仮免試験
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控え室が完全に展開され、私たちは災害現場へと駆け出す。神野を模した壊滅状態のステージ。予想以上にひどい有様だ。これが実際起こった事件を元に作られたなんて、信じたくない。けれど現実は受け止めなくちゃ。私はあの場所に立っていた当事者だ。目を背けることはできない。胸が痛みながらもとにかく建物の倒壊が激しそうなところに急いだ。
「助けてくれー!」
救助を求める声が聞こえてきたのは都市部ゾーン。すぐに声の方に向かうとおじいさんが瓦礫に挟まっている。そばにはすでに何人か受験者がいた。
「もう大丈夫です、すぐに助けますよ!」
「ああ、雄英の!よかった、瓦礫が上手く上がらないんだ。」
「空気で押し上げて瓦礫をどかします。人が入れるくらいのスペース確保するので安全に運ぶのお願いします。」
「了解!」
周りの瓦礫が崩れてこないようかなり広範囲に空気操作する。おじいさんを覆っていた瓦礫は風でふわりと上に上がり、周りの空気を圧縮させてそれを固定する。近くが倒壊する心配もなさそうだし人が入れるスペースも確保できた。他校の人が素早くおじいさんを助け出し体調や怪我の具合を確認する。
「救護所は控え室で!」
「だいぶ広いぞ!一時救出場を設定しよう!」
「トリアージはとりあえず私やります!」
周りの人たちの連携が鮮やかで救護室の場所やそれぞれの役割が素早く決まっていく。さすが先輩だ、経験の数が違う。おじいさんは軽傷だったようで他校の人が運んでくれた。私も負けてられない。すぐに別の場所へと向かい助けを求める人がいないか注意深く確認する。
「この奥‼女の子が一人いる!」
「承知です!」
再び風で周囲の瓦礫をどかす。小さな女の子が一人震えながら泣いていた。幸いこの辺は広いスペースが確保されていたため、瓦礫をそのままそこに移動させることができ、私自ら女の子に駆け寄ることができた。
「もう大丈夫だよ。痛いところある?」
「足、立てない……。」
「足だね。よく頑張った、お姉さんがすぐに安全な場所に運んで痛くないようにするからね。他に血が出てたり痛いところはない?」
「平気……。」
「強いね!抱っこするから掴まっててね。」
横抱きにしてその場から救出。近くにいた先輩に女の子の足を固定してもらった。折れてるかもしれないから、なるべく動かさずに空中へと上がる。
「このままこの子運びます!」
「よろしく!この辺はもう救助者いなさそうだから私たちも他行くよ!」
「はい、ありがとうございます!」
ふわりと高く上がれば女の子は目を輝かせた。あまり子供に見せたい光景ではなかったけど、結果オーライだ。自分の体が浮いてるということに夢中になっている女の子が周囲の惨状に気づかないよう、何度も話しかけて私の顔に集中してもらう。
「すごい……!鳥さんみたい!」
「ふふ、喜んでもらえてよかった。すぐに救護所行くから、もう少しだけ我慢できるかな?」
「うん!」
空中から素早く状況を把握する。すぐに近くの救護所を見つけなるべくゆっくり着地した。
「すみません、この子右足怪我していて折れてるかもしれません。脈拍呼吸共に正常で、受け答えもしっかりしてます。」
「ありがとう!あとは私が見ておくわ!」
「はい!」
恐らく治癒系の個性の人に女の子の状態を伝え引き渡す。その人は即座に具合を見て休めるスペースへと移動させてくれた。私は女の子に笑顔で手を振り、再び踵を返す。次はどこに行こう。手が足りてなさそうなのはあっちの方かな。
近くのビル群に行こうとすると突然の爆発。救護所まで爆風が届き土煙が舞った。
「なに……!?」
