第二次決戦
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作戦決行当日。私たちヒーローはAFOに悟られないよう各地に散り散りになっている。物々しい雰囲気に緊張感が高まりながらもサーチ個性対策で捜索する足は止めず、私は横を走る飯田くんをちらりと見た。
「……そろそろだな。」
「うん、そうだね。」
他のA組のみんなとも視線を合わせる。誰もが彼からの通信を今か今かと待っていた。
約束の時間丁度に耳元でノイズが流れ、緑谷くんが無事目的地に到着したのだとわかる。
『来てくれてありがとう。』
『青山くん何でここに……留置所にいたんじゃ……。』
青山くんも手筈通り。わざと緑谷くんに連絡を取って指定の場所へと誘い出しAFOの指示に従っているふりをする。昨日心操くんの洗脳で青山くんのご両親が奴に電話を掛けた時も問題はなかったし、特に怪しまれてはないはずだ。このまま上手くいってくれれば。祈るように拳をぎゅっと握る。
『両親の弁護士が釈放してくれた。』
『皆に伝えるよ!これからまた捜索に……!』
『待って。君と話をしたい。』
緑谷くんの問いかけに答えた青山くんは静かで落ち着いていて。まるで普段とは別人のような彼に本当に演技なのだろうかと不安になってくる。そんな私の心配をよそに青山くんは自嘲のこもった笑みを零し、OFAの保有者である緑谷くんに語り掛けた。
『……笑えるよね。この崩壊した日本でまだ裁判所が生きてるなんて。こんな世の中で従来の生き方を貫いて何になるっていうんだ。』
『青山くん?』
『AFOの本当の目的を教えてあげる。日本がこうなったことで今世界がどうなってるか知ってるかい?突如として円の価値が大暴落して多くの日本企業が倒産し始めてる。その煽りと敵一斉活性化で各国にダメージが波及してる。世界大恐慌や超常発現と似た流れがさし迫っているんだって。世界的な雇用の消失、貨幣の信用失墜。大混乱時代さ。』
焦るクラスメイトの呼びかけも無視して青山くんはつらつらとこの国の現状を並べる。AFOに決して疑われないよう周到に用意された言葉の数々は、これ以上奴に屈しないという青山一家の固い意志が感じられた。
『何の話をしているんだ青山くん……?』
もちろん緑谷くんも負けてはいない。ここで作戦に気づかれたら全てが水の泡という重圧の中、震える声で青山くんの話を遮ろうとする。
けれど聞く耳を持たない青山くんは日本は見捨てられると断言した。各国は自国の安全が最優先。国力も他国からの救済もなくなった日本はどんどん目先の安全を求め争い貧しくなっていく。さらにそれは日本だけに留まらないかもしれない。世界は今、混沌の渦に巻き込まれつつあるのだ。
『そんな世の中、例えば水が足りない国に飲み水を出せる個性が現れたら。電気もガスも力も……退廃と混乱の世界へ突入していく中唯一人……圧倒的個人がイニシアチブを取れる土壌が形成されつつある。』
AFOは今や複数の個性を所持した圧倒的個人。恐怖で、甘い言葉と巧みな嘘で世界を手中に収めようとしている。
『彼は世界の魔王になる。どこか一つ均衡を崩せれば、きっと何でもよかったんだよ。』
青山くんは諦め交じりに呟いた。目の前の友達の手を取ろうと、緑谷くんが必死に呼びかける。
『そんなの変だよ……世界が許すハズないよ……。それに、まだ僕たちがいるよ……!』
『そうだね。だからきっと、これは最後の詰めなんだ。ごめんね。やっぱり僕はパパンとママンの安全を守りたい。』
声を潤ませながら不穏な台詞を吐いた青山くん。まるでそれが合図だったかのように彼の背後から悍ましいほどの巨悪が姿を現す。
『オール・フォー・ワン……!!!』
