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「それ……本当に?」
冷たい雨が降りしきる中、私たちはクラス全員で共同スペースに集まっていた。予想される緑谷くんの現状を私・爆豪くん・焦凍くん・常闇くんの4人で説明し、あらかた話し終わったあとお茶子ちゃんが真剣な表情でこちらを見上げた。
「推測でしかねェけど……。」
「あのクソナード‼十中八九エンデヴァーたちといる。」
彼女の言葉に焦凍くんが補足を入れ爆豪くんは緑谷くんからもらった手紙をびりびりと破いた。プロヒーローたちからの連絡拒否。一切何の情報も与えられないまま私たちが行きついたのは同じ結論だった。先程の真堂さんの話もすでに3人には伝えていて、その推測は確信めいたものになっていた。
「推測……?連絡をして確認を取ったんじゃないのか?君たち4人の師に……。」
いつもより随分静かな声で飯田くんが私たちに聞き返した。緑谷くんがいなくなったあの日から彼の溌溂さは怖いくらいの冷静さに変わっていて、ここ最近はずっと穏やかな怒りのようなものが感じられる。彼にとって緑谷くんがどれだけ大切な友人なのか、痛いくらいに見て取れた。
「幾度もしたさ。だが電話には出なかった。」
「ベストジーニストさんも。」
「親父もだ。忙しいとは言え不自然だ。俺たちに隠し事してるとしか思えねぇ。」
常闇くんと焦凍くんと一緒に成果なしの報告をする。プロヒーローたちが私たち学生を巻き込まないようにしてくれているのはもちろん理解していたけれど、クラスメイトの安否がわからないままのけ者にされて納得なんてできるはずがなかった。
「たしか……オールマイトも戻ってないんだよね。」
響香の指摘に尾白くんが頷く。そう、オールマイトも病院で会ったのを最後に消息が途絶えていた。きっと彼は緑谷くんをサポートするため共に帰らないことを選んだんだろう。けれど、それこそが今一番の不安要素だった。
「授業は停止、進級も留め置かれてて……ヒーロー科生徒は基本寮待機と周辺の警備協力。こっちが細かい情報を得にくい環境なのを分かって、私たちから緑谷くんを遠ざけてる。」
「ジーパンとヘラ鳥は病院でデクに接触してる。オールマイトとも……。」
悔しくて唇を噛むと爆豪くんは病院内での記憶を辿りながら舌打ちした。緑谷くんが目覚めたあの日、ホークスさんたちは彼の秘密を知ったはず。それから一切連絡が取れなくなってるということは、私たちに緑谷くんを隠しながら一緒に行動していると考えた方が自然なのだ。
「この手紙……雄英に近づくことすらビビってんなら誰がコソコソ真夜中ドアに挟み込んだ?オールマイトしかいねぇ……!あいつらきっと組んで動いてる!」
爆豪くんが的確な推測で結論を導き出す。簡単に雄英に出入りできてさらに緑谷くんの最後の望みを叶えてくれそうな人物なんてオールマイトくらいしか思い浮かばなかった。
「……大人といるんだからむしろ安心していいんじゃなウィ☆?」
「トップ3のチームアップしかニュースないぜ?オールマイトは入ってない。」
そう、上鳴くんの言う通りオールマイトは表面上チームアップのメンバーには入っていない。それが私たちにとって、爆豪くんにとって、一番怖い現実だった。
「だからだよ。」
爆豪くんは自分の拳をじっと見つめる。無力さを噛みしめているかのようなその背中にいつもの荒々しさはなかった。
「俺はエンデヴァーたちよりデクの事もオールマイトの事も、知ってる。多分考え得る最悪のパターンだ。」
トップ3のチームアップは周知の事実だ。けれどワン・フォー・オールの秘密はいまだひた隠しのまま。この状況の中で緑谷くんがワン・フォー・オールと何らかの関係がありなおかつ非難の的になっているヒーローたちと連携していることが世間に知れたら。きっと石を投げられるどころじゃすまなくなるだろう。
つまり、エンデヴァーさんたちと緑谷くんは一緒には動けないのだ。恐らくトップ3は遠くで指示を出しながら緑谷くんの動向を見守っているはず。そうなると表立ってフォローできない彼らの代わりに陰ながら緑谷くんを支える存在が必要になる。それを買って出たのが恐らくオールマイト。引退した元No.1ヒーローはその役目にうってつけなわけだ。私たちの推測が正しければオールマイトと緑谷くんは今二人きりで行動している、ということになる。
爆豪くんはそれがどれだけ危険なことか、私たちの誰よりも知っている。彼は緑谷くんの幼馴染だから。誰にも頼らず肉体がぼろぼろになるまで走り続けた元ヒーローとさらに大きな責任感を持ってその意思を全うしようとしている継承者。他社の介在なく二人が一緒にい続ければきっと向かう先に幸せな未来は待っていない。爆豪くんはそのことをとっくに理解してしまっていた。
「……さっき傑物学園の真堂さんから連絡があったの。南区で緑谷くんを見たって。」
私が電話の内容を離すとみんなは驚きのあまり息を呑んだ。
「南区って……昨日ダツゴクが確保されたとこじゃないの!?」
声を上げた三奈ちゃんにみんなも焦りの表情を浮かべる。きっとそれぞれが今朝やっていたニュースを思い出していた。
血狂いのマスキュラーが並大抵の力で倒せる相手じゃないことはこの場の誰もが知っている。実際合宿で緑谷くんは奴にボロボロにやられていた。それを今度はいとも簡単にやっつけてしまったのだ。たった一人で、街の人を守りながら。彼がもはや以前の彼じゃなくなっていることを、その時誰もが認識した。
「うん、多分緑谷くんが捕まえたんだと思う。ぼろきれみたいな格好で、纏う雰囲気が前と全然違ったって真堂さん言ってた。」
「それって……。」
梅雨ちゃんが緑谷くんの変わり果てた姿を想像して視線を落とした。彼がAFOから逃げ続けられているのだとしても、決して心も体も無事じゃない。いつ命を落とすかもわからない状況で彼を一人ぼっちにしておくのは、私たちにはもう耐えられなかった。
「きっと、緑谷くん今一人なんだよ。エンデヴァーさんたちがいても、オールマイトがいても。他の誰にも頼ろうとせずに一人で戦ってるんだよ。」
その孤独を思って声が震えてくる。絶対に彼の手を掴まなければ。全員分の熱い意思が固まったその瞬間、がたりと切島くんが立ち上がった。
「じゃあ!連絡手段をどうするか!!?だな‼」
やっぱりA組は21人揃ってなくちゃ。みんなの目を見れば同じ気持ちでいてくれてることはすぐにわかった。
トップ3からの返信は望めない。オールマイトの居場所も掴めない。大規模に捜索することも叶わない。だったら私たちが頼るべきは誰なのか。じっと考え込んでいるとお茶子ちゃんが静かにその腰を上げた。
「エンデヴァーって雄英卒だよね……。」
「!」
彼女のやろうとしていることを瞬時に理解する。彼らからの連絡をただ待っているのではない。直接話しに"来てもらう"のだ。
「強引に行こう。」
いつも朗らかな彼女が力強く言い放つ。たった一人の友達を取り戻すため。立ちはだかるヒーローに私たちは迷わず挑戦状を叩きつけた。