エンデヴァー事務所
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あっという間の冬休みが終わり今日は始業日。一年生でいられるのも残り三カ月だ。教室ではいつもの溌溂とした声が伝達事項を告げている。
「あけましておめでとう諸君!今日の授業は実践報告会だ。冬休みの間に得た成果・課題等を共有する。さぁみんなスーツを纏いグラウンドαへ!」
飯田くんがいつになくスムーズに話を進める。何ていうか隙がない。これはもしかしてインターンの成果だろうか。
「いつまで喋って……。」
恐らくいつも通りお説教をしようと教室に入ってきた消太くん。だけどすでにHRは終わっていて私たちはそれぞれコスチュームを持って更衣室に向かうところだ。
「先生ー、あけおめー‼」
「あけましておめでとうございます。」
三奈ちゃんと一緒に新年の挨拶をすると消太くんはちょっと面食らっていた。新学期で飯田くんのテンションが上がってもっと時間がかかると思ってたのかな。目を丸くして私たちを見つめる姿が何だか可愛い。
「本日の概要伝達済みです。」
「飯田が空回りしてねー。」
「マニュアルさんが保須でチームを組んでリーダーをしていてね。一週ではあるが学んだのさ……。物腰の柔らかさをね!」
上鳴くんに褒められた委員長はくねくねとすごい勢いで腰を動かして物腰の柔らかさを表現し始めた。うーん、やっぱり飯田くんは飯田くんだ。上鳴くんと瀬呂くんも「あー」「空回った」とその様子を微笑ましげに見てる。
「私たちもちゃんと成長してるってことです。」
「……そのようだな。」
消太くんに向かって片眉を上げれば彼にしては珍しく素直な肯定が返ってきた。明日は大雪が降るかもしれない。なんて言ったら怒られるだろうけど。そのまま教室を出て更衣室を目指しているとスピーカーから校内放送が流れる。
『相澤先生職員室までお願いします。』
呼び出されたのはついさっきまで一緒にいた相手。あれ、このあと授業なのに何だろう。まあ消太くん忙しい人だからなあ。目の下の隈濃くなってたけどちゃんと寝られてるんだろうか。
もちろん体の心配はしたけれどこの時の放送を私はさほど気に留めていなかった。彼が重大な事実を告げられてしまうことを、呑気な私はまだ知らない。
女子更衣室ではコスチュームの仕様変更が目立つお茶子ちゃんが注目の的になっていた。
「お茶子ちゃんコスチューム変えたねえ!似合ってるねえ!」
「腰のところがなくなってより大人っぽい感じ!」
「ホント?よかったああ。」
透ちゃんと一緒に彼女のコスチューム姿を絶賛するとお茶子ちゃんは照れながらもほっと胸を撫でおろした。わかる。仕様変更の時って周りの評判気になっちゃうんだよね。
「これ重‼」
響香が持ってるのはお茶子ちゃんの新しいアーム。どうやら中にワイヤーが入ってるらしい。私も持たせてもらったけど本当にかなり重い。これ腕につけられるんだから無重力ってすごい。
「こっちは何が……。」
「あ―――‼」
もう一方のアームには何が入ってるのかと三奈ちゃんが収納部分を開けてみる。お茶子ちゃんが慌てて止めに入ったけど一足遅かった。アームの中から何やら小さいものが落っこちて女子一同の視線がそれに釘付けになる。
「これって……。」
「クリスマスの時の……?」
出てきたのはオールマイトのマスコット。確かクリスマスのプレゼント交換でお茶子ちゃんが引き当てていたものだ。そして送り主は緑谷くん。思わず響香と顔を見合わせる。
「やはり。」
「違うの芦戸ちゃん!」
素早く恋の空気を察知した三奈ちゃんがこの上ないワクワク顔でお茶子ちゃんに詰め寄る。だけどお茶子ちゃんはすぐにそのマスコットを拾い上げて首を振った。
「本当に……違うんだ。これはしまっとくの。」
何だかいつもより大人びた顔ではにかむ彼女に見惚れてしまう。前にからかわれた時とは違う覚悟を決めたかのような瞳。彼女の中で一つの答えが見つかったんだろうか。その表情は靄が晴れて迷いがなくったようだった。
みんなの着替えが終わってグラウンドに向かっていると背後からスススと三奈ちゃんが忍び寄る。
「なまえはインターンで進展とかなかったの?轟に迫られたりとか?」
小さく耳元で聞こえた質問に私はびくりと肩を震わせた。
「え!?い、いや、やることいっぱいで必死だったし……。」
ごにょごにょと誤魔化すけれど本当は100%何もなかったわけじゃない。焦凍くんに迫られたというのもあながち間違ってないし。顔を近づけられた時のことを思い出して急に体温が上がってくる。
「何その反応!実は何かあったでしょ!?」
「な、ないって!あ、ほらもうグラウンド着くよ!?」
このままじゃまずいと瞬時に察知し半ば強引に会話を終了させ集合場所へと走り出す。響香が絶対何かあったなって顔してたのには気づかないフリしとこう。
グラウンドにはもう男子が集まっていてあとは消太くんが来るのを待つだけ。のはずだったんだけど。
「わ~た~が~し~機だ‼」
『オールマイト‼』
何故か現れたのはオールマイト。言葉通り本当にわたがし機でわたがしを作ってる。毎回導入の工夫欠かさないのさすがだけどもしかしてこれだけのために機械買ったとか言わないよね?
