瓶詰めこぼれ話
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放課後の教室、俺は鼻歌を歌いながら帰宅の準備をしていた。何を隠そう今日は2月14日。女子と砂糖の合作と言えどみょうじからチョコをもらえてすっかり一日上機嫌だ。
「こ、これからグラウンド?」
教科書を鞄に詰め終えたところで隣の席のみょうじがおずおずとこちらに聞いた。少しだけ上擦っている声を不思議に思いながらも肯定の意を示すために素直に頷く。
「そ。今日はエクトプラズム先生に稽古つけてもらうことになってっから遅くなるかもなあ。」
まあ夕食の時間には間に合うように帰してくれるだろうけど。汗流すために先風呂入っちまうか。そんなことをぼんやり考えて立ち上がり俺のことを窺っているみょうじにひらひらと手を振る。
「んじゃまた寮でな。」
「あ、待っ……!」
くるりと背を向けようとしたところで突然腕を引っ張られた。え、どうしたのみょうじサン積極的。とか、からかう余裕もなく傾きそうになる体を踏ん張って止める。
「うお、どした。」
「あ、いやその……。」
普段のみょうじからは想像できない行動に驚いてると赤い顔の彼女と目が合う。何これ可愛い。じわじわと自分の熱が上がるのを感じてたら慌てた様子のみょうじは小さな包みを鞄から取り出し半ば強引に俺の手に握らせた。
「これ、食べて。」
声を落とし耳元でひそひそと伝えられたのは予想もしてなかった内緒話で。視線を落として渡されたのがガトーショコラだと判明した瞬間さらに鼓動は速まった。まじか、めちゃくちゃ嬉しい。
「他の奴にはあげてねーの?」
「……うん、瀬呂くんにだけ。」
「やった、特別扱い。」
頬が緩むのを抑えられない。こーいうことしてくれんのほんと可愛い。好きでしかない。ホワイトデー3倍返しどころじゃ足りねーなこりゃ。
「ありがと。今日の夜しっかり堪能させてもらいます。」
俺はにやつくのを我慢するのも忘れてそれを鞄にしまいみょうじの頭を撫でた。その瞬間を目撃したであろう葉隠が遠くの席から声を上げる。
「またいちゃついてる!」
「スキンシップだって。日常風景なんだから騒がないの。」
クラスメイトからの厳しい追及をするりと躱す。今二人きりの世界邪魔されたくないんでね。
「んじゃ俺自主練あっから。」
「ちょっと逃げるなー‼」
「私も今日は早めに帰ります……。」
「なまえちゃんまで!?」
さらに問い詰められる前に二人してそそくさと教室を抜け出す。肩を並べて早歩きしてくれてる彼女に改めてお礼の言葉を投げた。
「チョコ、まじで嬉しい。絶対返すからホワイトデー楽しみにしてて。」
「……うん。」
みょうじがはにかみながら頷いてくれて自然と目元が細まってしまう。あーもう、本当に誰にも渡したくない。
好きな子にもらうチョコってこんなに特別なのね。冬だってのにふわふわと心が温まってその日はより一層自主練に力が入った。