年末
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ちらちらと雪が降る中今日は響香と百ちゃんとショッピングに来ている。もちろんちゃんと外出届を出して。街はすっかりクリスマス仕様で、大きなツリーやお店のディスプレイを見るだけで楽しい気持ちになる。
「プレゼントってどういうのがいいのかな。」
可愛い雑貨屋さんで響香がマグカップを手に取りながら難しい顔をしている。私と百ちゃんも店内をきょろきょろしながら頭を悩ませていた。
「女の子に当たるか男の子に当たるかもわかんないもんね。」
「どなたでも使えるものを考えなくてはいけませんね。」
どうしたものか。誰の手元にいくかわかんないからアクセサリーとかコスメじゃ駄目だし。香り系も好き嫌いあるからなあ。
「響香は歌のプレゼントでも良くない?アルバム作って渡すの。」
「いやさすがにそれは恥ずい……。」
「あら、私もいい考えだと思いますけれど。」
「私なら欲しい。」
「なまえが引くかはわかんないじゃん。」
それはそうなんだけど。響香のファーストアルバムだよ?絶対欲しいでしょ。本人は赤い顔で否定してるけどクラスのみんななら誰であってももらって嬉しいと思うんだけどなあ。
「食べ物はどうでしょう。日持ちするものならしばらく楽しめますし。」
「あ、それいいかも。それなら男女関係ないよね。」
「でしたらあちらにあるパティスリーに行ってみましょうか。」
「待ってウチもうちょっとこのお店見たいかも。」
「じゃあ一旦別行動にする?」
ちょうど行きたい場所も違うしせっかくプレゼント交換だからお互いの買う物は秘密で、ということになり一度ばらけることになった。時間を決めて近くのカフェで落ち合うことにする。二人とも何買うんだろ。楽しみ。
私は事前に目をつけていた雑貨屋さんを訪ねてみることにした。可愛いだけじゃなくて色んなテイストのものが揃ってるお店だ。あ、このお皿可愛い。って自分用のもの買いに来たんじゃないんだった。
どうしようかなあ。部屋に置いてて邪魔にならない、みんなが使ってくれるようなもの?やっぱり消耗品がいいのかな。うーん。
色んなものがありすぎて頭がこんがらがっているとふとあるコーナーに目が留まった。入浴剤。ちょっとありかもしれない。
見るとかなり色んな種類がある。クラスでお風呂嫌いって人聞いたことないもんね。自主練の疲れも取ってもらえるかもだし。この中で匂いきつくないやつ選べば喜んでもらえるんじゃないだろうか。
入浴剤の成分なんかも念入りに確認して吟味を重ね、ようやくシンプルなパッケージのバスソルトセットに決めた。レジに持っていき店員さんにプレゼント用でと告げる。どうやらこの時期ならではのラッピングがあったみたいで、クリスマスを連想させる可愛らしいイラストが描かれた包み紙で包装してくれた。
一仕事終えてスマホを見ると待ち合わせの時間ギリギリ。慌てて約束のカフェに急ぐ。店の前にはもう二人の姿があって、寒い中待たせてしまったことを申し訳なく思った。
「ごめん、遅くなっちゃって……。」
「ウチらも今さっき来たとこ。買うもん買ったし入ろっか。」
二人も手に可愛らしい袋を下げている。何を買ったのかものすごく気になるけどそれは聞いちゃいけない。楽しみは当日まで取っておかなきゃ。私たちは冷えてしまった体を温めようとカフェに入った。幸い中は混んでなくてすぐに案内される。席についてそれぞれ飲み物を注文し、ほっと一息ついた。
「クリスマスにクラスでパーティーとか、かなり青春だよね。」
「私初めての経験ですわ。」
「私も。」
百ちゃんと顔を見合わせて笑う。お店の外に目を向けると街は賑やかでみんなどこかソワソワして楽しそう。クリスマスのこの雰囲気が私は好きだ。
「でもなまえはもっと青春しなくてよかったわけ?」
「え?」
「プレゼント選び、ウチらと来てよかったのかってこと。」
頼んでたミルクティーに口をつけていると響香から意味ありげな視線を送られた。すぐに何が言いたいのかわかって明後日の方向を見る。
「あー、誘われなかったから?」
「それなまえがウチらと買い物行くって瀬呂に話してたからじゃん。」
「私達のことは気にせず瀬呂さんと遊びに出掛けてもよろしかったのですよ?」
「だ、だってたまには女の子同士でショッピングしたいじゃん。それに……。」
「それに?」
「あ、いやなんでもない。」
響香の目は疑わしげだったけどふーんと呟いただけでそれ以上追及はしてこなかった。百ちゃんは首を傾げてる。多分響香には色々ばれてるんだろうなあ。気づいてることを指摘してこないのは彼女の優しさだ。
