瓶詰めこぼれ話
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個性把握テストが終わったところで予定通りあいつを呼び出した。事情を知らないクラスメイトからの「何で初日から呼び出されてんだ」という視線に本人は気まずそうだったが仕方ない。生徒のメンタルや体調を気にするのも仕事の内だ。会うのはタイフーンさんの葬式以来で正直柄にもなく心配だったというのが本音だが。そんなことなど言えるはずもなく俺たち以外誰もいなくなったグラウンドで窺うような視線に見上げられる。
「……どういったご用件でしょうか。」
「ああ、悪いな。わかってると思うが一応確認だ。俺とお前は知り合いだがここは学校だ。」
「呼び方とか、敬語の話……ですか。」
「そういうことだ。学校に関わる場面では先生と呼べ。俺もみょうじと呼ぶ。」
「承知してます。」
正直呼び方なんてのは口実に過ぎない。まあ他の生徒に示しがつかんから確認は必要だっただろうが本来の目的は別にある。
「だろうな。……背伸びたか?」
「おじさんみたい。」
「高校生から見たら十分おじさんだ。」
素直な感想に声を低くすればなまえは楽しげに吹き出した。多少引きずってるかとも思ったが軽口叩けるなら大丈夫か。こいつの場合感情を隠すことばかり上手くて我慢しすぎるきらいがあるから額面のまま受け取ることはできんが。
「相澤先生、初日から呼び出しはやめてください。目立つ。」
「……悪かった。お前ももう帰っていい。」
「扱い雑だなあ。山田先生に言いつけますよ。」
「山田先生はうけるな。」
「私も自分で言っててうけました。」
いくらか砕けた口調にこちらの口元も緩む。とりあえずお互いに笑い合えてんなら問題ない。どうせ担任になったんだ。落ち込んでると感じたならその都度支えてやればいい。何にせよ俺がいる以上は無茶はさせない。
「それでは失礼します。お時間取って頂いてありがとうございました。」
「ああ、気をつけて帰れ。」
深々と頭を下げてなまえがグラウンドを去って行く。頼りなく見える背中に手を伸ばしかけたが過保護過ぎるかと思い直し引っ込めた。
いくらでも大人が歪めてしまえる危うい年頃。俺の一言で簡単にあいつらの行く末が変わるかと思うと足が竦むが立場上後ろ向きなっている暇はない。
時間は有限。何事も合理的にいかねば。凡そ全力を出していたとは思えないなまえのテスト結果に目を通しながら明日からの授業内容に思考を巡らせていた。