瓶詰めこぼれ話
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あーくそ。かなり反動きてんな、ぐらぐらする。
今は試験と試験の合間。ほんのわずかな休憩時間。視界が歪んで控え室にはいられず一人参加者の輪から抜け出して廊下の壁にもたれている。
ひんやりとした冷たさが体に伝わってくるのが気持ちいい。額に滲む汗を拭いながらどうにか早く回復しねぇとと焦りを含んだ舌打ちをした。
「あの、大丈夫ですか。」
嫌な吐き気にじっと耐えていれば後ろから心配の声が聞こえた。正直ほっといてほしい。が、他校には爽やかキャラで挨拶してしまったため無視するわけにもいかない。
「……ああ、君か。」
振り返ればそこにいたのは雄英生だった。元o.4ヒーローの娘。さっき狙われたばかりの相手によく話しかけられるな。まあそれなりに本性がばれてる相手なら気を遣う必要もないし助かるけどさ。
「具合悪いんですか?救護の方に言ってすぐに対応を……。」
「言わなくていいよ。ちょっと個性の反動が来てるだけだ。使いすぎると眩暈が来る。」
余計なことをするなと釘を刺すように答えてくるりと背を向ける。同情とかされたくないからさっさと行ってくれ。どうせトイレに来たんだろうし俺に構ってる時間もないだろ。しかし彼女はそこから動こうとせずそれどころか持っていたポーチから何やら薬のようなものを取り出した。
「これ使ってください。」
「……なんだい。」
「酔い止めです。もしかしたらもう飲んでらっしゃるかもしれませんけど。私も個性使いすぎるとクラクラしちゃうんです。予備もあるのでよかったら。」
一瞬変なものが入ってやしないかと失礼な疑いをかけたが彼女から敵意は感じられない。この試験においては蹴落とすべき敵だというのに本気で俺のことを心配してくれてるのか。
生粋のヒーローかよ、と心の中で苦笑が漏れる。
「随分お人よしだな。さっき襲われたばっかなのに。」
酔い止めを受け取って嫌味を吐けば彼女はきょとんとしたあと穏やかに笑った。その端正な顔立ちに思わず息を呑む。
「それは試験ですし仕方ないですよ。それにお人よしはヒーローにとって長所ですから。褒め言葉として受け取っておきますね。」
「……まいったな。」
毒気が抜かれるというのはこういうことだろうか。彼女の素直さに強張っていた体がほぐれてくる。みょうじなまえ。不思議な人だ。
「ありがたく使わせてもらうよ。この借りは返す。」
休憩時間も残りわずか。これ以上話を続けるわけにはいかないと切り上げて控え室に戻ることにする。ひらひらともらった薬を見せれば彼女は大きく首を横に振った。
「え、いいですよ。借りだなんて。」
「いいから。君も時間無くなるよ。」
廊下の時計を確認して状況を把握したのか彼女は深々と頭を下げて急いでトイレに走っていった。見返りを求めない献身的な態度。本当、どこまでもヒーロー向きだ。
「あ、ヨーくん!大丈夫?」
「ああ。一応酔い止め飲んどくよ。」
控え室に入るとあまりの騒がしさに顔が歪む。はあと軽くため息を吐いて水の入ったペットボトルに手をつけた。
次の試験の作戦練らないとな。がんがんと痛む頭でステージの地形に思考を巡らせる。彼女の親切心をごくりと喉の奥へ流し込みもうすぐやって来るだろう困難にひっそりと備えた。