驚いて爆発の方を見るとそこにはギャングオルカさん。他にもたくさんの武装した人たち。そうかなるほど。これはテロを想定した演習。この場にはもちろん敵もいるってわけだ。
『敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ救助を続行してください。』
アナウンスが響く。高い壁ぶつけてくれるなあ。まさにプルスウルトラ。とにかくあまりに敵が救護所に近い。広範囲制圧なら役に立てるしギャングオルカさんの方に向かおう。
「足止めしとくので救護者の退避よろしくお願いします!」
「了解!」
救護所に声をかけて敵の元へと急ぐ。一気に動きを封じるために風を出そうとすると後ろから声が聞こえてきた。
「どけ!地面割る!」
真堂さんだ。確かに彼も広範範囲攻撃が得意なはず。地面を割れば敵が救護所に行くのを防げるし連携も分断できる。一石二鳥だ。攻撃の邪魔にならないよう空中へと上がる。
バキバキと敵の足場が割れていく。うまい。これで少しは時間が稼げたはずだ。それにしても真堂さんキャラ変わりすぎ。どけって言われたんだけど。
「ありがとうございます!」
「借り返すって言ったからな。」
とにかくお礼を言って私も加勢に入る。分断された敵を広範囲の風で抑えつけ、さらに行く手を阻む。これで何とか救護者の避難完了まで凌げればいい。
「温い。」
「真堂さん!」
攻撃が決まったとほっとしたのも束の間。地面を割って動きを封じたはずのギャングオルカさんはなぜかすでに真堂さんの目の前にいた。風の威力は強力だし他の敵は倒れてくれてるのに、ギャングオルカさんだけはびくともしてない。なんで普通に動けてるの。焦る暇もなく超音波アタックで反撃される。間近で浴びてしまった真堂さんが倒れたのが見えた。
「この実力差で殿一人……?なめられたものだ……!」
ギャングオルカさん、ガチだ。役への入り込み具合に顔が引きつる。飯田くんタイプだったのか。敵として対峙してる今は恐怖でしかない。
滑空して急いで真堂さんの服を掴みギャングオルカさんから引き離す。それとちょうど同じタイミングで横から氷壁が繰り出された。焦凍くんだ。
「真堂さん、いったんここに下ろします。」
瓦礫をどけて真堂さんを寝かせる。すぐに救護所に行ける状況じゃないので申し訳ないけど、不安定な場所じゃないので勘弁してもらいたい。後でちゃんと謝ろう。
急いで焦凍くんのところまで戻り加勢に入る。先ほど彼が繰り出した氷結はギャングオルカさんに砕かれていた。サイドキックの人たちには効いてる。何人かは足止め出来たようだ。
「氷結避けられた。この後はなまえと連携して炎で制圧する。」
「わかった。」
簡単に状況説明を受ける。私の風で焦凍くんの炎の威力も上がるだろうし、このまま二人で攻撃を続けられれば何とかなるだろう。腕を構えるとどこからか聞こえる叫び声。
「ふうきイイイイイ飛べえええっっ!!!」
氷壁で混乱している敵に別方向からすごい威力の風が飛んできた。もちろん私のじゃない。
「敵乱入とか!!!なかなか熱い展開にしてくれるじゃないっスか‼」
現れたのは夜嵐くん。彼ほどの戦力が増えるのは万々歳だ。心強いことこの上ない。このメンツじゃなければ。
お互いを認識した瞬間ちょっとムッとする焦凍くんと夜嵐くん。最悪の展開かもしれない。いやでも、さすがに大丈夫だよね?二人とも優秀だし状況わかってるだろうし。いくらなんでも試験に私情は挟まないはずだ。
「あんたと同着とは……‼」
「おまえは救護所の避難を手伝ったらどうだ。こっちにはなまえもいる。俺たち二人で手は足りる。」
