年末
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今日も外では雪が降っている。ホワイトクリスマスなんてロマンチックな気分。飾りつけも着替えも完了して、いよいよパーティー開始だ。友達とクリスマス一緒に過ごすなんて初めて。なんだかワクワクする。サンタコスもいつもと雰囲気が違って可愛い。丈が短いのがちょっと気になるけど。
『Merry Christmas!』
みんなで乾杯をしてオレンジジュースに口をつける。机にはずらりとご馳走が並んでいて何から食べようかと目移りしてしまうほどだ。唐揚げにアメリカンドッグにグラタン。料理は手分けして作ったけど完成度の高さはほぼ砂糖くんのおかげ。さすがシュガーマン。頼りになる。
「インターン行けってよー。雄英史上最も忙しねえ1年生だろコレ。」
響香とお茶子ちゃんの間に座って上鳴くんの言葉に耳を傾ける。私がエンデヴァーさんのところに行くのは多分まだ切島くんと焦凍くんにしか知られていない。
「二人はまたリューキュウだよね。」
「そやねえ。耳郎ちゃんは?」
「ウチは絞ってはいるけどまだちょっと考え中。てかあれ、なまえはどこ行くんだっけ?」
「あ、私は……。」
「エンデヴァーんとこだよな!」
私が答えるより先に切島くんがギザギザの歯を見せて笑った。みんなから驚きの視線を受ける。
「一緒にインターン行けねえのは残念だけどよ。間近でNo.1見られるなんて羨ましいぜ!」
「え、ファットガム事務所じゃないん?」
お茶子ちゃんも目を真ん丸にしている。うーん、やっぱ不自然だよね。個性が被るわけでもないし突然エンデヴァーさんのところなんて。でも消太くんから指名があったのは内緒でって言われてるしなあ。消太くん本人もなんで内緒なのか伝えられてないらしくて不服そうな顔してたけど。
「体育祭の時折角オファー頂いてたから……知らない仲じゃないし一度No.1のところで揉まれてくるのもいいかなと思って。」
「そっか、エンデヴァーこの前の空中戦もすごかったもんね。」
「うん、色々教わってくるよ。切島くん、ファットさんと天喰先輩によろしくね。」
「おうよ!」
当たり障りのない説明をすると響香を筆頭にみんなうんうんと頷いてくれた。よかった、納得してくれたみたい。
「緑谷くんはどうするんだい。その……ナイトアイ事務所……。」
ふさふさの髭と眉毛をつけてすっかりサンタさん仕様になってしまっている飯田くんが少し言いにくそうに緑谷くんに問いかけた。
「センチピーダーが引き継いでるんだろ!?久々に会えるじゃねェか!」
「僕もそう思ってたんだけど……。」
切島くんが楽しそうな顔を覗かせたけど緑谷くんは困ったように眉を下げた。どうやら今ナイトアイ事務所は引継ぎに追われているみたい。忙しくてインターン生を受け入れる余裕がないのだそうだ。ちなみに彼の職場体験先だったグラントリノさんのところも受け入れが難しいらしく、緑谷くんは宙ぶらりんの状態。任意参加だった前回とは違い今回は全員に課せられる課題だから学校が紹介してくれるみたいだけど、やっぱり気心知れた仲の方がやりやすいよね。
「爆豪はジーニストか!?」
「あ!?」
急に切島くんに話題を振られた爆豪くんはすごい勢いで凄んできた。さっきからずっと上鳴くんと三奈ちゃんが彼にサンタコスを着せようと攻防を繰り返してたみたい。こちらに気を取られた一瞬で爆豪くんはサンタさんの帽子をかぶせられてしまっている。
「……決めてねえ。」
少し間を置いて小さく答えた彼が何を考えていたのかすぐにわかった。ベストジーニストさんが行方不明になっていること。彼もジーニストさんの強さを認めてかなり懐いてたはずなのだ。次に会った時にヒーロー名を教えるという約束を、彼はまだ果たせていない。
「でもまーおめー指名いっぱいあったしな!行きてーとこ行けんだろ。」
「今さら有象無象に学ぶ気ねェわ。」
爆豪くんは切島くんの言葉を帽子と一緒に跳ね除けた。それでもなおサンタコスを着せようとしてる三奈ちゃん。メンタル強いな。もちろん爆豪くんはブチギレてたけど、その横顔は少しだけ寂しそうに見えた。
「おオい!!!清しこの夜だぞ‼いつまでも学業に現抜かしてんじゃねー‼」
斬新な視点の峰田くん。学業に現を抜かすとは。私たちの本分ですが。
「まァまァ、峰田の言い分も一理あるぜ。ご馳走を楽しもうや!」
『料理もできるシュガーマン‼』
砂糖くんが持って来てくれたのは七面鳥の丸焼き。すごい、テレビとかで見るやつ。そういえばまだ料理口付けてなかった。温かい内に食べないとね。みんなのテンションも上がって早速切り分けようと張り切ってる。するとその時玄関のドアが開いた。
「遅くなった……もう始まってるか?」
低い声とともに現れたのは消太くんとサンタコスをしたエリちゃん。うっ、可愛い。
「とりっくおあ、とりとー……?」
