エンデヴァー事務所
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「集中すればできることを寝ながらでもできるようにしろ!やると決めた時にはすでに行動し終わっていろ‼」
エンデヴァー事務所に来て1週間。今日が冬休み中のインターン最終日だというのに、私たちはやっぱりエンデヴァ―さんの背中を追いかけている。こちらのスピードも初日に比べたら格段に上がっているはず。それでもいまだにエンデヴァーさんの速さには勝つことができず、課題は達成されないままだ。
「ここに来て何で力んでやがる……!」
「掴めそうなところで突き離される!」
「風女ァ!俺の前をうろちょろすンじゃねェ‼」
「ええ、そのあだ名久しぶりに聞いた。」
背中から爆豪くんの怒鳴り声が聞こえて爆破されるんじゃないかと思わず身を屈めた。味方からの攻撃心配しなきゃいけないって何?ここ数日エンデヴァーさんに追いつけなさ過ぎて彼のイライラも最高潮。正直敵より脅威かもしれない。
相変わらず私たちが到着した時には事件が解決されている。今だってもうひったくり犯連行されてるし。うう、悔しい。今日中にせめて一回だけでもエンデヴァーさんより先に助けたい。
「いくぞ‼」
「おお‼」
「ああ。」
「「はい‼」」
爆豪くんの言った通り今日のエンデヴァーさんはいつにも増して気迫あふれる感じだ。もうすぐ夕方だから犯罪が多くなるのを警戒してるのかもしれない。彼の熱のこもった呼びかけに私たちも大きな声で応え一層背筋が伸びた。
空がすっかり暗くなった頃今日はもう引き上げるということで一度事務所に帰ることになった。コスチュームから制服へと着替えながら、結局1週間で一度もエンデヴァーさんに勝てなかったなとため息を吐く。
もうすぐ冬休みが明けて学校が始まるので、私たちは今日一旦寮に戻る。次のインターンは来週末だっけ。昨日の夜に準備を済ませておいた鞄を手に取りロビーに向かっていると途中でバーニンさんに会った。
「お、帰るの?」
「はい、来週末またお世話になります。」
「今日は惜しかったからね!」
「次こそはエンデヴァーさんに勝ってみせます……!」
「その意気その意気‼」
ぺこりと頭を下げるとバーニンさんは快活に笑ってくれた。彼女は頼りになるサイドキックの筆頭。毎日すごく助けられてる。
バーニンさんと別れてロビーに急ぐともうすでに4人の姿があった。爆豪くんが不機嫌そうにこちらを睨む。
「む、来たか。」
「おせーわ。」
「ご、ごめんなさい。なるべく速く着替えたんだけど……。」
「別に急ぐことはない。」
待たせてしまったことを申し訳なく思い眉を下げるとエンデヴァーさんが気にするなと硬い表情で答えた。
「これから連れて行く場所がある。ついてこい。」
「え?」
この後私たちはもう帰るだけだったはずなんだけど。どういうことだろう。No.1直々にご飯を食べさせてくれるとか?それはかなり緊張する。
焦凍くん以外はみんなポカンとしていて私も状況が掴めていない。それでもエンデヴァーさんが無言で歩き始めてしまったので後を追って外に出た。頭にはてなを浮かべながらわけもわからずついて行く。
「な、なにが起こるんだろう……。」
緑谷くんが少し不安そうに口を開いた。あたりの空気はキンキンに冷えていて、白い息が空へと上がっていった。
「私にもさっぱり……。あれ、でもここ……あれ?」
「どうかしたの?」
歩くたびに段々と街並みが見覚えのあるものに変わっていく。バっと焦凍くんの方を見ると彼は私に向かって頷いた。
今日エンデヴァーさんがいつも以上に気合入ってた理由、わかったかも。そういえばさっきも表情が硬かった。あれはきっと、緊張の表れ。
「え、みょうじさん何かわかったの?」
「あ、いや、うん。でも……。」
ちらりと横の爆豪くんを盗み見る。うーん、鋭い目つき。これ絶対到着するまで詳細明かさない方がいいよね。
「着いてからのお楽しみ、かなあ。」
私は緑谷くんにだけ聞こえる声でそっと耳打ちした。久しぶりの彼の家に少なからず動揺している自分を押し込めて。
「何でだ!!!」
うん、やっぱこうなるよね。私たちがエンデヴァーさんに連れてこられたのは大きなお屋敷。その門をくぐったところで案の定爆豪くんは怒り狂っている。
「姉さんが飯食べにこいって。」
「何でだ‼」
「友だちを紹介してほしいって。」
「今からでも言ってこい!やっぱ友だちじゃなかったってよ‼」
「かっちゃん……!」
どう考えても近所迷惑な大声。これ中にいるおうちの人に聞こえてるんじゃないのかな。焦凍くん全然気にしてないみたいだけど。
「あはは、予想通りの反応。」
「あ、みょうじさんもしかしてこれを危惧して……?」
「うん、黙ってた方がいいかなって。」
「てめーコラ余計な気利かせてんじゃねェ‼」
私まで怒られてしまった。仕方ないじゃん。せっかく幼馴染の記念すべき日なんだから。焦凍くんが友達家に招くなんて、多分私以来のことだろうし。
それにしても。一応平静を装ってるけどさっきから心臓がうるさい。息が浅くなってる気がする。いざこの家に入るとなると色んなことが蘇ってきて正直ちょっと、怖い。
ここで焦凍くんに出会ったこと。一緒に遊んだこと。彼を助けられず長い間一人にさせてしまったこと。そして父の真っ黒い目。いくら自分の中である程度気持ちを整理できたと思っていても、どうしたって苦しい。無意識に瀬呂くんの顔が頭に浮かんだ。
「……なまえ、大丈夫か。」
焦凍くんの低い声に意識が引き戻される。いつの間にかみんな玄関の方に向かっていて、私は慌てて笑顔を作った。
「大丈夫。ちょっと懐かしくなってただけ。いこっか。」
「ああ。」
彼は気遣わしげに私を見たあとゆっくり歩みを進めた。焦凍くんにとってもエンデヴァーさんにとっても、そして他の家族の人にとっても。きっととても勇気のいる誘い。
私もいつまでも過去に囚われているわけにはいかない。少しだけ震える足で、その一歩を踏み出した。