合同訓練
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『第1セットA、第2セットB、第3セットドロー、第4セットA、第5セットA!よって今回の対抗戦!A組の勝利です!!!』
ミッドナイト先生の結果発表にA組がわっと声を上げる。私としては結局投獄されちゃったから素直に喜べないんだけど、みんなの嬉しそうな顔を見たらちょっと頬が緩んでしまった。
講評の時間になって一か所に集められる。最初に消太くんが切り出したのは当然の疑問だった。
「えー、とりあえず緑谷。何なんだおまえ。」
いやまあ、そうなるよね。新技にしては超パワーとかけ離れすぎてるとみんなからも指摘が入る。個性二個持ちなんてそうそういるはずないし今回のは明らかにおかしかった。きっと周りも違和感に気づき始めてるはず。やっぱり授業中に暴発したのはまずかったなあ。いっぱい人がいたからこそ緑谷くんが助かったのもあるんだけど。
「僕にも……まだハッキリわからないです。力が溢れて抑えられなかった。今まで信じてきたものが突然牙を剝いたみたいで僕自身すごく恐かった。」
取り繕うわけにもいかず緑谷くんはそのまま答えた。彼はお茶子ちゃんと心操くんが助けてくれたおかげであの黒い鞭が自分の敵じゃないと認識することができ、力を抑えることができたのだそうだ。緑谷くんが二人にお礼を言い、ミッドナイト先生も彼女たちの行動を褒めた。あの時の二人本当にすごかったもんなあ。パニックにならずに目の前のことに迅速に対処できるの見習いたい。
「麗日びゅーんってすぐ飛んでったもんねえ。はやかったもんねえ。ガッと抱きついたもんねえ!」
三奈ちゃんがニヤニヤしながらお茶子ちゃんの顔を覗く。これは多分労いだけじゃないな。恋の波動を感じてからかいが入ってるやつだ。案の定お茶子ちゃんも緑谷くんも真っ赤になってる。可愛い。
「考えなしに飛び出しちゃったのでもうちょい冷静にならんといかんでした……。でも……何もできなくて後悔するよりは良かったかな。」
お茶子ちゃんの言葉は私の胸にずしんと響いた。ナイトアイさんを亡くしたあの日、救けたいと言って泣いていた彼女を思い出す。みんな後悔や葛藤を抱えながらもちゃんと次に進んでるんだ。消太くんも「いい成長をしている」と彼女を褒めた。
「……俺は別に緑谷の為だけじゃないです。」
緑谷くんの隣にいた心操くんが気まずそうに呟く。
「麗日に指示されて動いただけで。ていうか……柳さんたちも黒いのに襲われてるのが見えた。あれが収まんなかったらどのみちこっちの負けは濃厚だった。俺は緑谷と戦って勝ちたかったから止めました。偶々そうなっただけで俺の心は自分の事だけで精一杯でした。」
俯く彼には申し訳ないけどどこまでも向上心の塊だなあって感心してしまった。結果的に友達助けられてるしチーム守るために動けてるから気にしなくていいと思うけどなあ。そうやって自分のことで精一杯だったって後悔してる時点でもう反省できてるし次にも活かせる。
生真面目な彼の顔をぼんやり眺めてたら消太くんがツカツカと心操くんに近づいていく。目の前で止まったかと思えば突然心操くんが身に着けてる捕縛布をぎゅっと掴んで首を絞めた。いや何してるの。
「暴力だ――‼PTA!PTA‼」
これにはみんなもびっくりで途端に暴動がおこる。心操くんを守るためにみんなが声を上げてくれたのが、なんだか彼が認められたみたいで嬉しかった。
「誰もおまえにそこまで求めてないよ。ここにいる皆誰かを救えるヒーローになる為の訓練を日々積んでるんだ。いきなりそこまで到達したらそれこそオールマイト級の天才だ。人の為に、その思いばかり先行しても人は救えない。自分一人でどうにかする力が無ければ他人なんて守れない。その点で言えばおまえの動きは充分及第点だった。」