「あれ?相澤先生は?」
「ヘイガイズ、私の渾身のギャグを受け流すこと水の如し。」
若干ショックを受けてしまってるオールマイトをよそに私たちはキョロキョロとあたりを見回す。今日はインターンの成果を披露する実践報告会。担任の消太くんがいなくちゃ始まらない内容なのにどこにもその姿がない。みんなで首を傾げているとオールマイトは彼の不在についてどこか深刻そうに教えてくれた。
「相澤くんは本当今さっき、急用ができてしまってね。」
そっか、さっきの呼び出されてたやつ大事な用事だったんだ。何かの任務なのかなあ。でも授業飛ばしてまで別のこと優先するなんて珍しい。寝不足に拍車がかかんないと良いけど。
そのあとオールマイトは朗らかに授業の説明を始めた。いつもと同じ和やかな雰囲気。消太くんの行き先がどこなのかなんて、微塵も考えずにその声に耳を傾けていた。
「もっとスピード出せないのか。」
「うるせーな落ち着けよ。」
「USJで戦った……そんな素振り、微塵も……。」
「……なまえは、連れてこなくてよかったのかよ。あいつ相当白雲のこと……。」
「こんな気色の悪い話あいつに聞かせてたまるか。趣味が悪いにも程がある。」
消太くんとひざしくんだけの車内での会話。途方もない悪意を私が知ることになるのは、もっとずっと先の話。
大量のロボ敵が三奈ちゃん・透ちゃん・青山くんに向かって行く。それを彼女たちはいとも簡単に地面へと倒した。
「こーんな!」
「感じでーす!」
青山くんはキラキラを剣のように扱うネビルレーザー。透ちゃんは光の屈折。三奈ちゃんは粘性MAXの酸を身に纏う防御技アシッドマン。三人ともそれぞれ新技を披露して戻ってきた。彼女たちは具足ヒーローヨロイムシャさんの下でのインターンだったらしい。
今回の報告会は成長がわかりやすいよう対ロボ実践になった。入試の時はロボたちに苦労させられたけど、今はみんな軽々倒すことができる。一年間全員で頑張ってきた証だなあ。
私たちの出番は最後なので次々繰り広げられるみんなの技を興味深く見させてもらってる。尾白くんと砂糖くんは手数の多さと先読みの力をライオンヒーローシシドさんから、響香と障子くんはギャングオルカさんからより高度な索敵方法を教わったみたい。
瀬呂くん・上鳴くん・峰田くんはMt.レディさんたちチームラーカーズの下で最短効率のチームプレイ。飯田くんはさらにスピードに磨きがかかっていて「物腰!」と叫びながら一瞬でロボを倒してしまった。すごいけど物腰と攻撃速度の向上の因果関係はよくわからない。
口田くんはウォッシュさんに円滑なコミュニケーションを習ったようで前より生き物との意思疎通が図れているように見えた。常闇くんはホークスさん不在ながらも総合力がグンと上がってる。やっぱり彼のポテンシャル相当高いなあ。
切島くんは初速がかなり速くなっていてその気迫はファットさんそのもの。相手をいかに早く戦意喪失させるかが大事って言ってたもんね。お茶子ちゃんと梅雨ちゃんもリューキュウさんのところで決定力を磨いてきたみたい。新技のワイヤーもばっちり決まってた。最後に百ちゃん。魔法ヒーローマジェスティックさんのところでさらに予測と効率の精度を上げてきた。
たった一週間だったけどみんな明らかに強くなってる。見てると体がうずうずしてくるくらい。私たちも負けてられない。やっと自分たちの番が回ってきて存分に成果を発揮する。
「底上げ。」
「スピード。」
まず爆豪くんと焦凍くん。エンデヴァーさんに教わった溜めて放つ力の凝縮であっという間に数十体ロボを仕留める。
「並列思考。」
