全面戦争
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「あの麓にヒーローたちがいる!我々は後方で住民の避難誘導だ!」
バーニンさんは遠くに見える蛇腔病院を指さした。あそこに脳無の製造者兼オールフォーワンの右腕、殻木球大がいるらしい。
ヒーローたちは今四手に分かれている。エンデヴァーさんや消太くんたちは病院に、ミッドナイト先生たちは上鳴くん・常闇くん・小森さん・骨抜くんを連れて敵の本拠地である群訝山荘に。その後方にもまた他のクラスメイトたちがヒーローと一緒に待機している。山荘にはどうやら解放軍の幹部と敵連合がいるらしく、いよいよ決戦という緊張感の中みんな固い表情でそれぞれの配置場所へと向かっていった。
そして私たちエンデヴァー事務所のサイドキックとインターン生はリューキュウさん・マニュアルさん・ウォッシュさんの事務所と共に病院周辺の住民の避難誘導。いずれも事務所の社長たちは前線に出ていてこの場にはいない。
蛇腔病院と群訝山荘はおよそ80㎞距離があり、どれだけ心配してもみんなの安否は確認することができない。どうか全員無事で。そう願いながら私は自分のやるべきことに専念する。
「ご家庭や近隣に身動きの取れない方がいましたらお教えください‼この街一帯対敵戦闘区域になる恐れがあります‼」
バーニンさんの声が辺りに響く。着々と避難誘導は進んでいた。私は波動先輩や他の飛べるヒーローたちと一緒にベッドで寝たきりになっている住民の方々を空から護送車へと運ぶ。
「ごめんねえ、重いでしょう。」
「いえいえ!それより揺れは大丈夫ですか?」
「ええ、とても快適よ。」
「すぐに安全な場所までお連れしますのでそれまで遊覧飛行をお楽しみください!」
「ありがとうねえ。」
にこりと笑いかけるとベッドの上のおばあさんは安心したのか穏やかな表情になった。救助する人に不安を与えないこともヒーローの務めだ。
『五丁目は避難完了しました!』
口田くんの声が耳元で聞こえる。
「こちらも今のグループで完了する!」
一緒に行動していたヒーローの方がそれに答えた。私たちは病院にいるヒーローと連携が取れるようそれぞれインカムを身に着けている。これで大勢人がいても通信できるというわけだ。自分の担当区域の避難完了を見届けて、私は一度緑谷くんたちのいる場所へと降り立った。
「慌てずに!走らないでくださいね!街の外の避難所へ一時待機していただきます!」
こちらはまだ避難が終わってないらしい。私も誘導に加わろうと緑谷くんに近づく。
「今何割くらい避難できてる?」
呼びかけたけど返事がない。それどころか緑谷くんはその場からピクリとも動かずにいた。
「緑谷くん……?」
「緑谷どうした。」
「サボってんじゃねーぞどういう了見だ!」
彼の様子がおかしいことに気づいて焦凍くんも声をかける。だけど彼は爆豪くんの怒鳴り声にも全く反応を示さなかった。
真っ青な顔で緑谷くんは後ろを振り向く。その視線の先には病院があった。
「病院が……!」
彼の言葉と共に私たちもそちらに目を遣る。その瞬間、先ほどまで静かだった山が辺り一帯崩れ落ちた。
「な、にこれ……!」
地面が、建物が、街があっという間にひび割れていく。崩壊は伝播するようにこちらに向かっていた。その速さは尋常じゃない。
「避難を‼」
叫びながら反射的に最大風力を放っていた。隣の緑谷くんもエアフォースで崩壊を遅らせようとする。せめて少しでも空気の壁が盾になってくれれば。
「全員走らせろ‼」
「皆逃げて‼」
爆豪くんと緑谷くんが近くのヒーローと逃げ遅れた人たちに指示を出す。バーニンさんは何度もインカムに向かってエンデヴァーさんの名前を呼んだけれど返事はないようだった。一体何が起こった。病院にいるヒーローたちは今、どうなってるの。
私と緑谷くんがもう一度攻撃を放つ。それでも崩壊の勢いは止まらなかった。
「止まらない!衝撃とかの類じゃない!」
「全部塵になっていくわ……。」
後ろに下がりながらお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが冷静に分析する。あらゆるものを塵にする個性。そんな能力を所持している人物は一人しか知らなかった。不気味な笑みが頭に浮かぶ。もしかしてこれ、全部死柄木の仕業なのか。どくどくと鼓動が脈打つ。嫌な感じだ。
焦凍くんが穿天氷壁で大きな壁を作ってくれたけどやはりそれもひび割れる。
「皆退けぇ‼」
崩壊が目前に迫り、私たちはバーニンさんの声を合図に一目散に駆け出した。近くのバスやトラックを上空へと上げ、思い切り空気を引っ張る。他のみんなもそれぞれに住民の人を抱えながら必死で退避しようとしていた。
「病院何してんだ!誰か!応答しろ!エンデヴァー‼リューキュウ‼誰か‼状況を伝えろ!」
バーニンさんの叫び声が虚しく響く。呼びかけを続ける彼女の様子からいまだ何の応答もないことがわかった。消太くん、ひざしくん、エンデヴァーさん。果たしてみんな無事なのだろうか。このとてつもない力は本当に死柄木のものなのだろうか。今この場にいる私たちにはどれを知ることも叶わない。
ただ一つ言えることはとてつもない脅威がヒーローの足元まで迫っているということだ。街を一瞬で更地に変えた崩壊は、恐ろしい戦いの始まりを告げる狼煙のようだった。