内通者
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サポート科に装備の修復を頼みに行くと言う緑谷くんと飯田くんを見送り他のメンバーはみんな中庭へと向かった。私たちの間には重苦しい空気が流れ誰もが口を噤んでいた。
目的地に到着するとそこで待っていたのはMt.レディさん。彼女は敵連合捜索に私たちA組も合流するよう指示を出しにきてくれたらしい。
「全員揃ってる?」
「あ、いや。緑谷と飯田がまだです。」
きょろきょろと辺りを見回すMt.レディさんに切島くんが事情を説明する。戦闘のためなら仕方ないと納得してくれた彼女は少しだけ考える仕草をしたあと結論を出した。
「それなら彼らが来るまで待ちましょう。その間に何か必要なものがあれば取ってくること。迅速にね。」
「はい!」
万全を期すために時間をもらえたことに安堵しながらそれぞれが準備に取り掛かる。そんな中でぼんやりと動かない透ちゃん。私はどうしても彼女の寂しげな背中が気になってそっと近づき声を掛けた。
「……大丈夫?」
「あ、なまえちゃん……。大丈夫だよ。私が落ち込んでても仕方ないもんね!」
私を視界に捉えた途端気丈に振舞う彼女は優しくて強い。真っ先に青山くんの異変に気づいたのも自ら行動して彼に本音を吐かせたのも彼女だ。それに比べて私は。後悔ばかりが頭を支配して息苦しさに目を伏せた。
「私が……もっと早く気づいてたら……。」
「そんなん俺らみんな一緒よ。」
「瀬呂くん……。」
会話に入ってきた彼が私の肩にぽんと手を置いた。透ちゃんも「そーだよ!」と抱き締めてくれて自分が一人じゃないことを改めて思い知る。
「青山が戻ってくる機会作るためにも俺らは捜索頑張んねーと。」
「……そうだよね。ごめん弱音吐いちゃった。」
「いーのよ、逆に限界まで溜め込まれる方が心配だし?」
こちらを覗きこみながら悪戯な顔で笑う瀬呂くんに何だか熱くなる。すると透ちゃんがぱっと体を離し私たち二人をまじまじと見た。
「もしかして抱きしめ役私じゃない方が良かった……!?」
「え、な、何で。」
「付き合いたての二人の邪魔しちゃった!?」
「してない!してないから……!」
はしゃぐ透ちゃんの声が周りにも聞こえそうで慌てて彼女の口を塞ぐ。真っ赤になってる私に対してケラケラと笑ってるだけの瀬呂くん。いや助けてよと睨んだけれど全く怯む様子はなかった。
二人の明るい笑顔のおかげで少し心が軽くなる。ようやく足を動かす気になった私たちはそれから各々の準備のためにその場を離れた。
「みんなお待たせ!」
全員が支度を済ませ再び中庭に集まったのと同時に緑谷くんと飯田くんもサポート科から帰ってきた。おかえりと振り向いて一時停止。そこには何故か顔が陥没してしまっている二人がいた。いや何で?
「おお!早かったな二人とも。丁度皆準備が整ったとこだ。」
「よかった間に合って。」
「そういうのフツーなんかすぐ治らん?」
当たり前のように出迎えて当たり前のようにツッコんでる瀬呂くんにもかなり衝撃を受ける。彼の動じなさとお笑いセンスは本当にどこで磨き上げられたものなのか。ていうか飯田くんは眼鏡までめり込んじゃってるけど大丈夫なの?ちょっと緑谷くんたちの情報が多すぎて処理が追いつかない。
コミカルな彼らに困惑しながらもとりあえず全員揃ったところで仕切り直し。Mt.レディさんは改めて私たちに向き直りいつになく真剣な口調で話し始めた。
「A組に何が起きたかは聞いてます。けれどもう一日も無駄にはできません。」
一気に緊張感が高まりごくりと息を呑む。
私たちの目の前に広がる現実はあまりに無情で残酷だ。それでも、ここで挫けるわけにはいかない。奴らの想い通りにさせるわけにはいかない。プロヒーローからの重い言葉に自然と地に足がつき背筋が伸びた。
「解放戦線及び敵連合の早期発見・掃討が最善策な事には変わりありません!決着への近道を放棄するワケにはいきません!戸惑い足を止める事こそ相手の術中!」
Mt.レディさんの言う通りだ。どれだけ悲しくても敵は待ってくれない。奴らに屈することなく前に歩みを進める。それこそが今の状況を打破する最短経路だ。
「青山……手……取ってくれるかな。」
心配そうにぽつりと呟いたのは三奈ちゃん。きっとここにいるみんな、悲しみも後悔も同じだけ抱えてる。気づけなかった自分に腹立たしさも感じてる。そんな中で俯く私たちの不安をかき消すように顔を上げたのは強い瞳の緑谷くんだった。
「信じてる。青山くんは必ず戻ってくる。」
同じ元無個性。誰よりも彼の気持ちがわかるからこその迷いのない断言。そうだ、青山くんは絶対に戻ってきてくれる。彼と共に過ごしてきた一年間は嘘なんかじゃなかった。私たちは、私たちが見てきた青山くんを信じればいい。
「呪いになってねーといーけどな。」
こちらからの信頼が逆に青山くんを追い詰めているんじゃないかという爆豪くんの気遣い。それに首を振ったのは安心させるように緑谷くんの隣に並んだ焦凍くんだった。
「大丈夫だと思う。あいつはきっと、なりてぇ自分を誰より見つめてきたハズだ。」
遠くを見つめる彼の視線の先にいたのは過去の自分なんだろうか。焦凍くんも、憎しみに我を見失った経験があるからこそずっと理想のヒーロー像を追いかけ続けてきた。
例え真っ直ぐ進めなくても、間違えたとしても。それを自覚したその時から人は何度だってやり直せる。これからの自分を変えていける。そう思わせてくれる仲間が私の周りにはこんなにたくさんいる。
だから大丈夫。青山くんも、きっと。
「切り替えて!行くよ!緑谷くんを中心に展開!雄英高校1年A組ヒーロー科!捜索隊合流!」
Mt.レディさんの合図と共に雄英バリアの門が開く。再び欠けてしまったクラスメイトを取り戻すため。明るい未来に向かって暗闇の中の敵を鋭く見据えた。