本当は、個人的に瀬呂くんへのプレゼントを選びたかったから彼と買い物に来るのを避けたのだった。初デートの時も文化祭の時も、彼にはもらってばかりだから。クリスマスくらいは何かお返しをしたいと思った。物に限らず彼には普段からお世話になりっぱなしだし、お礼の意味も込めて贈り物ができないかと前々から考えていた。
でもまだこれってやつが見つかってないんだよなあ。プレゼント交換用のものはちゃんと買えたのに。結局このまま帰ることになっちゃったらどうしよう。
「そ、そういや年明けからは忙しくなるね。二人はインターン先決めた?」
悶々と頭を悩ませながらも無理やり話題を変える。響香のじとりとした視線は刺さったまま。納得してない様子ながらも二人は私の問いかけにのってくれた。
「私はマジェスティックさんのところにお邪魔しようかと。」
「魔法ヒーローの?」
「ええ。効率を重視しておられる方ですので学ぶことは多いかと。」
「なるほど。マジェスティックさんの個性ってアニメみたいで見てて楽しいよね。」
実は百ちゃんも間近で魔法が見られることにちょっとワクワクしてるらしい。可愛い。やっぱりみんな一度は憧れる力だもんね。
「ウチはまだ決まってなくてさ。」
「個性的に言えばマイク先生だよね。」
「そうなんだけど、やっぱ外で揉まれてきた方がいいじゃん?障子と同じとこ行かないかって話してるんだけどあんまり思いつかないんだよね。」
「音に特化していて索敵も得意な方……。」
頭を捻っているとある人物の顔が浮かんだ。仮免を取得した私たちにとっては結構身近な人だ。
「ギャングオルカさんは?あの超音波って攻撃だけじゃなくて探知にも使えるんじゃなかったっけ。」
「ギャングオルカ……。」
キョトンとしたあと響香の顔がみるみる明るくなる。
「いいかも。帰ったら障子に言ってみる。一応プレゼントマイクに知り合いのリスト作ってもらってるからそれも考慮してみてだけど。」
「それがいいよ。こういうのやっぱ慎重に決めたいもんね。」
ありがとうとお礼を言われてなんだか照れてしまう。役に立てたのかな。よかった。
「なまえさんはどちらに行くか決まっておられるのですか?」
当然最後は私の番になる。だけど昨日急にエンデヴァーさんのところに行くことが決まりまだ詳細もわからない。下手に答えられない状況なのだ。
「うーん、私もちょっと悩み中。」
結局曖昧に濁してしまった。二人には申し訳ないけど、私が余計なこと言って大人たちの思惑台無しにしちゃったらまずいもんね。こういう時は何も話さないのが一番。
そろそろ帰ろうということになり支払いをしてお店を出る。うわ外寒い。白い息が漏れて空へと消えていった。
そういえばまだ瀬呂くんのプレゼント買ってない。このまま駅に着いちゃったらまた一人で外出しなきゃだなあ。まあそれでもいいか。
ゆっくり足を進めているとあるディスプレイが目に入った。思わず立ち止まる。色もデザインも、なぜか一瞬でこれだって思ってしまった。
「?どうされましたなまえさん。」
「……ごめんちょっと待ってて!」
「え、ちょなまえ!?」
急いで走ってお店に入る。響香の声はあんまり聞こえてなかったかもしれない。ごめん。
お目当てのものに手を伸ばし質感を確かめる。うん、やっぱりこれだ。店員さんに丁寧に包装してもらい、何分もしないうちに響香たちの元へと帰った。
「急にどうしたのよ。」
「あ、いやごめん。良いデザインの商品あったから自分用にと思って。」
「……自分用に、ね。」
全部お見通しといった響香の言葉に冬だというのに汗が出てくる。寒空の下二人を待たせてしまったことへの罪悪感もあってとうとう私は白状した。
「う、嘘ですごめんなさい。その、瀬呂くんへのプレゼントみたいな……?」
「なるほど、だから今日は瀬呂さんとデートにいらっしゃらなかったのですね!」
「ウチは気づいてたけど。」
あ、やっぱり。百ちゃんはきらきらと目を輝かせていてちょっと居たたまれなくなる。正直に言ったけどかなり恥ずかしい。顔の火照りを誤魔化すように私はふるふると頭を振った。
「それ、喜んでもらえるといいね。」
指さされたのは私の持っている包み紙。大事に抱える私を見て響香は可笑しそうに笑っていた。
「……うん。」
ふわりと頬が緩む。これを渡す時、彼はどんな顔をするだろうか。いつもみたいに優しく目を細めてくれるだろうか。数日先のクリスマスを想像して、胸の高鳴りは増すばかりだった。