合同訓練
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寮の玄関を開ければ何やら聞き覚えのある叫び声が響いていた。えーと何、どういう状況?
「俺は金属故に熱に耐えられる‼だが‼金属故に限界硬度がある!打てば打つ程硬くなるてめーとは違ってな!俺とおめーは‼違う強さがあんじゃねえのか!?」
「うおおてつてつー!」
なるほど、大体わかった。鉄哲くんが切島くんに拳で叱咤激励してたわけね。慣れてきてしまっている二人の熱血やり取りを横目に、緑谷くんと外寒かったねって共同スペースへと入っていく。
「飯田くんただいま。」
「おかえり!晩ごはんはビーフシチューだぞ。」
「やったあ、B組の人たち来てるんだ!」
「ああ!反省と交流を兼ねて何名か!」
鼻を赤くさせながら部屋の暖かさを噛みしめてると飯田くんが今日のメニューを教えてくれた。ビーフシチュー嬉しい。さっそく食べようと緑谷くんと一緒にキッチンに向かっていると後ろから焦凍くんに呼び止められる。
「緑谷探したぞ。おまえも個性2つ持ちだったのか?」
その質問内容から私はいない方がいいだろうと察してそろりとその場を離れる。背中から会話が聞こえてきて、どうやら焦凍くんは緑谷くんが個性2つ持ちなのを隠してたと勘違いしたみたいでちょっとしょんぼりしてた。緑谷くんが慌てて今日初めて発現したもので自分も知らなかったし根本は一つの個性だと思うと説明する。そしたら彼はあっさりそれを受け入れて大変だったなって緑谷くんを労っていた。
焦凍くんは鋭いのかそうじゃないのかわからないなあ。秘密がばれてしまうんじゃないかって内心ひやひやしてたけどこれなら大丈夫そう。物事を素直に受け取れるのは彼のいいところなのでそのまま突き進んでほしい。
二人の話がまだ続きそうだったので一人分のビーフシチューをお皿にとって空いてる場所を探す。B組もいるから結構いっぱいだなあ。どこに座ろうかキョロキョロしてると泡瀬くんと目が合って手招きされた。
断る理由もないので大人しくそちらにお邪魔することにする。テーブルにお皿を置かせてもらってソファに腰かける。そこには泡瀬くんの他に上鳴くん・尾白くん・円場くん・鱗くん・回原くん・骨抜くんがいた。大所帯だ。
「ちょーど今みょうじの話してたんだよ。」
「え、私の?」
嬉しそうな上鳴くんに首を傾げる。何だろう。今日の試合捕まっちゃったし改善点とかかも。ぜひお聞かせ願いたい。
「骨抜とみょうじどっちがより先を読めるのかってな。」
「今日はかなりしてやられたからね。」
泡瀬くんに続いて骨抜くんも頷いてくれたけど私ははてなでいっぱいだ。百ちゃんならまだしも私が彼と同じ土俵に立ってるとは到底思えない。
「結局投獄されちゃったし骨抜くんに裏かかれてばっかだったと思うけど……?」
「でも飯田に轟のところ行くよう指示したのみょうじだろ?近接得意な尾白早めに解放できるよう回原拘束したんだろうし。」
「んん、それは確かにそうなんだけど。」
ビーフシチューに口をつけながら鱗くんの分析に耳を傾ける。あ、おいしい。褒めてくれるのはありがたいけど買い被りすぎだ。回原くんの投獄に結構時間かかって出遅れた感満載だったし。
「あの時本当に助かったよ。回原くん強すぎてやばかった……。」
「そう言ってくれんのはありがたいけど俺はまんまとみょうじさんに捕まった男だよ。」
「ドンマイ。」
あの時の話題が出て勝手にちょっと気まずくなってたけど回原くん本人がおどけて返してくれたので胸を撫でおろした。隣の円場くんに慰められながら苦笑いしてる回原くん。心の中でもう一度ごめんねと謝った。
そう言えばと思い出して骨抜くんをじっと見つめる。視線に気づいた彼には意図が伝わってなくて困ったみたいに笑われた。
「俺の顔に何か付いてる?」
「あ、ごめん。顔の腫れ引いてるなって思ってつい。」
「ああ、もう今は何ともないよ。ありがとね。」
不躾だったかなあって反省してたけど大丈夫っぽい。お礼まで言われてしまってなんだか照れる。骨抜くんと和やかな雰囲気になってるとそれを見ていた上鳴くんが口を挿んだ。
「え、俺もちょっと心配されたいかも。」
「上鳴くんは試合終わったあとかなり元気に見えたけど?」
「手厳しい!かすり傷はめっちゃあったって!」