いや全然大丈夫じゃない。目の前にギャングオルカさんがいるのに険悪ムードは最高潮だ。連携も何もないまま二人がそれぞれの攻撃を放つ。焦凍くんの炎と夜嵐くんの風。それらはお互いの攻撃で相殺され敵には当たらなかった。慌てて私が風を放ち敵を近づけさせないようにする。
「何で炎だ‼熱で風が浮くんだよ‼」
「さっき氷結を防がれたからだ。俺の炎だって風で飛ばされた。なまえだったらこんなことにはなってない。」
「ちょっと二人ともやめて。」
言い合いが始まってしまった。その間も敵は待ってくれないので半放射状に直線の風を放つ。本丸のギャングオルカさんにはノーダメージだけど他の敵には有効だ。一応これ、風車っていう新技なんだけど。なんか技名叫べる雰囲気でもない。
「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「は?誰がそんなことするかよ。」
「するね!だってあんたはあの、エンデヴァーの息子だ。」
うわ、逆鱗。夜嵐くんがエンデヴァーさんの名前を出してしまったことで明らかに不機嫌オーラが漏れてる焦凍くん。
「さっき……から何なんだよ、おまえ。親父は関係ね、えっ!」
「焦凍くん!」
敵から放たれるセメントガン。直前で焦凍くんとの間に風を放って直撃を避ける。いやほんとに敵の数も多いし喧嘩してる場合じゃないんだって。
いつもは冷静なはずの焦凍くんが完全にペース乱されてる。エンデヴァーさんのこと指摘されてるから仕方ないのかもしれないけど、このまま連携ぐずぐずだとまずい。ギャングオルカさんたちも二人に呆れてしまってる。
次々と繰り出される敵からのセメントガン。旋風で一気に掬い上げて空中へと飛び、今度は逆風で下に降ろす。よかった。何人かには当たってくれたらしい。身動きが取れなくなった敵が地面に見える。
「関係あるんだなこれが!ヒーローってのは俺にとって熱さだ!熱い心が人に希望とか感動を与える‼伝える‼だからショックだった‼そして入試の時あんたを見て、あんたが誰かすぐにわかった。なにせあんたは全く同じ目をしてた。」
「同じだと……。ふざけんなよ。俺はあいつじゃねえ。」
着地してもまだ喧嘩してる。これはちょっと私もため息出ちゃうなあ。制圧し損ねた人たちからもセメントガンが絶えず繰り出されていて予断を許さない状況だ。まだ救護所の人たちも退避しきれてないし、後ろ気にしつつ足止め続けないと。
「二人とも今はちゃんと集中して!」
「俺はあんたら親子のヒーローだけはどーにも認めらんないんスよォ―――!」
「夜嵐くんも煽んないで!」
あんまり私の声は届いてないっぽい。二人がまた作戦なしに攻撃を放つ。私も加勢したいけど周りが見えなくなってしまっている二人の攻撃がどう動くか予想できなくて手が出せない。
案の定夜嵐くんの風と焦凍くんの炎がまたぶつかって、それぞれ別の方向に飛んでいく。炎の向かった先にいるのは真堂さん。やばい当たる。
「また‼やっぱりあんたは……」
「いい加減にして‼」
炎を掬いとるように旋風を起こしてすんでのところで軌道を変える。その隙に緑谷くんが飛び出してきてくれた。
「何をしてんだよ!!!」
彼もやっぱり怒ってる。当然だ。そのまま真堂さんを掴んで安全な位置へと運んでくれた。緑谷くんがいなかったらかなり危なかった。強力な味方のはずの二人がどんどん状況を悪化させている。
「とりあえず、邪魔な風だ。」
ギャングオルカさんの超音波がこちらに飛んでくる。咄嗟に強めの風力で相殺。すると彼はすぐに焦点を変え、今度は夜嵐くんを超音波が襲った。いつもなら避けられるだろう彼がセメントガンに阻まれて攻撃を食らってしまう。コントロールを失った夜嵐くんは地面へと落下していく。ギャングオルカさんにロックオンされてる焦凍くんも気になるけどとりあえずこっち優先。夜嵐くんの着地地点に空気を滑り込ませ落下を防ぐ。なんとか衝撃なく着地できたみたいだけど、超音波アタックのせいでうまく体が動かないようだった。
