エンデヴァー事務所
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ずっしりと重い心のまま元旦の朝を迎えた。あまりコンディションが良いとは言えず、正直これからのインターンは不安だらけ。だけどいつまでも実家にこもってるわけにもいかない。また時間のある時に連絡すると約束してお母さんと別れバスに乗り込んだ。一度コスチュームを取りに学校へと戻り、焦凍くんたちと合流してエンデヴァーさんの下へと向かう。
「……なまえ、どうした。元気ねえな。」
駅から集合場所まで歩いていると焦凍くんが心配そうに私の顔を覗きこんだ。慌てて首を振って笑顔を作る。
「そんなことないよ。寝不足だからかなあ。」
寝られてないのは本当の話。気になることが多すぎて睡眠どころじゃなかった。いやはやお恥ずかしいとおどけて見せると焦凍くんは「それならいい」と言って目を細めた。
「大晦日って見たいテレビ多くて困るよね。僕も結構夜更かししちゃったよ。」
「チッ、体調管理ぐれーしっかりしろや。」
「仰る通りで。」
同意してくれる緑谷くんにバッサリ切り捨てる爆豪くん。本当に正反対だなこの二人。言い方はかけ離れてるけどどっちも気遣ってくれてるのだとわかって少しだけ緊張がほぐれた。
「お、いた。」
焦凍くんの視線の先にはいかつい男の人。こう見るとやっぱり大きいなあエンデヴァーさん。街中だと結構目立つ。これからいよいよNo.1のそばでインターン。日記のことはひとまず置いといて切り換えなきゃ。
「ようこそ、エンデヴァーの下へ。……なんて気分ではないな!」
にこやかに挨拶してくれてほっとしたのも束の間、彼はすぐにいつもの険しい顔に戻った。
「焦凍の頼みだから渋渋許可したが‼百歩譲ってなまえは良いとしても焦凍だけで来てほしかった!」
「許可したなら文句言うなよ。」
「しょっ、焦凍‼」
なんか、思ってたのと違う。あれ、エンデヴァーさんってこんな人だったっけ。そういや彼と直接会ったのって体育祭以来だな。そこで時間が止まったままだから昔の怖いイメージが抜けてなかったのかも。身構えていたのにすっかり拍子抜けしてしまった。
エンデヴァーさんの心境に変化があったというのはどうやら本当だったみたい。実際見てみないとわかんないもんだなあ。以前までの近寄りがたい雰囲気はすっかりなくなっていて今日はちょっと、何だか可愛い。これならインターン大丈夫かもしれない。
「補講の時から思ってたが、きちィな。」
「焦凍本当にこの子と仲良しなのか!」
「まァトップの現場見れンならなんでもいいけどよ。」
「友人は選べと言ったハズだ!」
No.1に対しても全く怯まない爆豪くんによって一瞬でテンポのいい掛け合いが始まってしまった。え、本当に雰囲気柔らかくなったなあ。エンデヴァーさんの口から仲良しって単語出てくると思わなかった。補講で何があったのかすごい気になるからあとで聞いてみよう。
プンプンしているエンデヴァーさんを前に肩を震わせて笑いをこらえていると不意に彼と目が合った。タイミングはここだろうと思い頭を下げる。
「あの、今日からお世話になります。人数が多いにもかかわらずインターン受け入れて下さってありがとうございます。」
何て返ってくるのか内心ドキドキしていると、爆豪くん相手よりも随分穏やかな声が降ってきた。
「いや、呼んだのはこちらだ。よろしく頼む。」
顔を上げると彼は微笑んでくれていた。これまで一度も見たことのないエンデヴァーさんの優しい目。この時初めて焦凍くんにそっくりだと思った。
エンデヴァーさんがそれ以上何も言わなかったので私も何も聞かなかった。みんなの前では指名の理由は教えてもらえない。何だかそんな気がして。
私に続いて緑谷くんも挨拶を終え、事務所に向かって歩き始めたエンデヴァーさんの後を追う。その背中に再度緑谷くんが声をかけた。
「学ばせてもらいます!」
