番外編
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A組との反省会が終わりB組の寮に帰ってきた。けど明らかに空気は重い。拳藤たちに怪訝な目で見られたが今の俺たちはそれを気にする余裕がなかった。のそのそと階段を上がって回原の部屋に集まる。
「あー、とりあえず。生きてるか回原。」
「……今ちょっと話しかけんな。」
恐らくこの中で唯一ショックを受けてないだろう泡瀬がベッドでうつ伏せになっている回原に声をかけた。が、やはり顔を上げない回原。当然だ。さっきの場面を見てしまったら彼女に好意を寄せていれば誰でもこうなる。かくいう俺も告ってもないのに失恋した気分だ。
「あのさ、回原ってやっぱりそうなの?みょうじさんのこと本気なんだ?」
骨抜の鋭い指摘に回原はゆっくりと体を起こした。
「そーだよ。あんなん見ちまったらもうどうにもできねえけど。」
「え、諦めんの?」
「いやだってあの顔見ただろ。轟とか爆豪とかすげー奴ら周りにいんのに靡いてなさそうだったからちょっと安心してたのにあんな……あんなさあ!」
「落ち着きなよ。」
半分涙目の回原を骨抜が宥める。確かにみょうじがA組男子と良好な関係を築いてるのは今日の様子を見てればわかったが、轟とは付き合ってないときっぱり否定してたし爆豪ともそれほど色気のある雰囲気には感じなかった。ちょっと自分にもチャンスがあるんじゃないかと思った矢先に、だ。俺らに釘を刺すようなあの目。合宿と同じくはっきりと牽制されてしまった。あんな至近距離でイチャつきやがって。クソ、腹立ってきたな。
「みょうじさん俺らと話す時と全然違う顔してたもんな……。」
「言うなよ!悲しくなるから!」
悲壮感に満ち溢れている円場がため息を吐くとさっきまで似たようなことを言ってたはずの回原が必死で抵抗の声を上げた。いや全然諦められてねえだろ。
「なんだよ、円場も結構本気だったのか。」
泡瀬がキョトンと円場の方を見た。視線を向けられた本人はこれほど直球で聞かれると思ってなかったのかわたわたと慌て始め顔を真っ赤にさせている。
「いやっ……俺は何つーか憧れの方が大きかったんだけど……今日ちゃんと話してみてやっぱ可愛いなって思ってさ。柔らかい雰囲気で会話の時目見つめる感じとかさ。マジで一瞬骨抜になりたかったもん俺。」
「あー、怪我心配してくれたやつね。あれは俺もグッときちゃった。」
「顔に出ねえのがすげーよ柔造……。」
回原の言葉に同意しながらなんとなくみんな尊敬のまなざしを骨抜に向ける。いつだって柔軟な対応ができるこの男はかなりスマートだ。女子との接し方がこの中で一番うまいのは多分骨抜。次点で泡瀬。俺は回原と円場ほど表情に出る方じゃないがそれでも彼女に見つめられれば視線を逸らすなりしてしまうと思う。
「ていうかさ、回原も円場も諦めるなら俺攻めちゃっていい?」
「「「は?」」」
骨抜からの突然の爆弾発言に回原・円場・俺の声が重なった。気持ち悟られないよう今までずっとだんまり決め込んでたのに台無しじゃねえか。ってそれどころじゃない。
「自分で言うのもなんだけど俺結構良い線行けると思うんだよね。ちょっと瀬呂と被るとこない?」
「は!?いやっ、な、くはないけども!?」
「自分で言ってて悲しくねーのかよそれ!付き合っても瀬呂の代わりとして扱われてんだろーが‼」
「とりあえず付き合ってみてそこからちゃんと惚れてくれればいいんじゃない?一緒に過ごせば違う人って認識するだろうし。」
「「柔軟な応対!!!」」
「お前ら声でけーよ。」
円場と回原の応酬を泡瀬が冷静に鎮める。骨抜はいたって飄々としていて確かに瀬呂に似てる部分はあるなと苦笑してしまった。
