瓶詰めこぼれ話
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クソ気まじい一家団欒に巻き込まれた挙句後片付けまで手伝わされとる。夕食に招きてえってんなら嘘でももうちょい和やかな空気出せや。
軽く舌打ちして無駄に長ぇ廊下に差しかかったところでうぜえ顔が視界に入った。舐めプ野郎にもエンデヴァーにも言ってやりてぇことは腐るほどあったが何よりこいつの辛気臭ぇ面が気に入らねえ。んでてめえがんな落ち込んどんじゃアホか。
「ていうかかっちゃんも知ってたんだ。みょうじさんは幼馴染だからわかるけど。」
「は?俺のいるところでてめーらが話してたんだよ。」
「聞いてたの!?」
「ごめんあの時私もいた。」
「みょうじさんまで!?か、完全に油断してた。」
デクが今さら体育祭のことを持ち出してきてその能天気さに吐き気がする。この様子じゃこいつ何にも気づいてねえ。隣の女の表情の違和感。この家に来てからずっと気持ち悪ぃ笑顔浮かべやがって。
「……つーかよ、てめーも父親となんかあんだろーが。」
「「え?」」
苛立ちを吐き出すように睨みつけると間の抜けた声が重なる。俺の言葉に一瞬喉を鳴らしたとこから察するに十中八九見立ては間違ってねえ。別にわざわざ踏み込んでやる義理なんざなかったがこいつの陰気な性格が俺の口を開かせた。柄にもねえことさせんじゃねえぞクソが。
「外野に父親の名前出されるたび愛想笑い浮かべてりゃアホでも気づくわ。」
「ぜ、全然気づかなかった……。」
愕然とした様子のデクに虫唾が走る。どんな視野の狭さしとったらあれに気づかずいられんだ。クラスで家族の話題になりゃばれねえ範囲で輪から外れるし自分から父親の話題なんざ一切出さねえし。何より父親が称賛された時のこいつの反応。必要以上にへらへらしやがって胸糞悪ぃ。今も「困ったなあ」と薄ら寒ぃ笑顔で眉下げてやがるし無意識に眉間に皺が寄る。
「爆豪くん意外と人のことよく見てるよね。」
「あ?笑わせんな自意識過剰が。てめーがわかりやすすぎんだろ。」
何でもねぇみてえに振る舞いながら逃げ道探しとる目の前の女にぐつぐつと胃が煮えてくる。この期に及んで誤魔化そうたぁいい度胸してんな。
「……私の家は焦凍くんみたいに特別何かあったってわけでもないし、大した話はないよ。それにもう……。」
「もう親父はいねーからってか。」
「!」
残念だったなこっちは逃がすつもりねんだわ。一生自分の価値見誤っとる女に遠慮なんざするだけ無駄だ。どうせこいつのことだから今再興に向けて藻掻いとる舐めプの状況の方が深刻だとか的外れなこと考えてんだろ面倒くせぇ。どう生きてきたらこんな自分の優先順位低くなんだ理解に苦しむわ。
「てめーン中で解決してねーからグチグチ悩んでんだろが。人ン家と不幸比べして自分のがマシだから我慢しなきゃってか。高尚なこった。」
「かっちゃん!」
「何も気づいてなかった奴が口出してくんじゃねェ。」
よくもまあお人好しですみたいな面して俺のこと止められんなぁデク。回りくどいやり方でこいつの本音聞けるとでも思ってんのか。よっぽどめでてぇ頭してんな。
「緑谷くん、いいの。そういう気持ちがあったのは事実だし。爆豪くんありがとね、心配してくれて。」
「ああ?」
当の本人は図星突かれてようやく観念したのか一つ息を吐いて俺に向き直った。別に心配なんかしとらんわ。こちとらただ気に入らねえだけなんだよ。仮面貼りつけたみてえなてめーの顔も何があったか知らねえが子供に都合押しつけて呆気なく死んじまったてめーの親父も。
「確かに父にはちょっと複雑な思いがあるし、前はそれで悩んだりもしてた。でも、大丈夫。今は本当に……我慢しなくてすんでるから。」
相変わらず重要なことは何も言ってこねえがさっきよりはマシな目だった。我慢しなくてすんでるなんてのは傍からすりゃ完全に嘘だが。実際こいつが本気でそう思ってんなら別に否定する気もねえ。この女を奮い立たせてるのが誰なのかは当然とっくに気づいてた。
「……醤油顔かよ。」
言い当てられて動揺したのか一瞬その肩が揺れる。クソ、これだからお節介なんざ焼きたくねんだわ。
「瀬呂くんもだし、響香とか……爆豪くんもそう。こうやって心配してくれる人が周りにたくさんいるから大丈夫だよ。」
取ってつけたように俺の名前を出したこいつに無性に腹が立つ。てめーが大丈夫つって大丈夫だったことなんかあんのかよ。頼られねえこと分かった上で追及するほど暇じゃねえから別にもう言わねえけど。
「……調子乗んな。」
「あ、かっちゃん!」
醤油顔相手なら泣きついとったんかてめーは。馬鹿馬鹿しい想像が頭に浮かんで拳を握り締めた。
長い廊下を歩きながら俺の後に続くデクたちの気配を感じる。真冬の寒さに再び大きく舌打ちをして振り切るように客間へと急いだ。
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