瓶詰めこぼれ話
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「にゃあ。」
「どしたの。ごめんね今何も持ってなくて。」
自主練の休憩中静かな場所を探していれば校舎裏から猫の鳴き声が聞こえた。気になって近くまで行ってみると誰かがいる気配。時折猫に返事をしながら戯れているその後ろ姿には随分見覚えがあって俺はすぐに名前を呼んだ。
「あれ、みょうじ。」
「心操くん。」
こっちを振り返ったのはやっぱりみょうじで。一瞬何か気の利いたことを言おうかと思ったけど数秒もしないうちに余計なお世話だなと考え直す。
「……可愛いな。」
「ね。人慣れしてるみたいで全然逃げないの。」
彼女の隣に並んで屈む。猫は俺が近づいても逃げずにその場に佇み簡単に背中を撫でさせてくれた。こちらが毛並みを整えるのに合わせてにゃあと鳴くのが可愛くて自然と口許が緩む。
「大変だったね。」
目線を合わせず最低限の短さでそう零すと彼女は寂し気に微笑んだ。ナイトアイの訃報はすでに全世界の知るところになっていて当然俺もニュースを見て衝撃を受けた。まさか知り合いがこの事件に関わっているなんて、考えてもみなかった。
多分みょうじは今、俺の想像を絶する思いをその胸に抱えている。ヒーローを目指すならこういうこともあると、そんな風に簡単に割り切れないような重さのものを。慰めるだなんて大層なことはできないしするつもりもない。だけどせめて、一人にはしたくなかった。
「……さっき、ナイトアイさんのお葬式だったの。」
ぽつりと紡がれた呟きに少なからず心が騒いだ。昨日の今日で、別れをすませてきたばかりで。本来なら多分もっと寄り添った方が良いんだろう。だけど今のみょうじは包み込むような慰めを必要としてない気がした。
「……そう。」
一度だけ相槌を打ちそれきり俺は何も言わなかった。二人の間に少しの沈黙が流れ、それでも全く気まずさはない。黙ってただ側にいる。それが正解だと思った。
「心操くん。私、強くなるよ。」
不意に猫を撫でていた手を止め彼女がこちらにまっすぐ向き直る。強い瞳でそう宣言したみょうじは以前より一回りも二回りも大きくなったように見えた。ああくそ、置いていかれたくない。
「俺も、負けない。」
みょうじの決意に応えるように深く頷くと不満げな猫の声がにゃあ!と下から響いた。どうやら俺たちの手が止まったのが不服らしい。それが何だかおかしくて二人で顔を見合わせて笑う。
それからしばらく、何を話すでもなく子猫を撫でながら穏やかな時間に浸っていた。