焦凍くんの方を見ると彼も超音波を浴びている最中。さらに二人が動きを封じられてるうちに救護所の方に向かおうと残りの敵が走り始める。どうしよう。一気に色んなことが起きていて一瞬判断を迷う。
それでもやっぱり一般市民優先。さっきの緑谷くんの怒号が彼らに届いたかなんてわからないけど、今は信じるしかなかった。
「任せられるよね!?」
「ああ……行け。」
それだけ聞くと焦凍くんから返ってきたのは短い了解。よかった、二人ともまだちゃんと戦う意思がある。
急いで空中へ飛んで敵を先回り。上から下に向けて風を放って動きを止める。それでもさすがに突破する人は出てきてしまい、何人かがすり抜けた。どうしよう、今この手を離すわけにもいかないし。打開策がないか考えていると下で地面が割れるのが見えた。
真堂さん。ギャングオルカにやられて動けなかったはずの彼がさらに広範囲に個性を使っている。さすが先輩。今度は私が借りを返さなきゃいけないくらいだ。とにかくこれで十分足止めは出来ただろう。本格的に制圧に入る。
緑谷くんが敵の元に走っていくのが見えたので私も一度着地して彼に加わる。
「緑谷くん一緒にやろ!」
「みょうじさん!足止め助かったよ!」
ほとんど真堂さんの力だと思う。けどそれ以上しゃべってる余裕もなくて、次々来る敵に直線状の風を放ち確実に倒していく。どれくらいの威力でやったら気絶するのかの瀬戸際を、こんな形で学ぶことになるとは思わなかった。
セメントガン、厄介だな。打ち込もうとしてくる敵に風を放とうとしたら、敵の後ろから伸びた尻尾。
「尾白くん!」
彼は尻尾で敵の腕を操作して敵サイドにセメントガンを放った。自分たちのセメントガンにやられた敵が次々に倒れる。相手の攻撃を利用した動き、すごい。
「ありがとう!」
「怪我人の避難済んだって!すぐに何人か加勢来るよ!」
その言葉通り続々と味方がやってきた。常闇くんに三奈ちゃん、他校の人も来てくれてる。梅雨ちゃんも新技披露。保護色で敵の隙をついて攻撃していた。カエルっぽいって言ってたのこれか。士傑の人まで加勢に来てくれてかなり人手が集まっている。
攻撃を続けながら緑谷くんを見ると、彼の視線の先には渦巻く炎。焦凍くんと夜嵐くんがギャングオルカさんを閉じ込めてると思われる火柱だ。ギャングオルカさんは確か個性的に乾燥に弱い。そこをついたんだろうけど如何せん炎の中の様子がわからない。緑谷くんも心配そうだ。
「行って来て。」
「え。」
「こっちは手足りてる、このままなんとかなるよ。だから二人のとこ行ってあげて!」
「……ありがとう!」
背中を押すと駆け出していく緑谷くん。よかった、考えてること当たってた。二人のことは彼に任せよう。私ももうひと踏ん張りだ。わざと敵の方に飛び込んでいき、四方を囲まれたところで放射状に風を放つ。
「風車。」
今度こそ必殺技言えた。ちょっと気恥ずかしいけど、綺麗に攻撃が当たってくれたので良し。後ろから迫ってきた敵にもう一度風を放とうと腕を構える。
『ビ――――‼』
急に大きな音。目良さんのアナウンスが響いた。
『えー只今をもちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますがこれにて仮免試験全工程、終了となります!!!』
敵の動きが止まって急に肩の力が抜ける。みんなも拘束していた敵役の人たちを解放していき、その光景を見ながら試験が終わったことを実感した。なんか後半は体力以上に気力を消耗した気がする。上空を見上げながらふうと一つ息を吐いた。