瓶詰めこぼれ話
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雄英の敷地広すぎるんだけど。別に方向音痴でもないのに迷子になりそうになりながらやっと1Aの下駄箱に辿り着く。靴から上履きに履き替えて教室に向かおうとすればあとから女の子がやって来てかちりと視線が交わった。え、何かすっごい美人。
「あれ、A組の人?」
軽く会釈しながら声を掛けると向こうもぺこりと頭を下げてくれる。透き通るような白い肌に思わず見惚れていれば彼女は嬉しそうににこりと微笑んだ。
「うん。あなたも?」
「そうそう。ウチ、耳郎響香。よろしくね。」
「あ、みょうじなまえです。よろしくお願いします。」
雰囲気上品だななんて思いながら単なる自己紹介のつもりでその名前を聞いて心臓が跳ねた。え、今みょうじって言ったよね。みょうじって確かあのタイフーンの。ってことはこの子、亡くなった元No.4の娘。
「……てか雄英広すぎない?」
動揺を悟られないようできる限り平静を装う。いやうん、そりゃ雄英だもん。親がヒーローって人もいるでしょ。今年はエンデヴァーの息子もいるって噂だし。まあ亡くなってるっていうのはイレギュラーかもだけど。でもそれに気遣ってこの子を腫物みたいに扱うとかは絶対違うし。ていうかウチがそんなことしたくない。
「ほんとに。下駄箱にすら辿りつけないかと思った。」
「だよね。」
こっちの意思が伝わったのか彼女も何でもないみたいに会話を続けてくれた。ウチ、この子と仲良くなりたいかも。彼女から滲み出ている優しさに入学初日の緊張はほぐれてきて自分から声をかけてよかったと心底思った。
この時のなまえの綺麗な横顔を今でも鮮明に覚えている。触れば溶けて消えてしまいそうな儚げな笑顔。
そうしてウチらは二人一緒に教室の扉を開けるわけだけどこの身に何が待ち受けているかなんてまだ何も知らない。彼女の過去も父親との確執もウチらが親友になるってことも。
笑って泣いて怒って。様々な感情を共有しながら強固な絆は構築されていく。その一歩を今日踏み出していたのだと実感するのはもっとずっと未来の話。