消太くんが珍しくストレートに褒めるものだから心操くんも驚いてる。私は彼の言葉を聞きながら、なぜだか朧くんのことを思い出していた。自分一人でどうにかする力が無ければ他人なんて守れない。きっとこの場にいる誰もが胸に刻んでおかなければならない教えだ。
緑谷くんも消太くんに続いて今日の心操くんの動きを称賛していた。乱戦に誘って自分の得意な戦い方に持っていこうとしたこと。パイプ落下での足止め。捕縛布の使い方。ヒーロー科が彼を活かしたんじゃない。ちゃんと彼は自分の力で戦力になっていた。そしてその実力は彼自身が努力で掴み取ったものだ。今日それが十分に発揮できてる姿を見て、私も心動かされた。
「これから改めて審査に入るが、恐らく……いや十中八九!心操は2年からヒーロー科に入ってくる。おまえら中途に張り合われてんじゃないぞ。」
ブラド先生からの嬉しい報告ににみんながABどっち!?と詰め寄る。私は改めて彼の努力が報われるのを感じてじんわり涙が滲んだ。まだどうなるかはわからないらしいけど、同じクラスになれたらいいな。
「フフ……今回は確かに僕らB組にクロ星がついた。しかし‼内容に於いては決して負けてはいなかった!緑谷くんの個性がスカだとわかればそれに応じた策を練れる!つまりだよ!?今からもう一回やれば次はわからない‼」
「やんねえよ、もう今日の授業は終わりだ。」
あ、ブラド先生にも普通にツッコまれる感じなんだ物間くん。彼もなかなかめげないなあと衰えぬバイタリティに笑ってしまう。引き分けだったし私も再戦したい気持ちはあるけどね。
「ああそうだ。話のついでで悪いが物間、ちょっと明日エリちゃんのとこ来い。」
消太くんが物間くんに意外なお誘いをしてて首を傾げた。何だろう。もしかして彼のコピーをエリちゃんに使ってみるんだろうか。確かにそれは名案かもしれない。スカの可能性ももちろんあるけど試してみるに越したことはない。成功すれば色々好転するだろうし。唯一心配なのは雄英の負の面として認識されてる彼がエリちゃんの心を開けるかってところだ。不安すぎるから私も様子見に行ってみよう。
そのあとも物間くんは絶好調にうるさかったけど何とか解散になった。私は今日のMVPとも言える彼の側にそっと近づく。
「かっこよかったね。」
「どこが。まだまだだろ。」
後ろから声をかけると振り向いた彼は私の顔を見て紫色の瞳を歪めた。相変わらず自分に厳しいなあ。
「いやでも捕縛布も訓練の時より使い方上手くなってなかった?めちゃくちゃ戦力になってて震えたもん。」
「褒め過ぎ。まあ実践でしか学べないこと色々あるなってわかったからいい収穫だったけど。初めてヒーロー科でのみょうじも見られたし。」
「う、私も投獄されちゃったからいいとこなかったね……。」
恥ずかしいとこ見せちゃったなと今日の自分を反省する。やっぱりちょっとした油断が命取りになっちゃうからなあ。同学年っていっても敵として戦ってる以上は容赦なくいくべきだった。
「俺にとっては充分超えるべき壁だと思ったよ。周り気にしながら勝ちにこだわるのとかさすがだったし。」
「うう、そう言ってもらえるとありがたい。精進します……。」
早速放課後反省会も兼ねて相手してほしいって頼まれたけど、どうしても外せない先約があったのでごめんと頭を下げた。代わりに予定の入ってなかった明日に約束を取りつける。
「来年からよろしくね。」
別れ際に同じクラスになれるようにと願いを込めてそう零せば彼の頬もふっと緩んだ。ああ、と短い返事を聞いて手を振る。
今日の訓練楽しかったなあ。なんかはしゃいじゃったかも。何より彼の戦う姿が見られてよかった。更衣室に向かいながら、まだ見ぬ心操くんとの学生生活に思いを馳せていた。