瓶詰めこぼれ話
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「……振られた。」
重い空気を纏って帰ってきた回原を見て俺は内心やっぱりなと思った。
何となくこうなるんじゃないかって気がしてたんだ。回原が誰よりも先に思いを告げて俺は何もしないまま引き下がって。みんなで傷心しながらそっと彼女の幸せを願う。これこそがあるべき姿の未来。
だってそれほどまでに彼女は瀬呂のことが好きだから。
「で、結局柔造はもういいのかよ。」
「何が?」
「何って……みょうじのこと。」
回原を励ます会を終えて自室に戻っていると当の本人に気を遣われた。自分が一番つらいだろうに優しいよね本当。思わずくすりと笑みを零せば怪訝そうな視線が突き刺さる。
「回原で無理だったら俺に勝ち目ないでしょ。」
「……わかんねえじゃん。」
「わかるよ。俺たちは一生瀬呂に勝てない。」
至極冷静に答えると「だよなあ……」と肩を落とす回原。まあ誰が見てもあの二人はお似合いだと思うし。あの中に割って入って戦おうなんて根性俺にはない。何より好きな子には笑っててほしいからね。
「結婚式とか呼んでくんねぇかな。」
「気が早いよ。ちょっと待った、とかやるの?」
「んなダセェことしねえけど。花嫁姿見て泣きたい。」
「お父さんじゃん。」
まだ付き合ってもない二人の将来に思いを馳せて涙ぐむ回原はどうやら相当参ってるらしい。好きな子の結婚式に招待されたいってかなり歪んだ願望な気がするんだけど。回原なりに気持ちに折り合いつけようと必死なのかもしれない。
「回原ってみょうじさんのどこが好きなの?」
別れ際にずっと聞きたかったことを質問してみればぴたりと立ち止まって真剣な顔をするクラスメイト。その目にはまだ未練が残っていて本気で好きだったんだなと改めて思い知らされた。
「……よく笑って可愛いところ。あと優しいじゃん気配りできるし。でも芯があって強くてさ。何ていうかもう……とにかく全部。」
全部。それはとてつもなく重い言葉だ。存在そのものを好きと言えるくらい彼女を見つめ続けてきた回原だからこそ、それを臆面もなく言うことができる。
「そっか。」
密かに感動を覚えながら頷くと回原はぐっと唇を嚙みしめた。きっと今日までの彼女との思い出を振り返っているんだろう。こんなに人を好きになれるなんて、心底羨ましい。
「柔造は?」
「ん?」
「柔造はみょうじのどこが好きだった?」
聞き返されるとは思ってなくて一瞬虚を突かれる。焦りと寂しさを含んだ瞳に捉えられて俺はほんの少し考え込んだ。
「……んー、内緒。」
数秒の沈黙のあと唇の前で人差し指を立てる。ぽかんと口を開けた回原にそのままおやすみを告げると「何だよそれ」と不満そうな声が返ってきた。
確かに俺は回原みたいには必死になれない。彼女を瀬呂から奪おうなんて度胸もない。だけど。
「まあ、これくらいは許されるよね。」
まだこの気持ちは俺だけのものにしていたい。ひりつく胸に気づかないふりをして窓の外に見える星を横目で眺めた。