「違う混ざった。」
『サンタのエリちゃん!』
赤と白の衣装に身を包んでたどたどしくハロウィンの文言を繰り出すエリちゃん。その可愛さは破壊級で私を含めみんなメロメロ。わらわらと駆けよって彼女の訪問を歓迎する。
「おにはそとおにわうち。」
「年中行事のお勉強したのかな?えらいね~!」
「完全にクリスマスのことは誤解して覚えてるけどな。」
すごいと頭を撫でれば結構冷静に切島くんにツッコまれた。いいんだよ、エリちゃん可愛いから。今日は通形先輩もクラスの人と過ごしてるらしく、消太くんと二人だけだ。
「角……また大きくなってますね。」
「本当だ。」
緑谷くんがこっそり消太くんにエリちゃんの角のことを言及する。彼らの視線を辿ればエリちゃんのおでこ。帽子から覗いている角は以前より少しだけ成長しているように見えた。
「前向きだよ。おまえらの言葉をちゃんと受け止めてる。」
消太くんはふっと目を細めた。あの小さな体で、自分の個性と向き合おうと頑張ってる。すっかりA組に溶け込んでいるエリちゃんを見るだけで何だか勇気がもらえた。
ファットさんとの電話を思い出す。そうだ、今は楽しむとき。せっかくエリちゃんも来てくれたんだから今日という日を楽しまなくちゃ。
響香がギターを取り出し歌い始める。彼女の歌声にみんなも合わせて、最終的にはクリスマスソングの大合唱になった。飯田くんが指揮棒を振ってくれているのでなんか本物のサンタさんが指揮してくれてるみたいで面白い。
その後お腹いっぱいご馳走を食べていよいよプレゼント交換。それぞれのプレゼントに繋がれた紐を一人一本選んで思いっきり引く。
「え、なんか重い……?」
引っ張った紐にかなりの手ごたえがあり不思議に思って包みを開ける。中身を見ると私は切島くんからのダンベルを引き当てていた。筋トレしろってことかな。
「これ誰の!?めっちゃ嬉しいんだけど!」
「あ、それ私。ゆっくり癒されてね~。」
「なまえか!さすがセンスある!」
私のバスソルトセットは三奈ちゃんが引いたみたい。喜んでくれてよかったあ。抱き着いてきた彼女をしっかり受け止め笑い合う。
響香が瀬呂くんからのブランケットを引き当てていて、こっそり交換する?と聞きに来てくれたけどさすがにそれは断っておいた。せっかくのプレゼントだし、交換がばれた時めちゃくちゃ恥ずかしいもんね。危ない橋は渡らないでおく。
他には常闇くんが持って来ていた大きい剣?エクスカリバー?みたいなものがエリちゃんの手元に渡ってしまっていた。あまりに強運過ぎてお腹が捩れるほど笑った。いやプレゼントの癖強すぎでしょ。
あっという間にパーティーは終わってみんなで後片付けをする。空になったお皿をキッチンに持っていこうとした時、焦凍くんが不意に近くの二人に声をかけた。
「緑谷、爆豪。もし行く宛が無ェなら来るか?エンデヴァーのインターン。」
私も思わず片付けの腕を止めた。声をかけられた本人たちは私以上にぽかんとしてしまっている。突然の申し出だもんね。でも確かに、No.1ならそれこそ有象無象じゃないしピッタリかも。
「え、でもみょうじさんも行くんだよね?そんなに大勢迷惑なんじゃ……。」
「サイドキックも多いでけェ事務所だ。学生4人受け入れて綻びが出るようなことはないだろ。」
「そ、そうなのか……。」
緑谷くんは少し考えこんだ。どうするか迷ってるのかな。爆豪くんはというと不機嫌そうに顔を顰めたあと重々しく口を開いた。
「行ってやるわ。てめーの指図受けたからじゃねーからな。」
「せめてお礼言いなよ。」
「るっせえわ!」
やば、あまりの理不尽に口出しちゃった。焦凍くんは気にしてないって微笑んでたけど恩人に対してひどすぎるよね。何でこの二人こんなに仲悪いんだろう。いや仲悪いと思ってるのは爆豪くんだけか。
「僕もお願いするよ。こんなチャンス二度とないかもしれないし!」
どうやら緑谷くんは前向きな結論に辿り着いたみたいだ。これで4人でのインターンが確定。焦凍くんと二人だからとのほほんと構えていたけど、この三人の中に一人で放り込まれるのはちょっと、いやかなり不安要素満載かもしれない。主に精神面で。何事もないと良いけどなあ。
「よろしくね、三人とも。」
「ああ。」
「こちらこそ!」
何はともあれぺこりと頭を下げれば焦凍くんと緑谷くんはにっこり返してくれた。爆豪くんは無言で片付け続行。まあわかってたけどね。二人きりの時の方が優しいんだよなあ爆豪くん。
不安も疑問も少なからずあれど、久しぶりのプロの現場に心躍るのも事実だった。エンデヴァーさんに会うのはまるで父と対峙するようで怖いと思う気持ちもある。だからこそ、このインターンでは何か掴めるかもしれない。自分の中で大切な何かが。その中でホークスさんの真意もわかれば万々歳だ。
そして今度こそ、誰の手も取り零さない。ナイトアイさんの笑顔が浮かんで、私はぎゅっと拳を握り締めた。