全面戦争
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最悪を考えろ。さっきグラントリノさんに言われたばかりだ。確かにワンフォーオールを敵の前に無闇に差し出すなんて得策じゃない。それでも、緑谷くんは自らの意志で死柄木に突っ込んでいく。
「何で!」
グラントリノさんが私たちの姿を捉えて焦りの声を上げる。そのもっともな問いかけに緑谷くんは簡潔に答えた。
「死柄木が個性を使えないなら僕らも戦力に‼」
そう、今しかない。抹消が効いている間だけは、私たちも守られるべき存在としてではなくヒーローとして戦える。このチャンスを絶対無駄にしたくない。
「最悪は、先生を失う事!ずっと!守ってきてくれた先生を失う事です‼」
緑谷くんの強い思いがその場に響く。きっとクラスの誰であっても私たちと同じ選択をしただろう。みんな消太くんを死なせたくなんかない。どんな巨悪にも奪わせない。
緑谷くんは地面を蹴って空中に飛び、上から黒鞭で死柄木の両腕を縛り上げた。
「合理的に行こうぜ!」
後からやってきた爆豪くんが身動きが取れなくなった死柄木に向かってAPマシンガンを放つ。その爆破の勢いは強烈で、普段相手にしている敵ならきっとひとたまりもなかっただろう。でも。
「花火でもしてんのか?」
何故だか死柄木には全く効いていない。一瞬でその爆風を払い除けにたりと笑った。
「うわっ!」
死柄木が緑谷くんの黒鞭に縛られたままとてつもない力で前へと進む。踏ん張りが利かず先にバランスを崩したのは緑谷くんの方だった。
「ごめん。もう君に興味ないんだわ。」
自由になった体で死柄木が爆豪くんの目前に迫る。
「やめて!」
直線状の風を凝縮撃ちし、死柄木の顔面を狙った。インターンで培ったスピードと威力。確かに手応えもあった。それなのに。
「何だ、お前が先に死にたかったのか。」
もう、いる。背筋が凍るような冷たい瞳をして、死柄木は私に向かって腕を振りかぶった。
「ぬ"ん"‼」
やられる、そう思った瞬間私たち三人の間を鮮烈な炎が駆け抜けた。邪魔をしないよう慌てて空中へ避ける。死柄木は彼の重い拳で数十メートル吹き飛ばされた。
「エンデヴァーさん!」
死柄木が消太くんの方へとやって来る直前から上がっていた炎が見えなくなっていたので安否が気になっていた。無事、とは言えないくらいに彼もボロボロだけど、それでも戦う余力は残っているようだ。No.1というこの上ない加勢が来てくれたことでこちらもぐっと動きやすくなる。
「ショートは!?」
「3人だけです‼」
敵を見据える彼の問いかけに背中から緑谷くんが答える。詳しい説明をしている暇はなかった。焦凍くんもきっと今どこかで戦ってる。私たちは私たちで目の前の敵を倒さなければならない。
「うーん、あと一手ってとこなんだけどな……よし。」
先ほど吹き飛ばされた死柄木は軽々と体勢を立て直しピタリと足を止めた。もはや人間の可能な範疇を超えている。これほどの戦力を相手に少しも息が乱れていない。一体自分が今何と戦っているのかわからなくなるほどに、その力は強大だった。
「身体能力も人並み外れとる。」
「ああ!絶対こっち近付けさせんなよ。」
消太くんを支えてくれているロックロックさんがグラントリノさんに念を押す。目の前の男がいかに脅威であるか、この場の全員が嫌というほど実感していた。
「彼のこと、頼みます。」
「……任せとけ!」
振り返ってロックロックさんに頭を下げる。こんな危機的状況の中でも勝気に笑ってくれた彼にもうエリちゃん救出の時のような悪いイメージはなかった。
「オールマイト並のパワーとタフネスだ。」
「オール……マイト……。」
エンデヴァーさんの分析に緑谷くんもごくりと息を呑む。
「目を閉じない限りはその力だけです。なるべく長く保たせます!」
髪を逆立てている消太くんから何とも力強いお言葉。彼ももうずっと個性を使い続けてくれているはずなのに。消太くんはやっぱり誰かのために命を懸けられる人だ。その気持ちに報いたい。
「デク、トルネード、バクゴー。来てしまったものはしょうがない……。何故かは今問わぬ‼」
エンデヴァーさんの炎がさらに強く燃え上がった瞬間、止まっていた死柄木がこちらに向かってきた。エンデヴァーさんも後れを取るまいとそれに応戦する。
「イレイザーをサポートしろ!バクゴー‼トルネード‼デクを守れ‼」
彼の指示通り私たちも臨戦態勢に入る。死柄木はエンデヴァーさんからの攻撃を受ける間際、一瞬だけ緑谷くんを見て笑った。
「ワン・フォー・オール……‼俺のものになれ、弟よ。」
その笑顔は何故だか奴と別人に見えた。どうしてなのかはわからない。すぐにそれを考える余裕もなくなった。
「ヘルスパイダー‼」
糸状になった無数の炎が死柄木を捕らえようと放射される。けれど奴は素早く攻撃を避け続けた。迫りくる熱を凌ぎながら、ぶつぶつと何かを呟いている。
「俺の力だ、俺の体だ。」
グラントリノさんも加勢してくれ二対一の状態だ。機動力も抜群のはずなのに、一向に奴の動きは止まらない。
「だから黙ってろよ。俺の意志なんだよ。」
自分自身に話しかけているかのような死柄木に、グラントリノさんが蹴りを食らわせた。死柄木からの攻撃を真っ向から受けず自分の攻撃でいなす。超パワーのオールマイトを相手にしてきたからこそできる戦い方だ。
「おい、わかってんな。」
「うん、今ならばれずにいける。緑谷くんここにいてね。」
「……わかった。気をつけて。」
プロヒーローたちによる死闘が繰り広げられている最中、隣の爆豪くんに視線で語りかけられる。そう、死柄木がグラントリノさんとエンデヴァーさんに意識を集中させている今こそがチャンス。幸いなことに奴の興味はワンフォーオールのみ。この場であいつを出し抜けるのは恐らく私と爆豪くんだけだ。そのことを緑谷くんも理解してくれてる。
慎重に、ふわりと地面を蹴る。その瞬間、グラントリノさんとエンデヴァーさんに一撃ずつ食らわせながら死柄木も空中へと飛び上がった。そこから奴の目指す先は、地面で上空を見上げている緑谷くん。圧倒的な脅威が大事なクラスメイトに迫る。
本当、私たちのことが眼中になくてよかったよ。
「そいつぁ餌だ!!!風ェ!!!」
「わかってる‼」
爆豪くんが腕を構える。私もそれに合わせて最大限の力を込めた風を放った。死柄木の頭上から、風圧で威力が倍増された爆破が撃ち下ろされる。
私たちでは倒せなくても、ほんの少しだけでも奴の動きを止めたい。そうすればきっと彼が応えてくれる。祈るような思いで爆撃に焼かれる死柄木を見ていた。
そして私たちの予想通り、この機を逃すまいとエンデヴァーさんが死柄木に近づいてくる。
「バニシングフィスト‼」
強烈な炎が死柄木の腹に撃ち込まれた。みんなの意志を繋いだ重い重い拳。為す術なく地面に落ちていく死柄木弔の姿に、一筋の希望が見えた。