瓶詰めこぼれ話
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「瀬呂くん。あの、駄目にしちゃったジャージのことなんだけど……。」
ようやく和やかな空気になってずっと気になっていたことを口にすれば瀬呂くんはきょとんとこっちを見た。
合宿中に貸してもらった瀬呂くんのジャージ。ガスを吸わないようにマスク代わりにしたあと敵の拘束にも使っちゃって結局彼の手元に返すことは叶わなかった。病院で目が覚めてからも色々あったし弁償のタイミングを逃し続けて今に至る。瀬呂くんからは今さらいいよと断られるかもだけど、それでもやっぱり有耶無耶にはしたくない。
「ん、あれは別に大丈夫よ。何か雄英が新しく支給してくれるらしいし。」
「そうなの?」
初めて知る事実に思わず聞き返すと彼はうんうんと頷いた。さすが雄英。ありとあらゆるところに配慮が行き届いてる。
「合宿中の被害は全部学校側の責任だつって保障してくれるみてーよ?だからみょうじが気に病む必要ねーの。」
優しく目を細めた彼が私の頭をぽんぽんと撫でる。何だか熱くなってきて俯けば「かわい」とくすぐったい声が耳に届いた。
「……あの、あれのおかげですごく助かった、から。ありがとう。」
「少しでもみょうじのこと守れたんなら俺も嬉しーよ。」
穏やかな顔で見つめられるのが恥ずかしい。私が何も言えずになってしまうとその場には時計の針の音だけが響いて、それが妙に鼓動を速くさせた。
「んじゃ夜も遅いしそろそろ寝ます?」
「あ、うん。そうだね。」
「何なら部屋まで送ろっか?」
「だ、大丈夫です……。」
からかい交じりにこちらを覗きこむ瀬呂くん。頬が赤くなっているのを感じながら丁重にお断りさせてもらった。今一緒に部屋に来られたりしたら絶対心臓もたない。
「ゆっくり寝るのよ?」
「うん。瀬呂くんも。」
誰もいない共同スペースで二人分のおやすみが重なる。こんなに体が火照ったままで眠れるだろうか。先程までの彼の体温に後ろ髪を引かれながら、長い階段を一人で上がった。