「じゅ、柔造が手出してくんなら話は別だろ!俺だって諦めねえ!」
「俺も俺も!瀬呂と付き合ってるわけじゃないんだよな!?なら可能性はあんじゃん!」
「限りなく0に近いかもしれねえけどな。」
「「何でそんなこと言う!?」」
もはやコントじゃねえか。完全に泡瀬面白がってるし。骨抜は本当に宣戦布告のつもりで言ったのか俺らを焚きつけるためだったのか。友達思いな一面を知ってるだけによくわかんねえな。多分普通に前者なんだろうけどさ。
「今日きっかけできたし明日から廊下で会ったら話しかけれるからな!?」
「俺はもうお菓子渡した仲だしな!」
「何それ聞いてない!いつだよ!」
「まあ現状みょうじと一番仲良く話せんのは俺なわけだけど。」
「「泡瀬お前はもう黙れ。」」
息ぴったりかよ。仲いいなお前ら。頬杖をついて成り行きを見守ってるとふと横から視線を感じた。
「で、鱗はどうなの?」
「え。」
「ずっと傍観決め込んでるけど。みょうじさんのことどう思ってる?」
俺にまで爆弾ぶっこんで来るのかよ骨抜。頼むから見逃して欲しかった。全員分の疑惑の目に思わず口ごもる。
「そういやB組で最初にみょうじさんと仲良くなったのって実は鱗だよな。」
「いや仲良くはなってねえよ。ちょっと会話しただけだし。」
「でも目合わせて手振り合ったりしてたじゃん。」
「それは向こうが振ってくるから……無視すんのも違うだろ。」
「クソ、何だよ余裕かよ。」
すっかりやさぐれてしまっている円場。まあこいつよりベッドで睨んでる回原の方がこえーんだけど。泡瀬と骨抜は単純に興味なんだろうな。あんまり触れられたくなかったけどこうも注目が集まってるんじゃ仕方ない。
「……なんにせよ俺らが無理矢理みょうじのこと振り向かせるってことは今日見たあの嬉しそうな顔奪うってことだろ。下手に動けねーよ。」
俺がため息を零すと残りの4人はグッと黙った。みょうじの瀬呂を見る表情。なんか恥ずかしそうで熱を帯びてて、すげえ幸せそうだった。あの顔が自分に向いたらどんなにいいかと思うけど多分俺じゃ難しい。わかってるからできるだけ気持ちに蓋をしてきたのだ。
「でも、自分と付き合っていっぱい幸せにしてやればいーじゃん……。」
「それだと瀬呂とうまくいかなくなるって過程がいるだろ。」
「そうだけどさ……。」
なんかお通夜みたいな空気になってしまった。痛いところを突かれたのか円場と回原はバツが悪そうにしている。骨抜もちょっと考え込んでる。
「まあ、なんだ。その、好きでいるのは自由なんじゃねーか?いつ好機が巡ってくるかもわかんねえし無理に諦めなくても、な?」
さっきまで面白がっていたはずの泡瀬が慰めモードに入った。みんな「ウン……」「ソダネ……」と明らかに生気のない返事をしている。
余計なことを言った自覚はあるが彼女の気持ちは無視できなかった。好きな相手だからこそ傷つけることはできない。そもそも俺らが一方的に好きになってるだけだしな。彼女からしたらこんな議論が交わされてること自体迷惑千万だろう。
それにさっきちょっと思ってしまった。瀬呂の顔を見て笑う彼女が一番可愛いと。照れたように目を細めるあの笑顔を守れるなら、俺はちょっと遠くから眺めているだけでいい。欲のない男だと言われればそれまでだ。
結局みんな意気消沈のままお開きになり自室に戻った。帰り際に骨抜が「もっと自分に正直になってもいいと思う」と言ってくれたけど、欲望丸出しで彼女に接するより今の距離感の方がずっといい気がした。多分俺にとって「みょうじの気持ちを優先したい」が正直な願望だと思うから。
心の中の瀬呂に対する羨ましさは見なかったことにしておく。