瓶詰めこぼれ話
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風呂から上がり何か飲み物をと食堂までやってくれば自動販売機の前で佇んでいるクラスメイトを見つけた。恐らく俺と同じ理由でここに来たのだろう。見慣れた制服姿とは異なる装いに少しばかり鼓動が速くなる。
「みょうじ。」
「障子くん。」
名前を呼べば大きな瞳がこちらを見上げた。甘いシャンプーの香りが鼻腔を掠め熱が上がりそうになる。緊張を悟られないよう、一呼吸おいて極めて落ち着いた声を出した。
「髪が濡れている。」
「あは、脱衣所混んでたから部屋帰って乾かそうかなと思って。」
滴るほどに水分を含んだ艶やかな髪を指摘すればみょうじは悪戯がばれた子どものように笑った。体育祭後からどこ関わったように見えていたがやはり以前よりいくらか気安い。柔らかい雰囲気を纏った彼女に自然とこちらの心も軽くなる。
「風邪ひくぞ。」
「ジュース買ったらすぐ乾かすよ。何かおすすめある?」
話題の方向転換を図られたことには気づいていたが追及するのはやめておこう。どうやら何を買うべきか迷っていたのは本当らしく眉を下げながら意見を求められる。これは俺が答えて良いものなのだろうか。
いや、それほど深刻に考え込むことでもないはずだ。気軽に質問されたのだろうと思い直し普段よく飲む天然水を指さした。
「ありがとう。これにするね。」
「いいのか。」
「うん。こういうのが飲みたかった。」
「だったらよかったが。」
あっさり首を縦に振ったみょうじはすぐさま自動販売機のボタンを押した。大きな音と共に落ちてきたペットボトルを取り出し涼を楽しむように彼女が目を細める。
「……髪、ちゃんと乾かせ。」
ぽたりと落ちた雫がみょうじのTシャツに染みを作った。それが何故だか気恥ずかしくて彼女の肩にかかっているタオルへと手を伸ばす。そのまま軽く髪を拭けば目の前のみょうじは頬を赤らめた。
「あ、ありがとう。じゃあ、あの。ちゃんと部屋戻ります。」
そそくさとその場を離れる彼女を見送りながらもしかして大胆なことをしてしまったのかもしれないと今更ながらに恥ずかしくなった。下心でやったことではないとはいえ気軽に女子に触れるべきではなかっただろう。ああいやしかし。
「……嫌がられたわけではない、か。」
俺だけに向けられた表情が頭から離れない。動揺してくれたのが嬉しいだなんて少しばかり幼稚な気もするが。
これは自分だけの秘め事として胸の内に閉まっておこう。体が火照るのを風呂のせいにして気づけば彼女が買っていった飲み物と同じボタンを押していた。