私も負けじとロボとロボの間を突っ切りこれまでより威力の高くなった風を的確に当てた。広範囲攻撃だけどコントロールはばっちり。焦凍くんたちが吹き飛ばしたロボも含めて下に落ちる前に空気で圧縮して動きを止め、周辺にも被害を出さないよう気をつける。
「経験値。」
緑谷くんも使いこなせるようになった黒鞭で空中に放り投げられたロボを掴んだ。身動きを取れなくしたところをキックスタイルで打ち砕く。
一通り披露し終わってみんなのところに戻ると歓声が上がっていた。切島くんがいち早く爆豪くんの元へと駆けつける。
「おいバクゴーてめー冬を克服したのか!」
「するかアホが!圧縮撃ちだ!」
私たちがこの一週間で繰り返し叩き込んだ溜めて放つ攻撃。これのおかげで冬が苦手な爆豪くんも威力を増すことができた。やっぱりトップヒーローに教えてもらえるのって相当贅沢だ。
「轟くんついに速いイケメンになっちゃったねえ。」
「いや……まだエンデヴァーには追いつけねえ。」
透ちゃんの言葉に首を振る焦凍くん。前とはまた違った意味でエンデヴァーさんを超えるべき相手として見据えているのがなんだか嬉しい。
「てかなまえのスピードと威力前にも増してやばくない?」
「何とかあの速さでも地面に落ちなくなったんだよ。」
響香に褒められて思わずにやける。前は落ちてたの?ってちょっと怒られちゃったけど今はもうそんなヘマしないから何とか許してほしい。
「緑谷使えてんじゃん。」
峰田くんが黒鞭の暴走を克服した緑谷くんに称賛の声を送る。緑谷くんは照れ臭そうに頭を下げた。
「うん!ご迷惑かけました……!」
「おまえなァ!俺の個性がアレになっちゃうよおまえ……!」
彼の背中を瀬呂くんが焦った様子で叩く。黒鞭とテープ、確かに使い方は被るよね。だけどどっちも強くてかっこいい。
「麗日さん!」
「ん!?」
みんなでわいわい感想を言い合っていると不意に緑谷くんがお茶子ちゃんの方へと向きを変えた。
「ちゃんと使えるようにしたよ。」
「んん!」
「あの時は本当に……ありがとう!」
「いつの話をしとるんだい!」
改めて合同訓練の時のお礼を言われたお茶子ちゃんは明るく笑った。そして新しく導入したアームからワイヤーを出して見せる。
「あんね!あれがキッカケでこのワイヤー導入したの。短いし瀬呂くんみたいな使い方はできんけど……。私はとっくに力に変えた。お互い向上したって事で!」
力強く緑谷くんの目の前に拳を差し出すお茶子ちゃん。眩しいなあ。彼もはにかみながらそれに自分の拳を合わせた。
「ありがとう‼」
何だか甘い空気が流れる。三奈ちゃんは恋の波動を感じてピョンピョン飛び跳ねながら喜んでたけど峰田くんは「何なん」と不満顔だった。私は響香と一緒に二人を微笑ましく見守っていた。青春だなあ。
授業時間が終わりに近づきオールマイトが総評に入る。
「皆しっかり揉まれたようだね。録画しといたから相澤くんに渡しておくよ!引き続きインターン頑張ってくれ!更なる、向上を――。」
クラス全体に話をしていたはずのオールマイトは最後にちらりと緑谷くんを見た。なるほど、更なる向上っていうのはワンフォーオールに対しての言葉ね。あんまり意味深な視線を授業中に送ったりするの良くないと思うんだけどなあ。ばれちゃうから。現にほら爆豪くんも完全に気づいてる。
案の定授業後着替え終わったら仮眠室に来るようオールマイトに耳打ちされた。うん、やっぱり。私も人のこと言えるような立場じゃないけどあの二人のわかりやすさはどうにかならないものか。更衣室に向かいながら隠し事が上手くなる方法について一人で頭を悩ませていた。