全面戦争
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ベストジーニストさんのワイヤーが大型敵ごと連合の体を拘束する。パラシュートもつけずにヘリから飛び降りた彼は自身の操る繊維の上に着地した。恩師の元気な姿を捉え、飯田くんに支えられていた爆豪くんがにやりと口角を上げる。
「てめぇ……!死んでたハズだ。本物の死体だった。」
「欲を掻くから綻ぶのだ。粗製デニムのようにな‼」
燈矢さんの問いかけに答えながら拘束を強めるジーニストさん。やっぱり、彼が死ぬわけなかった。ホークスさんが仲間を殺すわけなかった。喜んでる余裕なんてないけど、その事実だけで勇気が湧いてくる。
「てめえが生きてたとして……うちの過去が消えるわけじゃねえだろ。なァ!?焦凍‼」
燈矢さんはワイヤーにつるされたまま体中から炎を噴き出した。このまま布を焼き切るつもりだ。それに対抗するように焦凍くんも炎を纏って実の兄に向かっていく。ここは彼に任せた方がよさそうだ。
大型敵の動きもジーニストさんのおかげで封じられてる。今がチャンス。私がやるべきことは一つだ。隣の彼女にそっと目配せをする。
「トルネードちゃん‼」
「はい‼」
波動先輩の合図で死柄木の下へと飛んでいく。奴が気を失っているうちに早く捕獲しないと。連合側もこの窮地に焦っているようで死柄木と一緒に拘束されているスピナーが必死に叫んでいた。
「死柄木!!!起きろ‼つーか生きてるよな!?命令が必要だ‼死柄木‼まだ何も壊せちゃいねえだろ‼」
ここで全てを終わらせる。私はぶわりと大量の空気を両腕に纏わせた。先輩の波動に合わせて奴らに一撃を加えようとした、瞬間。
「危ない‼」
下から鮮烈な炎が上がって来るのが見えて咄嗟に波動先輩の体を風で吹き飛ばした。
「っああ‼」
「なまえ‼」
青い炎が体を包む。あまりの熱さに意識が飛びそうだった。焦凍くんの私を呼ぶ声が上手く聞こえない。どうやら下で戦っていた燈矢さんの攻撃のようで、彼は愉快そうに私たちを嘲笑っていた。
「ははは!大変だエンデヴァー‼まただ!また焼けちまった!未来ある若者が‼お前の大事な大事な親友の娘が!お前の炎で!!!」
「やめろォ‼」
じりじりと身が焦げる中燈矢さんが自身の炎でワイヤーを焼き切ったのが見えた。焦凍くんが火傷を負いながら彼を止めようともがいている。駄目だ、燈矢さんの火力の方が強い。拘束が解け自由になってしまった彼は気絶してる死柄木より危険だ。奴よりもまず燈矢さんを優先しなきゃ。
頭では状況を理解できてるのに体が言うことを聞かない。このままだと地面に落ちる。熱い。熱い。痛い。でも。
今度こそ彼らの手を取りたい。
「っう、あ……!」
落下しながら自身の周りに風を起こす。その勢いで炎は吹き飛び纏わりつく熱はなくなった。左半身がじくじくと痛む。それでも諦めるわけにはいかなかった。
「トルネードちゃん!大丈夫!?」
「せん、ぱ……死柄木……を、お願いし、ます。」
「え……!?」
波動先輩の止める声も聞かず、弟を連れて上空に移動した燈矢さんを追いかける。あの時父が犯した過ち。私が踏み出せなかった一歩。その後悔を、今ここで取り戻す。たとえどれだけの炎に焼かれようとも。
痛みで視界が霞む中必死に彼らの背中に食らいついた。
「い、た。」
大型敵の頭上に青と赤の炎。二人はそこで一騎打ちになっているようだった。よろけながらもお腹に力を入れて上へと上がる。
その時ふと拘束されている死柄木が目に入った。気絶していたはずの奴の口がほんの少しだけ動く。
「……壊……せ……マキア……。」
「はああああああああ!!!」