ごくりと自分の喉が鳴った。いよいよだ。緑谷くんがその名前を口にするのを聞きながら気合を入れるために両頬を叩く。
『よくやってくれたね青山優雅。恐ろしかったろう友を裏切るのは。心苦しかったろう信頼されるというのは。よく乗り越えた!』
ぞわりと身の毛がよだつような穏やかな声色。ざざ、とノイズの音がひどくなり緑谷くんが奴に向かって行こうとしたのが窺えた。
『僕の最終目標の話よかったよ!厳密には外れだが……パパとママに聞いたのかな?』
『ええ……!あなたの世界で僕らに幸福を約束してくれると。』
震えながら頷いているだろう青山くんに緑谷くんが吠える。
『信じてたのに‼』
このやり取りが嘘なのか本当なのかわからなくなりそうだ。友達の糾弾を受けた青山くんは嗚咽を漏らしながらぼろぼろと涙を零し、それから。
『……心苦しいなんてものじゃあ……なかったよ叔父さま‼』
勢いよく後ろを振り返った青山くんはAFO相手に思い切りネビルレーザーを撃った。完全に彼を信じ切っていたAFOは一瞬反応が遅れる。そして攻撃を難なく払ったあと『恩知らずめ』と低く唸った。
『演技が迫真すぎるよ青山くん!』
『しかたないだろ!?相手をひきつけなきゃあいけないんだもの☆それに君だって名演だったよ☆』
『誘き出す為とは言えあんな涙見せられたらつい。』
『僕こわすぎて涙どころかおしっこも出てるんだよね☆』
『頑張った青山くん!』
ネタばらしをするかのように二人がお互いを明るく労う。その会話にうっかり泣いてしまいそうな自分がいた。
ああ、いつもの青山くんだ。私たちの知ってる青山くんだ。彼が勇気を出して自ら戻ってきてくれたことに改めて称賛の拍手を送りたくなる。
『……パパンとママンの為にも……皆の為にも自分の為にも!僕はAFOと戦う‼』
それは彼の強さの表れだった。AFOという圧倒的個人にはっきりと言い切った青山くんは誰が何と言おうと私たちの仲間で本物のヒーローだ。
『……がっかりだ。』
ぽつりと零したAFOはほんの少し何かを考え込んでいるようだった。十中八九青山くん一家の言動から敵意や害意が感じられなかったことについてだと思うけど。本当に心操くんの洗脳って有用性抜群。この上なくヒーロー向きの個性だよ。
紫色の瞳が浮かんで自然と口角が上がる。すると目の前には黒い靄が現れ始め私たちは視線を合わせて頷いた。
『罠だろうと今この距離にOFAがある事実。サーチは見たものの位置と弱点を掌握する。先の戦いで弔が見たヒーローは散会し各地にいる。今からすぐ救援は間に合わない。だからこそ気づかれずここまでこの数が接近できた!この状況がすでに手遅れじゃないか‼』
何も知らないAFOはすでにOFAを手に入れたつもりでいる。奴がワープ個性を使って自軍を全員その場に動員したのを確認し、私たちは物間くんが作ってくれた靄の中へと飛び込んだ。
『パパンとママンはこうも言ってたよ。だからAFOが最も嫌がる事は、日本がまだ終わっていないと世界が知る事。復興の先に光が在ると、僕らが示し世界が団結すること!』
青山くんの言葉が開戦の狼煙となり火蓋は切って落とされた。物間くんのコピーによって一足先に目的地に踏み込んだプロヒーローたち。彼らに気後れしないよう私もしゃんと背筋を伸ばす。
『だから今日!ここでおまえを倒す‼』
頼もしい叫びが響き渡る。A組全員揃って最後の戦いに臨めること。それが今こんなにも嬉しい。
ヒーローもヒーローの卵も関係ない。今度こそみんなで奴らを迎え討つ。黒い靄を抜けながら決意に胸を震わせていた。
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