エンデヴァー事務所
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「俺がおまえたちを育ててやる。」
No.1自らの申し出。私たち4人の表情が引き締まった。サイドキックの皆さんよりも間近で彼のパフォーマンスが見られて、しかも指導までしてもらえるなんて。この上ないチャンスだ。早速コスチュームに着替えて準備は万端。でもその前に。
「貴様ら二人のことを教えろ。」
そう言ってエンデヴァーさんは緑谷くんと爆豪くんに視線を向けた。そうだよね。何が弱点かわかってないと育てようがない。エンデヴァーさんは今各々が抱えている課題と今後できるようになりたいことを尋ねた。
「力をコントロールして、最大のパフォーマンスで動けるようにしたいです。」
まずは緑谷くん。超パワーの制御にはもう随分慣れたらしく、目下の課題は黒鞭を使いこなせるようにすること。今発現している二つの個性を問題なく使用できるようになれば、彼の言う最大のパフォーマンスは達成できる。
緑谷くんはエンデヴァーさんに出せる範囲で黒鞭を見せた。彼はこの力をリスクじゃなく武器にしたい。風圧での遠距離攻撃・エアフォースを黒鞭に転用できないだろうかとの提案の際、いつもの早口分析が始まってしまい爆豪くんはあからさまに顔を顰めた。今日はいつもより多めに喋ってるなあ。
「つまり……活動中常に綱渡りの調整ができるようになりたいと。」
「はい!」
なんと。緑谷くんの膨大な語彙をエンデヴァーさんは瞬時に理解したらしい。さすがNo.1。バーニンさんは「長くて何言ってんのかわかんない!」と切り捨ててたし私も途中で聞くの諦めちゃってたのに。驚いたのはそれだけじゃない。緑谷くんの話が終わったあとエンデヴァーさんは意外にも彼に労いの言葉をかけた。
「難儀な個性を抱えたな。君も、こちら側の人間だったか……。」
エンデヴァーさんは穏やかな瞳で緑谷くんを見ていた。なぜだか私は、この時初めてエンデヴァーさんが緑谷くんを一人の人間として認識した気がした。
こちら側というのは、きっと努力を積み重ねて天才オールマイトを追いかけ続けた自分自身を指しているんだろう。
緑谷くんはオールマイトから力を授かった特別な存在。エンデヴァーさんにはその超パワーをオールマイトと重ねて恨めしく思う気持ちがあったかもしれない。それでも、緑谷出久は私たちと何も変わらない高校生だ。与えられた個性に翻弄されながらヒーローになる為に必死でもがいている。
エンデヴァーさんは彼の説明を聞いたたった今、そのことを理解したんだと思う。オールマイトはオールマイト。緑谷くんは緑谷くん。ようやくその事実と向き合えるようになったんだ。
「次、貴様は?」
緑谷くんの次に声をかけられた彼は案の定な返事をした。
「逆に何が出来ねーのか俺は知りに来た。」
「ナマ言ってらー!」とバーニンさんが笑う。たけど爆豪くんの場合あながち間違ってない表現なんだよね。自惚れでもなんでもなくて実際に才能マン。やろうと思えば何でもできる。自分だけで突っ走るんじゃなくてチームで一緒に勝つことの意味もちゃんと理解した。
こうして並べてみると本当に無敵だ。彼に足りないものって何だろう。あ、愛嬌とか?怒られるから絶対言わないけど、実際それくらいしか思い浮かばない。だから彼はここに来たんだろうなあ。
「なまえはどうだ。体育祭の時はまだ不安定さも目立ったが。」
私にも順番が回ってくる。エンデヴァーさん、体育祭ちゃんと見てくれてたんだ。そういやあの時褒めてくれたっけ。焦凍くん以外に興味ないだろうって思ってたからちょっと嬉しいかも。
「私は、もっと速さが欲しいです。職場体験で風の使い方やコントロールの仕方を学んで威力もだいぶ上がりました。足で空気操作もできるようになったので前より自由に動けるようになったし並行処理も何とかこなせてます。でも、個性的にまだスピード上げられるんじゃないかと思ってて。今よりさらに速くなれば、救えるものも多くなりそうだな、と。」
つらつらと自分の現状について話しながら、私はナイトアイさんのことを思い浮かべていた。あの時もっと気が回っていれば。冷静に対処できていれば。致命傷を負う前に駆けつけられていれば。数えだしたらキリがない程の後悔。もう誰も失くしたくない。誰にもこんな思いしてほしくない。
だから強くなるって決めた。誰かが傷つく前に救い出せてこそヒーロー。だからもっと、速くなりたい。
「なるほど……腕だけで飛ばなくていいのなら、あいつより強くなりそうだな。」
「え……。」
ふわりと目を細めたエンデヴァーさんは私の向こうを見ている気がした。私に重なる、父の面影。あまり友を懐かしむようなタイプだと思ってなかったから面食らってしまったけど、よく考えてみれば彼の表情は当然なのかもしれない。ヒーローの中で誰よりも父と一緒にいたのはエンデヴァーさんなんだから。
インターン中に感傷に浸るわけにもいかず小さく息を吐いて気持ちを切り替える。エンデヴァーさんもすでに険しい顔に戻っていた。
「大体理解できた。では早速……!」
「俺も、いいか。」
3人分の課題が把握できたところで街に繰り出そうとエンデヴァーさんが背中を向ければ、ずっと黙ったままだった焦凍くんが口を開いた。
「ショートは赫灼の習得だろう!」
ゴオっと炎を上げてエンデヴァーさんが吠えたけれど焦凍くんは気にしてない。どうやら何か伝えたいことがあるみたいだった。
「ガキの頃おまえに叩き込まれた個性の使い方を右側で実践してきた。振り返ってみればしょうもねェ……。おまえへの嫌がらせで頭がいっぱいだった。雄英に入って、こいつらと……皆と過ごして競う中で……目が覚めた。」
こんな風に饒舌な焦凍くんは珍しい。相手がエンデヴァ―さんならなおさらだ。きっとエンデヴァーさんは彼の胸の内を初めて聞いてる。
「エンデヴァ―、結局俺はおまえの思い通りに動いてる。けど覚えとけ。俺が憧れたのは……お母さんと二人で観たテレビの中のあの人だ。」
宣戦布告のようにも思える言葉。焦凍くんは雄英に入って、緑谷くんに出会って、こんなにも強くなった。誰よりも憎んでいた父親と真正面から向き合えるほどに。
「俺はヒーローのひよっ子として、ヒーローに足る人間になる為に俺の意志でここに来た。俺がおまえを利用しに来たんだ。都合よくてわりィなNo.1。友達の前でああいう親子面はやめてくれ。」
焦凍くんは、親子の仲を修復させようとこの場に来たんじゃない。ここに来るのが自分にとって最善だと判断したから来たんだ。エンデヴァーさんにもそれが伝わったようでさっきとはまた違う顔つきになった。
「ああ。ヒーローとしておまえたちを見る。」
おまえたち。焦凍くんだけじゃなく、私達のこともヒーローとして扱ってくれてる。親友の娘でも息子の幼馴染でもなく、ちゃんとヒーローとして見てくれてる。No.1の力強いまなざしに、より一層気合いが入った。