日記
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新学期が始まって数日。今日の放課後は心操くんと一緒に自主練をすることになっている。消太くんは様子がおかしかったあの日からさらに多忙を極めているらしくなかなか都合が合わずにいた。
実はというと心操くんとはかなり久しぶりだ。合同訓練のあとすぐにインターンだったからほとんど会えてなかった。だけどその間も彼はずっと訓練を続けていたようで、その動きは以前にも増して俊敏になっている。
「わ……!」
空中に浮かんでいる私の足を捕らえようと捕縛布が伸びてきた。瞬時に避けて彼の後ろ側へと回りこむ。くるりと私の方を振り返った彼が再び拘束を試みてきたので私はその捕縛布を逆に自分の手に巻きつけた。途端に彼の動きが止まる。その隙に素早く心操くんの周りをぐるぐると飛び回り体を縛らせてもらった。地面に倒れ込んだ彼が「参った」と小さく呻く。
「……また負けた。」
「ごめん、今ほどくね。」
悔しさを滲ませる心操くんの体を起こし絡まってしまった布を丁寧にほどいていく。ようやく身動きが取れるようになった彼は汗を拭いながらため息を吐いた。
「やっぱNo.1のとこで学んだ差はでかいな。」
「いや、いい勝負できてるんだから心操くんも相当でしょ。」
「5戦5勝のくせしてよく言うよ。」
口を尖らせる彼に私は眉を下げた。こればっかりは現地で経験しないと身にならないものだからなあ。早く心操くんとも一緒に戦えるようになればいいのに。
そろそろ休憩しようということになり二人で飲み物を取りに行く。冬だというのにお互い汗だく。風邪ひかないようにしっかり拭かないと。
「エンデヴァーのところどうだったの?」
ペットボトルに口をつけながら彼が尋ねた。冬休みが終わってからもう何度されたかわからない質問。大体はスパルタだったよと笑って終わるのだけれど、心操くんにはより具体的に話すことにした。少しでも彼の得になりそうな情報は教えてあげたい。
「基本は並列思考の積み重ねだったなあ。」
「並列思考?」
「そう、トップヒーローは救助・避難・撃退の3つを一人でこなせるんだって。被害を出さずいかに迅速に安全を取り戻せるか、周囲を瞬時に把握しながら考える練習を常にしてた感じ。正直頭パンクしそうだったよ。」
「想像しただけできつそうだな。」
彼の返答に思わず苦笑してしまう。うん、めちゃくちゃ大変だった。生傷だらけで毎日お風呂が染みるくらい。
「きつかった。思考だけじゃなくて力を凝縮させていつでも最大出力できるようにする訓練もしてたからさあ。もう毎日ボロボロ。」
「あれ、でもみょうじの攻撃ってすでに結構威力あるよね?」
「腕はね。足での空気操作はまだまだ未熟だからその訓練だよ。威力が上がればスピードも上がるしと思って私からエンデヴァーさんに指導をお願いしたの。」
「ああ、そういう。確かに今日全然追いつけなかったもんな。」
心操くんは謎が解けたというように納得していた。インターンのおかげで今の私は多分飯田くんと互角くらいの機動力だ。体が追いつかなくなると困るから筋トレも欠かさずやるようになった。
「冬休み終盤でようやく形になったんだよ。最初全然調整上手くいかなくて地面に落ちてばっかだったんだけど。」
「え、危な。それでボロボロになってたの?」
「お恥ずかしながら……。」
照れながら頬を掻くと心操くんは微妙な顔をした。
「いくらヒーローでも女の子なんだから。回避できる怪我はなるべく回避して。」
「は、はい。」
「人救ける前に自分が動けなくなったら意味ないだろ。」
「ごもっともです……。」
あれ、なんかお叱りモード。心操くんの後ろに眉間に皺を寄せた消太くんの姿が見える。やっぱりこの師弟似てるなあ。
「……合宿襲撃の話聞いた時から薄々感じてたしこの前の合同訓練見てても思ったけど、みょうじ無茶しすぎ。」
「え、合同訓練の時も?」
合宿はとにかく合同訓練は心当たりがない。あの試合かなり混戦になっちゃったからみんなそれなりに無茶してたし。何のことについて言われているのかわからず首を傾げると深いため息が聞こえてきた。
「回原と尾白の間に割って入ったやつ。下手したら回原の攻撃体で受けてただろ。」
「あ、ああ!あれか。」
回原くんを投獄するために彼の目の前に飛び出しちゃった時のことだ。自分なりに勝算があったとはいえ確かに大胆な行動だった。あの尾白くんですら防戦一方になってた回原くんのドリル。当てが外れてたら打撲じゃすまなかったかもしれない。
「みょうじのことだから何か考えがあったんだろうけどさ。捨て身の作戦は今後控えなよ。心配するし。」
心配、というワードに反応してしまう。そっか、心操くんも心配してくれてるんだ。なんだか嬉しくなって場違いに笑ってしまうとじろりと睨まれた。わあ、消太くんそっくり。
「気をつけます。周りからも無茶して怒られること結構あるし……。」
「だろうね。」
うーん、やっぱり今日はなんか圧が強いなあ。前々から思ってたことが爆発しちゃった感じだろうか。冷や汗が出てきた。
「ちゃんと自分が誰かの大事な人だって自覚して。」
「大事な……。」
ストレートな物言いにどきりとした。心操くんはほんのり染まった私の頬を見て口角を上げる。
「俺にとってみょうじは大事な友達なんだけど。違った?」
「ち、違わない!私にとっても心操くんは大事な友達だよ。」
どこか悪戯なその目に私は慌てて首を振った。彼は可笑しそうにその様子を眺めていて何だか揶揄われてる気がしてくる。
「そんな必死になんなくても大丈夫だよ。ちゃんとわかってるから。まあ俺以外にもみょうじのこと大事に思ってる人はたくさんいるだろうけど。イレイザーもそうだし、あとは轟とか……多分瀬呂も?」
「え!?」
鋭い指摘に声を上げると心操くんはにやりと意味深な視線を送ってきた。え、本当に何でここで二人の名前が。
「合同訓練の時に見てて思った。当たってた?」
驚きすぎて言葉を失う。一体いつ何の場面を見てそう思ったんだろうか。さすがに観察眼が凄すぎる。これは彼の前で下手なことできないな。
「ノ、ノーコメントで……。」
赤い顔を隠すように覆えば彼は「わかりやすいね」と吹き出していた。ちょっと勘弁してほしい。
「それじゃあ訓練再開しようか。」
「えっ、この流れで……?」
「相手の動揺を誘うのも作戦の内だから。」
「完全に術中なんですが!?」
颯爽と立ち上がった彼はグラウンドの真ん中へと駆け出した。私もまだ熱が冷めないままその背中を追いかける。
心操くん、人の心揺さぶるの上手いなあ。これも彼の自主練の賜物だろうか。まんまとはめられてしまった。駄目だ駄目だ、集中しなくちゃ。だけど気兼ねなく恋愛相談できる異性の友達なんていないからなあ。今度こっそり話してみるのもいいかもなんて、ふわりと空中に飛びながらそんなことを考えていた。
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