瓶詰めこぼれ話
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「おぼろくん!」
「お、何だ今日も来たのかなまえ~!」
昼休み。中庭で昼食を取っている俺たちの元へ走ってきたのは特別講師タイフーンさんの娘。どうやら白雲のことがいたくお気に入りらしく最近ではこのやり取りもすっかり日常風景となった。
「おぼろくんあいきた。」
「そりゃ嬉しいな!俺もなまえに会いたかったぞ~!」
懐かれてる白雲は元々子供好きだし満更でもないらしい。まあ俺は扱い方もよくわからんから毎回眺めてるだけだが。なまえのきらきらした笑顔を見てると年の離れた妹というのはこんな感じだろうかと思ったりもする。
「ヘイヘイ俺には会いたくなかったのかよ!?」
「んー、ひあしくんも?」
「ついでじゃねーかシヴィー‼」
「あっはっは!振られたなァ!」
ケラケラと笑う白雲につられてなまえもにっこりと頬を緩める。俺たちの言ってることは恐らく半分くらい理解しているはずで2歳児なのに天才かもしれんなと密かに親ばか思考を浮かべていた。
「そんなに白雲が好きなら結婚しちまえばいいんじゃねーの?」
「いいなそれ!なまえ、俺のとこに嫁に来るか~?」
山田の悪ノリに白雲も乗っかって2歳児の頭をぽんぽんと撫でる。するとその瞬間なまえはぴしりと固まってしまい咄嗟に俺は二人を諫めた。
「おい。」
「いいじゃん、なまえ可愛いし。今のうちに申し込んどかねえと知らねー奴に攫われるかもだろ?」
「お前な……。」
どこまで本気で言ってんのか白雲はいつものようににっと笑った。これでお前が彼女なんか作った日にはなまえ泣き崩れるぞ。酷い男だと罵られる前に撤回しとけ。
「なまえ、あまりこいつらの言うことを真に受ける必要は……。」
どうフォローを入れようか悩んでいるとなまえは下でぷるぷると体を震わせている。からかわれてると思って傷つけたか?泣かせるわけにはいかないと近づいたところで次の瞬間彼女は大声で叫んだ。
「よ、よろすおえがいします!!!」
いつになく興奮した様子で思い切りお辞儀をしたなまえは小さな頭を地面に打ちつけた。衝撃の光景に俺らの動きがぴたりと止まる。
「おわあああなまえ!!?!?!!?!?」
「う?」
きょとんと顔を上げた彼女を白雲がすぐさま抱き上げる。幸いどこも怪我してないとわかりほっと胸を撫でおろしたところでなまえの額からたらりと赤いものが流れた。
「おい血ィ!!血出てんぞこれどーしたらいい相澤!!!?!!?!?」
「と、とにかく一旦落ち着け救急車呼べ。」
「さてはお前も動揺してんな!?」
山田がいつも以上に馬鹿でかい声を出していて俺も尋常じゃない汗が出ている。もうすぐ昼休みが終わりそうだということも忘れて俺たちはなまえを抱えたまま全力でリカバリーガールの元へ走った。
「頭は血が多く出やすいところじゃから気にしなさんな。絆創膏つけときゃ治るよ。」
「よ、よかった……。」
治療はものの数秒で完了し俺たちは三人揃って息を吐いた。なまえはというとリカバリーガールからジュースを貰ってすっかりご機嫌だ。まあ何ともなくてよかったが。
「……にしても白雲。こりゃ本当に責任取らねえとなまえに相当怒られんぞ。」
白雲の手を握って離さないなまえをぼんやり眺めながら山田が呟く。地面に頭を打ちつけるほど好かれてるっていうのは俺からしたらかなり怖くて別段羨ましくはなかった。
「わーかってるって。俺がすげえヒーローになってそん時もまだなまえが俺のこと好きでいてくれたらちゃんと迎えに行くからさ。それまで幻滅されないようにしねーとな!」
なまえを肩車して「すげーヒーローになるからなー!」と白雲が笑う。彼女はバランスを崩しそうになったのかぎゅうとその顔に抱き着いた。
「おぼろくん、すき。」
「おう、俺も好き!」
相思相愛の微笑ましい関係。光源氏かよ、とも思ったが二人の結婚式に俺らが参列してるのは悪くないかもなと考え直す。明るい未来を想像して自然と目元が緩めば昼休み終了のチャイムが鳴った。