途端に大型敵が雄叫びを上げた。一体死柄木は何を言ったのか。目に光を取り戻した大型敵がぶちぶちとワイヤーを切っていく。今あいつに起き上がられたらまずい。早く焦凍くんを助けて地上へ加勢に行かなきゃ。
視線を戻すと炎と炎のぶつかり合い。近づけばその眩しさと熱さで目を瞑りそうになってしまう。しっかりしろ。下は脳無までやってきて混戦になってる。彼らの気迫に圧されてる時間はないんだ。
「しょ、とくん……!」
「なまえ‼来るな‼」
風で炎を吹き飛ばそうとするけど勢いが強すぎてなかなか消えてくれない。私の体力も大分限界だった。
「兄弟だけの時間に水差すんじゃねえよ。まあお前もまとめて死んでくれりゃあ願ったり叶ったりだけどな。」
私を嘲笑うかのように燈矢さんは焦凍くんと距離を詰める。炎の中で弟の体を抱きしめ、まるで何でもない話をするみたいに囁いた。
「向こうは楽しそうだなァ。可哀想になァ。おまえはこんなに辛いのに。」
大型敵と戦うヒーローたちを眺めながら彼が炎を強める。焦凍くんの体がじゅうと嫌な音を立てた。
「やめて!」
思わず燈矢さんの腕を掴む。火傷したところを再び焼かれてあまりの痛みに奥歯を噛みしめた。
「もうその体じゃ戦えねえだろうが。焦んなくてもおまえもちゃんと殺してやるよ。」
さらに火力が上がり私は悲鳴を上げた。焦凍くんが悔しさを滲ませながら彼を睨む。
「てめェ……こそ……!体が……焦げて……!」
「優しく育ってくれて嬉しいよ。俺は大丈夫。今とても幸せだから。見ろよあの顔。」
彼の視線の先には地上で立ち尽くしているエンデヴァーさんがいた。息子たちが戦う姿に震えながら言葉をなくしている。
「最高傑作のお人形が失敗作の火力に負けて死にそうだってのに……!グプっ……なァ見ろって!壊れちまってるよ‼はははは‼」
心底愉快そうな彼の笑い声に背筋が凍る。何か、何か打開策はないか。この炎どうすればいい。じりじりと体が焦げつく中必死に頭を巡らせた。
「焦凍‼俺の炎でおまえが焼けたらお父さんはどんな顔を見せてくれるかなァ!?」
まさに憎悪と恨みの塊。彼の心はもうとっくに壊れてしまっていた。焦凍くんの顔が苦痛に歪む。
駄目だ、このままじゃ二人ともやられる。火力が強すぎて止められない。どうしよう、どうしよう。意識が薄れそうになったその時、自分の右腕で焦げついている何かが目に入った。
瀬呂くんにもらったブレスレット。熱に耐えきれずに溶けてしまった。雫型の、綺麗なブルー。空を凝縮したような石はもう原形を止めていない。ぐっと胸が苦しくなる。
けれど彼の顔が浮かんでふとあることが頭をよぎった。空を凝縮したような石。そうか凝縮。空気をもっと、もっと凝縮させれば。一刻の猶予もない状況に迷ってる暇はなかった。
お願い瀬呂くん力を貸して。私は勢いよく燈矢さんの腕を離し自身の風でまとわりついた炎を払った。眼下に広がるのは必死で大型敵と戦うみんなの姿。目の前には兄の拘束から抜け出せない焦凍くん。どんなに体が痛くたって、ここは私がやるしかない。
大量の空気を集めて出来るだけ上空へと押し上げる。体中に激痛が走ったけれど気にしてなんていられなかった。意識を集中させてありったけの力を込める。これほどまでに大規模な空気を扱ったことは今までなかった。喉の奥から鉄の味が滲んでくる。
お願い上手くいって。もう誰のことも死なせたくない。燈矢さんに家族を殺してほしくない。そんなの、私のエゴなのかもしれないけれど。
「っあああああ!!!」
自身の全てをかけて上空の空気を凝縮させる。突然の叫び声に驚いた焦凍くんたちが思わずこちらを見上げた瞬間、ぽつりと自分の顔に雫が伝った。