エンデヴァーさんは振り返ってちらりと緑谷くんを見た。彼は今、一体何を考えているんだろう。緑谷くんは彼が超えたいと思い続けたオールマイトの愛弟子で、No.1の力を受け継いだ存在。きっと複雑な思いが渦巻いてるはずだ。
「焦凍は俺じゃない……だったな。」
「え。」
小さく発せられた呟きはまるで自分に言い聞かせているようだった。体育祭で対峙した時のことを思い出す。焦凍くんは焦凍くんだけのもので、親の所有物じゃない。同じような会話を緑谷くんともしていたのかもしれない。あの時は真剣に取り合ってくれている感じがしなかったけど、今は違う。
エンデヴァーさんはちゃんと自分の過ちに気づいて、現状を変えようと努力している。そして彼に変化をもたらしたのは焦凍くんで、そのきっかけになったのは緑谷くんだ。不思議な縁だなあと、前を行く大きな背中を見て表情が緩んだ。
「!?」
ぞろぞろと歩みを進めていると突然エンデヴァーさんが歩道の柵を乗り越えた。どこかへ一直線に走っていく。これは多分、敵。
「申し訳ないが焦凍となまえ以外にかまうつもりはない。学びたいなら後ろで見ていろ‼」
もちろん私を含め四人ともその指示を聞くはずもなく。すぐさま鞄からサポートアイテムを取り出しエンデヴァーさんの向かった方へと駆け出した。私も瞬時にブーツに履き替えふわりと空中に上がる。
「後ろで‼見ていろ‼」
もう一度念押しされたけどやっぱり誰も動きを止めない。大人しく待ってるだけじゃインターンにならないもんね。
「後ろで見ていろって。」
「ついて行かなきゃ見れない!」
「スピード速すぎ……!」
私もかなりの速さで飛べるようになったはずなのに一向に距離が縮まらない。さっきもエンデヴァーさん衝撃音が鳴る直前から走り始めてたし。あまりに迅速。これがNo.1の実力。
大通りに差しかかって歩行者用の信号は赤。どうするんだろうと思っていたらエンデヴァーさんは炎の威力を増して道路を一気に飛び越えた。
「ごめん私も先行く!」
「ああ!?勝手に俺の前飛んでんじゃねェ‼」
「ごめんて!」
唯一インターバルなしで上空を飛べる私が一足速くエンデヴァーさんを追いかける。爆豪くんはブチギレてたけどこの緊急事態に気にしてる余裕はなかった。道の反対側まで行くとオフィス街のビルとビルの間に浮かんでいるご老人が見えた。どうやらあれが今回の敵らしい。
老人は何か叫びながら自分の頭上に大きな球を作っている。周りのビルから窓が消え穴抜け状態になっているのを見ると恐らく硝子操作の個性だろう。人通りが多い中あれが放たれるのはまずい。早急になんとかしないと。
そう思ってスピードを速めたけれど、私の焦りは一瞬で噴き飛んだ。
「いっ!?」
ようやくエンデヴァーさんを捉えたと思ったらものすごい熱がぶわりと頬を掠めた。ちょっと待ってあっつい。赫灼熱拳って間近で浴びるとこんな熱いの。
「硝子操作かご老人。すばらしい練度だが……理解し難いな。俺の管轄でやる事じゃない。」
いやもう本当にその通り。巨大なガラス玉はエンデヴァーさんの熱であっという間に溶けてしまった。すごい。っていや感動してる場合じゃなくて。
「逃げ遅れた人いないかビルの中確認します!」
「頼んだ!」
エンデヴァーさんは私の声を背中で聞きながら、熱さにたまらず逃げだした老人の後を追いかけて行った。しかも近くに居合わせた別のヒーローに避難誘導の指示まで出して。わかってるつもりではいたけど、これほどまでにNo.1は偉大なのか。あまりに学ぶことが多い。
「誰かいますか!?いたら返事お願いします!」
声をかけながら両サイドのビルを上から下まで確認する。うん、全員避難できてるみたい。私もはやく加勢に行かなきゃ。エンデヴァーさんのことだからもうすでに事は終わってるかもしれないなあと思いながらも、さっき老人が入っていった細い路地にくるりと方向転換した。
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