下心見え見えな彼に片眉を吊り上げるとべそかきながら尾白くんに同意を求めてた。尾白くん困ってるからやめてあげて。確かに上鳴くんも宍田くんに吹っ飛ばされたりしてたけど今はもうすっかり傷が治ってる。心配するとしたら思いっきり頭打ってた鱗くんか角刺さってた尾白くんか響香のハートビートサラウンド正面で浴びてた泡瀬くんだ。三人ともなかなか痛そうだった。
「まあみょうじさんに心配されちゃ悪い気しないよね、回原。」
「何で俺に振るんだよ……。」
「俺は骨抜と同意見だぞ。」
「円場の目がマジすぎる。」
なぜか骨抜くんまで上鳴くんのおふざけに乗ってしまい回原くんが餌食になってた。円場くんも彼の意見に賛同しててそれに泡瀬くんがツッコんで鱗くんは一連の流れを面白そうに眺めてる。B組は普段こんな感じなのかな。っていやそうじゃなくて。
「そ、そんなことないと思うけど……爆豪くんとか。」
あまりに持ち上げられすぎて思わず否定してしまう。心配されるの嫌がりそうな最たる例を出せばその場の全員が苦い顔をした。
「あれは特殊でしょ。」
「つーかかっちゃんも嫌がってはねーだろ。照れ隠しじゃん?」
尾白くんと上鳴くんが肩を竦めるからちらりと話題になってる彼の方を見る。ばっちり目が合ってしまって「あ"?」という低い声とともに凄まれてしまった。
「まあ爆豪くん私のこと大好きだもんね。」
「今のやり取りでどうしたらその発言が出んだよ。」
一部始終を見ていた上鳴くんにまともなツッコミをもらってしまって悔しい。B組のみんなはちょっと意外といった顔で私を見ていた。
「みょうじさんって結構愉快な人なんだね。」
「つーか爆豪相手に物怖じしねえのスゲエな。」
褒められてるのか微妙な骨抜くんと泡瀬くんの言葉に上鳴くんが「みょうじかっちゃんに対してはいつもこんな感じよ」って答えてた。いやどんな感じ?
「え、みょうじさん爆豪と仲いいの?」
「うん、マブダチだよ。」
「絶対怒られるよねそれ。」
円場くんに信じられないって顔で尋ねられて良い笑顔で返せば尾白くんから鋭い指摘が入る。爆豪くん、さっきから自分が話題に出てること気づいてめちゃくちゃこっち睨んできてるもんね。気づかないふりするけど。
「轟とも幼馴染なんだろ?」
「試合後もすげえ仲良さげだったよ。下の名前で呼んでたし頭撫でてたし。」
「……本当に付き合ってねえの?」
「付き合ってないです。」
今度は鱗くんから別の名前が飛び出してきた。骨抜くんの補足に回原くんから疑いの眼差しが刺さる。だから違うんですって。本日二度目の否定を口にすれば珍しく上鳴くんがまあまあ落ち着けって助け舟出してくれた。
「まー、爆豪と轟は目立つしさァ。傍から見りゃそんな風に見えっかもしんないけどね?みょうじのこと気になるってんなら真に警戒すべきなのは、」
彼が言葉を続けるより先に誰かの手が私の頭に乗った。目の前に差し出されたのは小さなココット。
「デザートいる?」
上から降ってきたのは瀬呂くんの声だった。後ろから私の顔を覗きこんだ彼に騒がしかったみんなが一斉に黙る。
「え、いる。もしかして砂糖くんお手製?」
「そ、プリン。なくなりそうだったからみょうじの分取っといたわ。」
「嬉しい!ありがとう。」
瀬呂くんの手からありがたくプリンを頂戴して机に置く。予想外の甘いものにルンルン気分になってると、急に頭にのせられてた手が頬にするりと下りた。瀬呂くんの温かさがじんわりそこに広がっていく。
「え、と。」
「ほっぺまだ冷たいじゃん。ちゃんと温まりなさいよ?」
「りょ、了解です……。」
それだけ確認すると瀬呂くんはさっさと別のテーブルに戻っていった。顔にちょっと触れられただけってわかってても、キスされた時のことが浮かんできてしまって一気に体温が上がる。なんか寒いのどっか行ったかもしれない。
「な、一番強い敵は他にいんだよ。」
上鳴くんの声にハッと意識が引き戻される。そういや談笑の途中でしたねなんて。みんなの何とも言えない顔を見て口許が引きつった。今の見られてたのかなり恥ずかしい。
「俺、自信なくなってきた……。」
項垂れる円場くんに無言の回原くん。恥ずかしさのあまりみんなの声はうまく耳に届かなかった。なぜか少しだけ沈んでしまった空気を誤魔化すようにプリンを一口放り込み、瀬呂くんにもらった甘さを噛みしめた。
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