瓶詰めこぼれ話
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あ、みょうじだ。放課後空き教室を通りかかると顔見知りの姿が見えた。一応挨拶しとこうかな。そう思ってドアを開けかけたけれど他の人の声が聞こえてぴたりと動きを止める。
「じゃあその、やっぱり付き合えない?」
「はい、ごめんなさい……今は誰かとのお付き合いとか考えられないので……。」
これは介入していい案件じゃない。俺はすぐにその場を離れ死角になっている壁へと隠れた。
立ち聞きは趣味じゃないけど何かあれば危ないし。いつでも助けられるようとりあえず待機の形をとる。
にしてもこんな人気のないところで男と二人ってどうなんだ。しかも相手は自分に好意持ってて断れば逆上される可能性だってある。ヒーロー科だからいつでも対抗できるってことなのか?だからって用心するに越したことないだろ。
妙にもやもやしながら様子を窺ってると幸い男は落ち着いた様子で教室を出て行った。まあ肩落としてはいたけど。失恋を正面から受け止められる相手でよかったよ。俺ももう帰ろう。
まだみょうじの残る空き教室をちらりと盗み見ればぼんやりした表情の彼女が佇んでいた。どこか虚ろで寂し気なその瞳に目を奪われほんの一瞬息が詰まる。あんな顔、初めて見た。
いつもの朗らかなみょうじとはまるで違っていて妙に頭に焼きついた。今、彼女は何を考えているのだろう。
「……知ったところで。」
自分にどうにかできるとも思えない。俺は軽く頭を振り今度こそ教室を通り過ぎた。次の訓練でこの日のことを忠告すれば彼女は陰のない笑顔で頷いてくれたけど、結局のところその胸の内はわからなかった。
もしいつかあの表情の意味を知る時が来るのなら。その時までには肩を並べられるくらい強くなってないと。何故だか途方もないことが心に浮かぶ。みょうじが抱えているものの大きさを俺が知ることになるのは、もっとずっと後の話だ。