんのにこいつの立ち上がるとこ見ねぇと気が済まねぇ自分がいて正直気持ち悪かった。会話なんざしたことなかったつーのに弱ってんの見ただけで置いていきたくねぇとか。随分お優しいだろうが俺。
「……知ってたんかよ。」
「まあ、幼なじみだから。」
「そうは見えねえな。」
幼なじみ。そう答えたわりには浮かねぇ顔してやがるしそもそも話しとるとこなんか今日初めて見た。どう拗れりゃそうなんだと鼻で笑えば怒りもせずに冷静な言葉が返ってくる。
「爆豪くんも緑谷くんとそうは見えないよ。」
「クソデクの名前出すんじゃねえ。」
「ごめん。」
軽く笑っとんのに目の奥はずっと泣いてるみてぇで腹が立つ。感情を押し殺して表情貼りつけとんのが不気味で半分野郎の背景にこいつも混ざっとんのがすぐ想像できた。
「なんでてめーがンな顔してんだ。」
「……色々あるから。」
「そーかよ。」
色々で誤魔化されたのは気に食わねぇがこれ以上踏み込むメリットもねぇ。クソ重てぇ話されたとこで反応なんざキレるか黙るかだ。
自分の中で一区切りついたのか女はまたむかつく顔でへらへら笑った。
「お互い大変だね。」
「てめーなんざと一緒にすんな。」
「午後からも頑張ろうね。」
「ボコボコにしてやるわ。」
「こ、こわ。」
さっきより明るい調子に戻った女に安心しちまって余計苛立ちが募る。出店に向かうと走っていく背中が頼りなさげなことに無性にむしゃくしゃしてぜってぇ後で負かすと舌打ちをした。