合同訓練
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結局3試合目で怪我がなかったのは私・障子くん・角取さん・回原くんの四人だけ。引き分けと言っても怪我人の数考えると私たちの負けだなあ。
保健室に運ばれる5人を見送ったあとキョロキョロとB組二人の姿を探している。モヤモヤした気持ちのままだときっとこの後の試合観戦に身が入らない。それに訓練で仕方なかったとはいえ二人のことを傷つけてしまったかもしれない。4試合目が始まる前にちゃんと謝らないと。待機場所の隅で反省会をしている姿が目に留まり、私は早速彼女たちの元に走った。
「角取さん、回原くん。」
「みょうじサン、どうシましたカ?」
にこやかに振り向いてくれた角取さんと気まずそうな回原くん。うーん、投獄した人とされた人でやっぱりお互い顔合わせづらいよね。角取さんは全然気にしてないみたいだけど。
「あの、どこも痛くない?訓練とはいえ女の子の顔に攻撃しちゃって……あ、角!私粉砕しちゃって!取り返しのつかないことしたんじゃないかと……!」
さっきは余裕がなくて考えるの後回しにしちゃってたけど、改めて自分のしでかしてしまったことの大きさを思い出して震える。本当に私のせいで個性半減しちゃってたらどうしよう。一生かけて償わなきゃ。
「落ち着イてくダサイ。大丈ブです!コレすぐ生えマス!」
その返事を聞いてほっと胸を撫でおろす。よかった。いや顔面攻撃しちゃったのは変わらないしよくはないけど。とにかくパッと見怪我もないみたいで一安心だ。
「本当にごめんなさい。回原くんも……。」
深々と頭を下げてちらりと彼の方を見れば困ったように眉を下げていた。罪悪感で胸が痛い。彼にもしっかり謝っておこうと口を開きかけてはたと気づく。なんて言って謝るの?
何となく彼が私に好意を持ってくれてるんじゃないかと勝手に思ってしまっていたけど、そんなの私の都合のいい解釈でしかない。それにたとえそれが事実だったとして、意中の相手に「あなたの気持ちを利用してしまってごめんなさい」なんて謝られて良い気分になるものだろうか。いや絶対ならないよね。相手に気持ちがばれてるって気づいて恥ずかしさも気まずさも増すだけだ。あと多分余計に傷つける。
「結構強く拘束してたけど怪我無かった?」
やっぱりこのごめんねは心に閉まっておいた方がいい。彼に言おうとしていた謝罪を飲み込んで別の言葉を投げかけた。すると回原くんはほっとしたように息を吐いてさっきよりいくらか明るい表情を見せてくれた。うん、やっぱり言わなくてよかった。
「俺は平気。みょうじさんは相変わらず機転利いてすげェな。」
「いやいや。骨抜くんと角取さんの方が断然すごかったよ。私せっかく後から参加したのに全然それ活かせなかったもん。」
これは謙遜とかではなく率直な感想。あと上手く立ち回れなかった自分の反省。しょんぼり肩を落としていると急に角取さんに抱き着かれた。びっくりして後ろに倒れかけたけど何とか踏み止まる。彼女の大きな瞳が私をしっかり捉えていた。
「NO!みょうじサンとてもvery強かったデス!コチラこそ最後騙してシマってスミマセンでしタ!」
「あはは、あれは油断した私の問題だよ。」
気絶したフリをしていた時のことを言ってるんだろう。完全に私のミスなのに優しいなあ。角取さんは悪くないと首を横に振れば彼女はぷっくりと頬を膨らませた。可愛い。
「まあお互い全力出した結果だしさ、反省はしても謝んのとかはなしにしようぜ。おあいこってことで。」
見兼ねた回原くんが間に入ってくれた。彼の言葉にそれもそうだなと思い直して素直に頷く。本当にB組強かったなあ。反省点いっぱいだしまだまだ課題は山積みだ。
