瓶詰めこぼれ話
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3試合目終了後重たい足取りでモニターの前へと戻った。早々に投獄された上に引き分け。正直この試合勝てなかったのは俺の油断が原因と言っても過言じゃない。
対尾白戦でみょうじさんが目の前に飛び出してきた瞬間俺はあからさまに動揺した。自分の手が彼女に当たってしまうことを反射的に恐れて動きを止めたのだ。優秀な彼女がその隙を見逃すはずもない。ヒーローが私情を挟むべきじゃないなんて百も承知だったのに己の弱さのせいであっという間に最初の脱落者となった。
「回原サンドンマイでス!」
「ああ、さんきゅな。」
落ち込んでるところを角取に励まされ力なく口角を上げる。あークソ。彼女にかっこいいと言われたことも忘れるくらいの悔しさに思わずぎゅっと拳を握った。
「角取さん、回原くん。」
その時不意に後ろから声を掛けられ心臓が跳ねる。見るとそこにはみょうじさんが立っていてその表情は気遣わしげだった。こんな時まで優しいのかよ。
「みょうじサン、どうシましたカ?」
気まずさを隠し切れない俺とは対照的ににこやかに振り向く角取。お互い投獄した側とされた側で顔を合わせづらい中それでも彼女は角取相手に眉を下げた。
「あの、どこも痛くない?訓練とはいえ女の子の顔に攻撃しちゃって……あ、角!私粉砕しちゃって!取り返しのつかないことしたんじゃないかと……!」
あわあわと焦っている様子から察するに試合での一撃は咄嗟の行動だったんだろう。とんでもないことをしたのではと青くなるみょうじさんは涙目で慌てて角取がフォローに入る。
「落ち着イてくダサイ。大丈ブです!コレすぐ生えマス!」
その返事を聞いてほっと胸を撫でおろすみょうじさん。可愛いな、とか。気まずいの忘れて思っちゃうあたりかなりの重症なんだろうな。
「本当にごめんなさい。回原くんも……。」
深々と頭を下げる彼女がちらりと俺の方に視線をやって心がざわりとする。これは何に対しての謝罪だろう。投獄したことか。はたまた急に目の前に飛び出してきたことか。
後者だとしたら彼女は駆け引きをしたことになる。ということはつまり俺の気持ちは十中八九ばれてしまっているということで。結果的に弱みが駄々洩れだった上にまんまと作戦に引っ掛かってしまったかっこ悪すぎる男が爆誕してしまう。どうしよう死にたい。
「結構強く拘束してたけど怪我無かった?」
頭を抱えそうになる衝動を必死で抑えて悶々と考え込んでいればみょうじさんの口から零れたのは体の心配だった。気持ち、ばれてたわけじゃないのか。へなへなと肩の力が抜けていく。
「俺は平気。みょうじさんは相変わらず機転利いてすげェな。」
個人的難所を乗り越え幾らか気分が持ち直した俺は以前より自然に会話を続けることができた。純粋な感想を漏らすと控えめな彼女が「そんな」と首を横に振る。
「いやいや。骨抜くんと角取さんの方が断然すごかったよ。私せっかく後から参加したのに全然それ活かせなかったもん。」
相変わらず目指してるところが高いな。すでに明確な自己分析が出来てるところ、シンプルに尊敬する。若干しょんぼりと肩を落としてしまった彼女に何と言えばいいか思案していると突然角取がみょうじさんに抱き着いた。驚いて後ろにひっくり返りそうになった彼女が何とか角取を受け止めて踏み止まる。
「NO!みょうじサンとてもvery強かったデス!コチラこそ最後騙してシマってスミマセンでしタ!」
「あはは、あれは油断した私の問題だよ。」
至極真っ直ぐに謝ってくれた彼女の気持ちに呼応したのか角取も最後気絶したふりをしてしまったことを謝罪した。俺からしたら実践訓練なわけだし多少乱暴なことしても気にすることないと思うけど。こうやって頭下げ合戦をしてる二人は本気で優しい。
「角取さんは悪くないよ。」
「デハみょうじサンも悪クないデス!」
むっと頬を膨らませる角取にみょうじさんが目元を緩める。何だこの癒し空間。って呑気にしてる場合じゃない。
「まあお互い全力出した結果だしさ、反省はしても謝んのとかはなしにしようぜ。おあいこってことで。」
このまま言い合いになっても良くないと間に割って入ればみょうじさんは「ありがとう」と笑って頷いてくれた。ああやっぱ、好きだなこの笑顔。
反省点しかない試合だったけど悪くなかった。彼女と話していたらそう思えてくるから不思議だ。
次は第四試合。モニターに近づくために踏みしめる足はさっきよりも軽くて。心地の良い彼女との会話ににやけそうになるのを抑えながら気になる一戦に目を向けた。