第二次決戦
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「……11年前、俺は瀬古杜岳の炎の中で何度も死にたくないと祈った。何度も、何度も。痛みと苦しみに藻掻くうちに肌は爛れみるみる腐ったみてぇに焦げていった。」
そうして燈矢さんは語り始めた。彼の軌跡を。荼毘という一人の敵が誕生しなければならなかった、その理由を。
不運にも彼自身が引き起こしてしまった大規模な山火事。まだあちこちで火が燃え盛っている中黒焦げの燈矢さんの元に現れたのは他でもない、AFOだった。
奴は殻木の協力を仰ぎ瀕死状態の体に適切な処置を施した。幸か不幸か、燈矢さんはそのおかげで何とか消えかかっていた命を繋ぐことができた。そして火事から三年経って目を覚ますとそこは見知らぬ学校のような施設で周りには初めて会う子供たちがたくさんいた。その子たちはみんな死柄木弔に何かあった時の保険のためにAFOによって集められた、いわばストックだった。
燈矢さんの話を聞きながらふつふつと胃の奥が煮えてくる。あいつはどこまで人を食い物にしたら気が済むんだ。罪のない子どもたちまで囲って、洗脳して、ヒーロー社会を壊す敵に仕立て上げようだなんて。
全く覚えのない場所で意識を取り戻した燈矢さんは混乱しながらも自宅に戻りたい、家族に謝りたいと訴えた。だけどそんなこと、奴が許すはずがない。
体の修復は困難を極め欠損部分を再生組織で補っていること、顔が引き攣り別人のようになっていること、そして各器官の損傷や痛覚の鈍化など燈矢さんの身体能力が著しく弱っていること。それらを畳みかけるように本人に伝えた上でまた、いつもと同じように優しく手を差し伸べたのだ。
僕なら君の炎を取り戻せると。
「あいつは……AFOは俺に言ったよ、治療は失敗だとな。ハハ、あろうことか親父しか見てねぇ狂ったクソガキに、家族になろう、教育を受けようって、気色の悪ィ猫撫で声で笑ってきやがった。傑作だろ?」
耳触りのいいAFOの言葉を拒絶した燈矢さんは施設に火を放ち一目散に駆け出した。目指したのは勿論、向かうべき我が家だ。
「焦凍、帰ったんだよ俺。前より弱体化してんのにさ、期待してるモンなんてあるハズないのに。きっと……変わっていてほしかったんだ……見たかったんだ。俺を生んだ意味を。」
三年ぶりに自分の家に帰って燈矢さんが目にしたもの。それは自らの写真が飾られた仏壇と、炎の中で父親のいきすぎた鍛錬に耐える弟の姿だった。
息子の死によって父の思想は変わったかもしれない。今なら弱体化してる俺でも受け入れてくれるかもしれない。ここからまたヒーローを目指せば。誰よりも強くなればもしかしたら。お父さんも認めてくれるかもしれない。ううん、別に強くなくたってどれだけぼろぼろでもこうやって帰ってきたんだから。今度こそ喜んでくれる。今度こそ、お父さんは俺を見てくれる。
そんな彼の淡い期待は以前とまるで変わらぬ光景によって一瞬で崩れ去った。力に執着する父親はより強い個性である弟を死んだ自分と挿げ替えただけ。結局No.1になり得る器がなければこの人にとって価値はなく、自身の行いを省みる材料にすらならない無用の存在なのだと。
燈矢さんの瞳はまさにその時絶望に染まった。
「改めて教えてくれた。俺が失敗作で意味は無く、この家族はもう俺を過去にした。」
命からがら必死で走ってきた自分を迎え入れてくれる温かい腕も息子の死を悼んで改心した父の優しい眼差しも。全ては都合の良すぎる夢幻だった。ヒーローエンデヴァーは、もうとっくに壊れてしまっていた。
燈矢さんは自嘲気味に笑みを浮かべちらりと私の方を見た。いきなり視線が交わり思わず喉が鳴ったのと同時にその目の奥の冷たさに背筋が凍る。
「あのあと一応お前の家も見に行ったよ。引っ越し先知らねぇで探し回った。縋りつけんのはもうそこくらいだったからな。こっちも必死だったワケだ。誰か一人でも変わっててほしいってな。」
お前、というのは言うまでもなく私で。その言葉を聞いてようやく彼が私たち親子の歪な関係を知っていたことに納得がいった。そうか、燈矢さんはもう随分前から我が家の薄暗さに気づいていたんだ。父の異常さを見抜いていたんだ。
「まぁ結果はご存知の通りだ。お前んとこの親父も相変わらずのツラしてやがった。あれと同じ濁った目ェして実の娘をいいように使ってやがる。どいつもこいつも揃って俺の死から、俺から、なぁんにも学んじゃいねェ。あいつらにとって俺がいかに"無価値"だったか。クソほど思い知らされて笑っちまう始末だ。」
にたりと口角を上げた燈矢さんにぞっとする。凡そ笑顔とは呼べない表情が彼の胸の内を物語っていた。
俺に見向きもしないあいつを許さない。俺を忘れたあいつらを許さない。恨みと悲しみが波になって押し寄せ燈矢さんを呑み込んでいった。そうして再び轟家に戻った彼は動揺を捨てひどく穏やかな心持ちで自身の仏壇に手を合わせた。まるで喪に服すように、静かに、ひっそりと。ヒーロー一家の片隅で荼毘はこの世に生まれ落ちた。
どうしてこうなってしまったのか。父もエンデヴァーさんも、燈矢さんの死をこの上なく悔やんでいたはずなのに。
「色々限度を超えるとさ、自分が形づくっていたものが白黒反転するんだよ。」
宙に浮いている燈矢さんが自身の火力を上げていく。じりじりという彼の身を焦がす音が嫌というほど耳についた。
「炎を鍛えるのに専念した。弱いまま会いたくなかった。この身が爛れて剥がれ落ちても何も感じなかった。技ならいくらでも見られた。」
燈矢さんが今日までの過程を話す度にどんどん燃え上がっていく炎。どうしよう、このままいけば私たちだけじゃなく彼の命も危うくなってしまう。駄目だ止めなくちゃ。絶対にその手を掴まなくちゃ。例え命を落とそうともあいつらに地獄を見せてやりたいと、彼に思わせてしまったのは私たちなんだから。
「焦凍くん……!」
「死ぬ気だったんだ……最初から。」
燈矢さんの気迫に圧されながら上擦った声で幼馴染を呼べば彼がぐっと眉間に皺を寄せる。己ごと全て焼き尽くしてしまいそうな炎を纏った燈矢さんは、まさに荼毘の名にふさわしい風貌をしていた。
「アレが街を守る度、アレが名声を上げる度、俺の心は脈打った!!!燈矢が死んで!荼毘が生まれたあの時からずっと‼」
あのAFOですら持て余した怨恨と執念の死炎。たった一人エンデヴァーさんだけを見つめ続けてきた色のない瞳が怖いくらいまっすぐこちらを見下ろす。
「アレの大切なもの全て焼き尽くす!それが俺の生まれた証だ‼」
燈矢さんはオールマイトの銅像の上にわざと降り立ち、自身の炎でかつてのNo.1を溶かしながら咆哮した。そしてそれに応えるように、今度こそ逃げないと宣言するように、悪魔と化した兄の前に焦凍くんが立ちはだかる。
「させねえっつってんだろうが馬鹿兄貴‼」
赤と青がそれぞれの手から放たれる。最初で最後の兄弟喧嘩が幕を開け、私は思い切り地面を蹴った。
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