番外編
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『起きてる?』
こんな時間にとも思ったけどどうしても彼女には一番に伝えたかった。響香にメッセージを飛ばせばすぐに『なんかあった?』と心配が返ってきて頬が緩む。
今からそっちに行くとだけ伝えて言葉通り彼女の部屋を訪ねる。すると出迎えてくれたのはいつもよりとろんとした顔。やっぱり寝てたんだと申し訳なくなって眉を下げた。
「ごめんね遅くに。」
「いいって。なまえが夜中に連絡してくるなんてよっぽどでしょ。」
二人で寝間着姿のまま彼女のベッドに腰かける。報告が報告なだけに何だか緊張するなあ。響香は一つ大きな欠伸をしたあと寝ぼけ眼で私を覗きこんだ。
「で、何があったの。」
直球過ぎる質問に思わず口ごもる。いや、躊躇ってる場合じゃないんだけど。響香は私のためにわざわざ起き出してくれてるんだから。顔が火照るのをぐっと堪えて紫色の瞳に向き直る。小さく息を吸った私は膝に置いた拳をぎゅっと握った。
「……えっと、その。瀬呂くんと、お付き合いすることになりました。」
「え……はっ!?」
窺うように彼女を見るとぽかんと口を開けた響香は一拍間を開けたあと夜中にも拘らず大声を上げた。おお、思ってた以上の反応。
「な、いつ!?てか本気で!?さっきお風呂でそういう話したばっかだよね!?」
「あ、お、落ち着いて……。」
いくらなんでも早すぎやしないかと肩をがくんがくん揺らされる。待って待って首もげちゃうから。何とか彼女を宥めて先ほどタイミングよく瀬呂くんが部屋に来てくれたことを話す。事の経緯がわかるとようやくいつもの調子を取り戻した響香はじんわりと目に涙を溜めながら「おめでとう」と呟いた。
「すごい嬉しい。ずっと二人がそうなればって思ってたから。」
「……ありがとう響香。響香がいつでも相談に乗ってくれたから、何とか気持ち伝えられた。」
「何言ってんのウチは何もしてないよ。なまえが頑張ったんじゃん。」
ぎゅっと抱きしめられて落ち着く香りが私を包む。本当に響香がいないと駄目だ、私。泣いてくれている彼女の背中をゆっくりとさすりもう一度「ありがとう」と繰り返した。
「はぁ、めっちゃ目覚めたんだけど。」
ひとしきり泣いたあと響香はティッシュで涙を拭きながらため息を吐いた。そして何故か充電していたスマホを持ってきて画面を開く。
「招集かけていい?」
その一言に私はぴしりと固まった。招集、っていうのは多分、いや間違いなくクラスの女の子たちだよね。それはかなりまずいんじゃないだろうか。思わぬ展開に顔を引きつらせながらやんわり遠回しに断ってみる。
「え、でも夜中だよ。」
「なまえの一大事だから。時間帯気にしてる場合じゃないって。」
「今日はみんな疲れてるだろうし……。」
「じゃあ明日みんなの元気が回復してからにする?」
「う……。」
それはそれで怖い。万全な状態の三奈ちゃんと透ちゃんに詰め寄られたら逃げられる気がしない。結局響香にまんまと丸め込まれた私は首を縦に振るしかなかった。すぐさまA組女子のトークに私と瀬呂くんの交際報告が投げられ数分も経たない内に全員がこの部屋に集まることになる。
「麗日たちも来るって。」
「何も起こさなくても……。」
「いいじゃん本人が乗り気なんだから。」
どうやらまだ寝てなかった三奈ちゃんが全員の部屋を回って事情を話してくれたらしい。叩き起こされたみんなは初めこそうとうとしていたものの事の重大さを知ってか二つ返事で了承してくれたそうだ。何この団結力。
そういえば初デートの時もこんな感じだったなあ。あれよあれよという間に結論がまとまって私だけ置いてけぼりだった。うーん懐かしい。一人謎の感慨に耽っているとたくさんの足音が聞こえて迷いなく部屋のドアが開けられる。
「たのもー!」
「ちょ、夜中なんやから静かに……!」
「気持ちはわかりますが。」
先陣を切って入ってきたのは三奈ちゃん。それにぞろぞろとみんなが続く。興奮気味の女の子たちに響香が「まあ落ち着きなよ」と手招きをしてみんなベッドの近くにそれぞれ座った。それじゃあここでお茶でも入れて一息、なんて言ってる暇があるはずもなく全員揃うや否や質問に次ぐ質問が飛んでくる。
「おめでとうございます。」
「いつ!?」
「どっちから?」
「何て言われたん?」
「シチュエーションは!?」
「い、いっぺんに喋らないで……。」
上から百ちゃん三奈ちゃん梅雨ちゃんお茶子ちゃん透ちゃん。あまりの勢いに苦笑するしかなかったけどとりあえず百ちゃんには心のこもったありがとうを伝えた。
「聞きたいことありすぎるんだけど!」
「ま、待ってちゃんと答えるから。」
熱くなった顔ををぱたぱた手で仰いでいると三奈ちゃんがぷくりと頬を膨らます。他のみんなも興味津々なのを隠し切れておらず部屋の中はさながら記者会見会場だった。
「えっ……と、付き合い始めたのはついさっきで。何か、この一年の思い出振り返ってる流れで私から言おうとしたら止められて、瀬呂くんが先に……好きって、告白してくれました。」
そこまで説明するとみんなからきゃあと黄色い歓声が沸く。うう、恥ずかしすぎる。とんだ拷問だと真っ赤になりながら項垂れるとさらに「何て返したの!?」と透ちゃんに詰め寄られた。
「……私も好きって。」
再び場が盛り上がり私は小さくなりながら俯いた。誰か助けて。初のクラス内カップル誕生にはしゃいでいるみんなはさっきまで寝ていた人たちとは思えないテンション。恋バナってすごいな。
「それで?」
「それでって?」
きらきらと目を輝かせてしまっている三奈ちゃんに首を傾げると彼女はにやりと口角を上げた。
「その後の展開があるでしょ!好きって言っておしまいじゃないでしょ!?」
「そ、れは……。」
自然とキスのことが思い出されてしまいボンっと頭が沸騰する。あからさまに視線を泳がせた私に「おやおやぁ?」と二つの魔の手が伸びてくる。
「何があったのかな!?」
「な、何も。」
「言えないようなこと~?」
「だから、何も……!」
三奈ちゃんと透ちゃんが両サイドに回り込んできて私の腕にするりと絡みつく。しっかりその場に固定されてしまった私は助けを求めて響香と梅雨ちゃんを見た。だけど期待は大きく外れ「ウチらもそこんとこ知りたいかも」とクールな声に突き放されてしまう。ちょっと待って味方がいない。
「も、黙秘しても……?」
「いいわけないじゃん!」
必死の抵抗も虚しくあっさりこちらの要望は却下されてしまう。三奈ちゃんの真っ黒な瞳が「今夜は寝かさないぞ♡」と告げていた。ああ、何だか今日は夜が長い。
明日絶対起きられないっていうのはもう諦めてしまうことにして。さて私は一体どこまでシラを切れるだろうか。
攻防を繰り返したとしても勝敗なんて目に見えている。ものの数十分で洗いざらい吐いてしまうことになったのは最早言うまでもなく、私はほとんど半泣きの状態で朝日を浴びることになったのだった。
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