瓶詰めこぼれ話
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「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね。」
第一印象は胡散臭いイケメン。爽やかな笑顔の下に本音を隠しているような。正直あんまり関わりたくねーなと遠目で見てたら次々と握手を求めるその人が今度はみょうじをロックオンした。最悪かよ。
「体育祭見たよ!君もとても強い心の持ち主だね。今日は正々堂々よろしく頼むよ!」
「あ、えっと。こちらこそ……?」
みょうじが戸惑いながらもそろりと手を握り返して少なからずもやっとする。一方真堂さんの方は元No.4の娘がどの程度のものなのか品定めしている目つきでじっとみょうじを覗き込んでいて。なーんかあんまり気分が良くない。
笑ってそうで笑ってないその表情にみょうじの顔はどんどん硬くなっていき真堂さんと親父さんを重ねてるんだろうなと理解するには充分だった。
「……離せや。」
「おっと。」
俺が前に出るより一瞬早く爆豪が二人の手を引き離す。ナイス威嚇。薄ら寒い笑顔を貼りつけた他校の先輩を睨みつける役目はうちの狂犬に任せておいて俺は自分の陰に隠すようにみょうじの肩を引いた。ま、それでも相手さんは全然怯んでないみたいだけど。
「君は神野事件を中心で経験した爆豪くんだね。君は特別に強い心を持っている。」
「あ?」
「今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ。」
爆豪の凄みが一切効いてないとかやっぱ先輩ってすげーのな。今度は爆豪に向かってにこやかに手を差し出したその人に妙な感動すら覚えてしまう。
「フかしてんじゃねえ。台詞と面があってねえんだよ。」
はっきりと握手を拒絶した爆豪に対して怒りもせずに爽やかくんを続ける真堂さん。そこまでいくとこえーよほんとに。試験中何されるかわかんねえし警戒しとかねーとな。
「大丈夫?」
未だ俯いたままのみょうじに声を掛けると彼女はほっとしたように俺を見上げた。うん、さっきより呼吸も浅くねーな。よかった。
「うん、ありがとう瀬呂くん。爆豪くんも。」
「簡単に隙見せてんじゃねえ。」
機嫌悪そうにすぐ背を向ける爆豪。素直じゃねえなと苦笑しながらみょうじと顔を見合わせて肩を竦めた。
「他校の人とか別に気にしなくていーから。お互い仮免取ろうな。」
安心材料になるかわかんねーけどぽんぽんと彼女の頭を撫でる。こんなんでみょうじが本領発揮できなくなったらたまったもんじゃねーもん。
「……うん、大丈夫。ありがとう。」
ふわりと目元を緩めてもう一度感謝を口にしたみょうじはいつもの如く可愛くて。彼女のおかげで俺の士気が勝手に上がって合格する未来しか見えなかった。
長かった仮免試験が終わって施設を後にすれば空はすっかり夕焼けだった。疲れた体を引きずりながら自分たちのバスを目指していると前の方で意外な光景が広がっていて俺は慌てて走り出す。
「ま、これで何かあっても平気だな。気軽に連絡してよ。」
「猫被らないって約束してくれるなら……?」
「言うね。一度見られてる相手に今さら隠したりしねえよ。」
途中からでよくわかんねーけど何故か仲良さげなみょうじと傑物学園の真堂さん。いやあの人朝と別人じゃない?あんな気安くなかっただろ。
助けるために割り込もうとした足をぴたりと止める。いつの間に仲良くなったのよ、とか。そんな格好悪い感情が胃の奥でぐらりと煮えた。
「じゃあ俺はこれで。後ろの彼も怖いしね。」
「え?」
「……ドーモ。」
つい眉間に皺を寄せていると不意に真堂さんが振り返り俺のことを指さした。気づいてたのかよ。イケメンに対して嫉妬を隠せるほど大人じゃなくて不愛想に挨拶をする。こっちはあんたへの警戒解いたわけじゃないんでと視線で訴えかければ見透かしたように軽く口角を上げられた。余裕かよ。ひらひらと手を振って自分のクラスメイトの元に帰っていくその人に無性に腹が立ってくる。
「なんかされてない?」
真堂さんがいなくなってすぐみょうじのところへ近づいていき安否確認すると彼女は何でもないみたいにふわりと笑った。
「うん、ありがとう。連絡先聞かれただけだよ。」
その返事に一瞬息が止まる。わざわざ他校の女子を呼び止めてまで連絡先聞くって何なのよ。本人は狙われてるとは思ってねーだろうけど正直すげー焦る。
「なに、教えたの。」
「う、うん。」
肯定の頷きは項垂れるには充分で。その場で頭を抱えそうになるのを必死に抑えて心の中で何度も平常心と唱えた。
「真堂さん話してみたらいい人だよ?」
「それが問題なんでしょーが。」
「ええ、ごめん?」
俺の気持ちがわかってるのかわかってねーのか。みょうじは少しだけ嬉しそうな顔で謝罪を零した。こっちが妬いてんの気づいてる上でその表情なら相当可愛いし小悪魔なんですけど。
「まァ嫌なことされてないならいーけど。とりあえずバス行こ。」
歩幅を合わせてゆっくりとバスに向かって歩き出す。イケメンの脅威を目の当たりにしてもやついてる俺に気を遣ったのかみょうじは窺うようにこのあとのことを提案した。
「あの、帰りは隣に座りませんか。」
「ん、みょうじは俺でいーの。」
「うん、えっと……瀬呂くんと一緒に座りたい。」
殺し文句で心臓を打ち抜かれあっという間に機嫌が持ち直す。こういうとこ本当ずるいんだよなこの子。
みょうじの頬が赤いのは多分夕焼けのせいなんかじゃなくて。この顔を独り占めできんのは俺だけの特権だなって自惚れもいいとこな考えににやけは止まんなくて今日の疲れなんてどこかへ消え去っていた。