瓶詰めこぼれ話
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用を足してくると離脱したホークスと別れ緑谷の病室へと進んでいると何やらなまえが落ちつかない様子で周囲を見回し始めた。不思議に思い観察を続ければ控えめにくいと袖を引っ張られる。
「ん、どうした。」
この凄惨な現状に不安が募っているのかもしれないと出来得る限り柔らかい声色を出す。私を見上げた彼女がほっとしたように眉を下げ、その時初めてなるほどと思い至った。そういえばこの子とこんな風にゆっくり話せているのは随分久しぶりだ。
「あの、すみません。嬉しくて。ジーニストさんとまた会えたの。」
「ああ。私も再びなまえに会えて嬉しい。強くなったな。」
するりと彼女の髪を撫でればなまえは苦しそうに顔を歪めた。まさかこれほどまでに心配させていたとは。幾ら勝利のためとは言え反省せねばならないな。
「……一つ、わがまま聞いてもらってもいいですか?」
「いくらでも。」
わがまま、という言葉が自然と彼女の口から零れて頬が緩みそうになる。それを他人に言えるようになったのか。子供の成長というのはこうも早いものだったろうか。
「その、ぎゅってしてもいいですか……?」
一瞬突飛な申し出に虚を突かれたが恐らく生存確認も兼ねているのだろうと思い直す。私の体温を感じ本当に生きているのかどうか確かめたい。そう控えめな瞳が告げていた。あまりのいじらしさに笑みが浮かぶ。
「もちろんいいとも。戦闘中は再会を喜ぶ暇もなかったからな。」
こちらの返事を不安げに待っているなまえに向かって腕を広げる。すると間髪入れずに彼女が私の胸に飛び込んできた。ああ、温かい。応えるように手を回せばなまえはぽろぽろと綺麗な涙を流した。
「ジーニストさん、死んじゃ……ったかと思って……っ!怖か、った……!」
「心配かけてすまない。君を泣かせてしまったな。だがもうどこにも行かないさ。」
しゃくりあげる彼女の背中をゆっくり上下にさする。以前は他人の前で決して涙を見せようとしなかったというのに。こちらが戸惑ってしまう程にこの子は全力で走り続けている。
「……そうか、なまえは甘えられるようになったんだな。いい経験を積んだ。」
労いの言葉をかけるとなまえは抱きしめる手にさらに力を込めた。潤む瞳が縋るように私を見上げる。
「っまた、色々……教えてくれますか……?」
「もちろんだ。私のところに来ればなまえはさらに強くなる。」
当然の約束を交わして泣き止まない彼女の目元にハンカチを当てた。こちらが笑いかければつられてなまえも表情を緩め、私たちは改めて再会を喜び合った。
「さあ、そろそろホークスが戻ってくる。先を急ごうか。」
名残惜しくも彼女を胸の中から解放せねばならない時が来たため代わりに今度はその小さな手を握ってみる。なまえはそんな私の行動に顔を綻ばせ熱を引き寄せるようにしっかりと握り返してくれた。
もう君を置いてどこかへ行ったりしない。心に留めた誓いがなまえに届くことはないが確かに自身を奮い立たせた気がした。縛りがあった方が人は強くなれるとこの年になって実感することになるとは。
彼女の腕を引きながら再び緑谷の病室を目指す。私たちに追いついたホークスがこの状況を茶化した際に放ったなまえの一撃にはなかなか目を瞠るものがあった。