瓶詰めこぼれ話
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横たわる私を前にして綺麗な瞳からぼとぼとと大粒の涙を零す彼女。こんなにも悲しそうな顔をさせてしまっているというのに不謹慎ながらも成長したものだと感慨に耽ってしまう。
記憶を辿れば父親と行動を共にしていた彼女はいつもどこか緊張していて、弱音の一つも吐かない子どもだった。自分の感情をしっかりと胸の奥底に仕舞い込みヒーローとしての完璧な振る舞いを必死でなぞっているような。そんな危うさがあった。
しかし今のなまえはどうだろう。周りに人がいるのも気にせず思いのままに気持ちを露わにしている。そうか、ようやく君は泣けるようになったのだな。
「なまえ。」
小さくその名前を呼ぶと表情を歪ませた彼女がイレイザーヘッドに連れられて私の傍まで来てくれた。満身創痍で体には複数の管が取りつけられているというのに何故だかとても穏やかな気分だ。なまえがヒーローとして活躍する姿をこの目で見てきたからだろうか。
「今日確信した……。君は……良いヒーローになれる。実直で誠実に正義と向き合うことができると……信じている。」
段々と呼吸が弱くなっていく中伝えなければならない言葉を彼女に告げる。しかしなまえは現実を受け入れたくないといった様子で首を横に振った。
「ナイトアイさん……お願い、いかないで……!誰も、っ置いていかないで……!」
その悲痛な叫びにぐっと胸が苦しくなる。恐らく父親の時には言えなかった心からの願い。もう誰にも置いていかれたくないという、残される側の寂しさ。傷つけたくなどないというのに私にはもう彼女の雫を拭ってやることも叶わない。
「君を……残していくことがこんなにつらいとは……。彼に、なまえが頑張ってると……伝えておく……。」
ああどうかもう少しだけ彼女と一緒に。体が限界を迎えていることはとっくにわかっていたけれどそう思わずにはいられなかった。一人にさせたくないと、強い愛情のようなものが次から次へと溢れてくる。まるで彼が乗り移ったみたいだ。すまない、代わりになまえを守ってやれなくて。
彼女を支えてくれる誰かが。決していなくなったりせず隣に並んで約束してくれる誰かが。打ちひしがれた時に引っ張り上げて抱きしめてあげられる誰かが。私ではない誰かが。もう今の彼女にはいるだろうか。
崩れ落ちるなまえを見ながら今際の際に神へと祈る。部屋へと飛び込んできたミリオの声を聞きながら若きヒーローたちの幸せを心の底から願った。