瓶詰めこぼれ話
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タオルを忘れたと言って自室に戻っていったあの子を愛おしそうに見つめてから中庭へと歩みを進める瀬呂。その背中にそっと近寄りなるべく低い声で話しかける。
「……何人目も憚らずいちゃついてんの。」
「あ、耳郎見てたの。」
「別に見たくて見たんじゃないってば。」
あんなあからさまに甘い空気出されたら嫌でも視界に入ってくるって。緑谷は全く気づいてなかったけど。悪びれもせずケラケラと笑ってる瀬呂は前にも増して幸せそうで。ああやっぱりくっついたんだなと吹っ切れたその表情を見て実感した。
「聞いたんでしょ。付き合うことんなったの。」
「まあね。瀬呂の告白直後に女子全員で記者会見やってさ。真っ赤になって困ってんの若干可哀想だったよ。」
「え、それ動画とかねーの?」
「あるけどあげない。」
欲しいと訴えてくる視線を一蹴すれば「女子だけの秘密ってやつ?」なんて不満げなため息が聞こえてくる。どことなくいつもよりテンションの高い瀬呂に呆れながらもまあようやくあの子の手掴めたんだから仕方ないかと親みたいな感慨に耽った。
「あのさ。」
「ん?」
「頼んだからね。」
真剣な顔でじっと見つめると瀬呂がふっと目元を細めた。その笑顔には今までとこれからの、覚悟の全部が詰まっている気がした。
「ん、任された。」
当然のように頷く瀬呂に何故だか涙が込み上げそうになる。二人の思いが通じ合った嬉しさとあの子がどこか遠くに行ってしまうような寂しさとが綯い交ぜになって胸が詰まった。
「っ泣かせたら許さないから。」
「具体的にはどう許さないおつもりで?」
「今ここで試してもいーけど。」
「遠慮させていただきます……。」
半泣きなのを誤魔化すために軽口を叩けば瀬呂もすぐそのノリに乗っかってくれる。ウチが複雑な気持ちでいることなんてどうせこの人にはばれちゃってるんだろうけど。それでも気づかないふりをしてくれてる瀬呂はやっぱりあの子を任せられる底抜けに優しい男だった。
「……おめでとう。」
「はは、あんがとね。さっきみてーな距離感でみょうじと笑ってられんの、耳郎のおかげ。」
「ウチは……何もしてないよ。」
「んなことねーのに。」
真っ直ぐ褒められるのが照れ臭くて咄嗟に否定する。でも、もし本当にそうなら。ウチが少しでも二人の手助けになれてたのなら。あの子の喜ぶ顔を作れていたのなら。
「……そんなの嬉しい以外にないじゃん。」
小さく零せば瀬呂が「何か言った?」とこちらを覗きこんだ。それに「何でもない」と首を振って急ぎ足で中庭へと向かう。
あーもう寂しいし悔しいけど。それでもあの子にとっての一番は瀬呂しかいない。
親友のウチから最大限の祝福を込めて。二人の未来が明るいものでありますようにと叶えるべき願いを胸に気合いを入れた。