二人の懐の深さのおかげで無事モヤモヤも晴れて和やかな空気になってると、第4セット開始の実況が響いた。この試合は瀬呂くん・爆豪くん・響香・砂糖くんのA組チーム対泡瀬くん・取蔭さん・凡戸くん・鎌切くんのB組チーム。物間くんがこの試合を楽しみにしてたと不穏な笑いを見せてたけど大丈夫だろうか。何が待ち受けてるのかちょっと怖い。
『さて第4セット‼A-B共に1勝1分け!現在両者互角のように思えるがぁあ!?しかしA組の1勝はほぼ心操のおかげ‼果たして互角と呼べるのか!?』
「酷い言い方だぜブラド先生‼」
偏向実況が極まってきていてA組のみんなが不満を零す。先の試合で投獄されてしまった上鳴くん・青山くん・常闇くん・切島くんの四人がブーイングに立ち上がったのを遠目で見てたら消太くんの注意が入った。B組の方がより深く対策を講じている事実を突きつけられれば四人は何も言えなくなってしまう。
「ごめんな。ブラキン先生普段あんな感じじゃねえんだけど。」
「ふふ、あんな愉快なブラド先生初めて見た。B組のみんなのこと大好きなんだね。」
「……そうらしいな。」
隣の回原くんが申し訳なさそうに声をかけてくれた。先生の言ってること正しいし私としては全然気にしてないんだけど。気遣ってくれるあたりとても優しい。ブラド先生の意外な一面が見られてちょっと得した気分だと告げればポジティブだなって笑われてしまった。
モニターに視線を移せば試合はすでに始まっていて、みんな相手を探して移動中。爆豪くんが先頭切って進みながら遅いと後ろにキレてる。彼の成長も著しいはずなのに口の悪さは変わんないなあ。
爆豪くんが誰かを見つけて四人の動きが止まる。すぐに響香がイヤホンジャックで周りの音を確認するけどどうやら彼女の個性を逆手に取られたらしい。
『ハイしゅーりょー。』
宙に浮いていたのは口の部分だけ。爆豪くんが咄嗟に拳を入れるけど避けられてしまった。取蔭さんの個性、トカゲのしっぽ切り。全身を50分割に切り離して行動できるらしい。
あまりに音が多すぎて響香も場所を特定できなかったみたい。切り離されたたくさんの体のパーツが一気に爆豪くんに襲い掛かってくる。的が小さくて彼もなかなか反撃できず、されるがままになってしまっている。
瀬呂くんがテープで素早く自分たちの周りを囲ってバリケードをつくる。これは多分取蔭さんのパーツ対策だ。これなら彼女の体の一部が襲ってきてもテープに引っつくから動きが止められる。瀬呂くんはバリケードの中に避難するよう爆豪くんに呼びかけるけど、彼が攻撃から逃れる前に上からどろどろとしたものが降ってきた。
『やっべハメられた!』
凡戸くんの接着剤が辺り一面に広がってA組チームのみんなも思いっきり被ってしまった。急いでその場所から離れようとすれば今度は鎌切くんが切り落とした大きなパイプが落ちてくる。砂糖くんが瀬呂くんと響香を守ろうとそれに手を伸ばしたけど、触ってしまえば接着剤でくっついて身動き取れなくなるはずだ。ここで肉体派の彼を失ってしまうのは痛い。
「!」
絶体絶命って思った瞬間、ボーンというすごい音と共に爆破がパイプを跳ね除けた。爆豪くんだ。彼が取蔭さんの攻撃を受けながら三人を助けたんだ。さすがの戦闘センス。だけど爆破はボンドもパイプも取り払ってしまった。遮蔽物がなくなった今A組チームは格好の餌食。この機を逃すまいと鎌切くんが響香に向かっていくのが見えた。
『まず一番めんどい耳郎から。』
取蔭さんの言葉に思わず頷く。確かにこのチーム攻略するならそれが定石だよね。敵として戦うなら索敵も広範囲戦闘もできる響香はかなり厄介。だから1番に潰して戦力を減らしつつ連携を断つ、っていうのが彼女たちの理想なんだろう。
でもそれは、多分予測不足だ。だって爆豪くんは意外とA組のこと好きだから。
予想通り響香のピンチにいち早く気づいた爆豪くんは、すぐに体の向きを変えて鎌切くんと響香の間に入った。彼女の背中を蹴って距離を取らせつつ鎌切くんに爆破を決め込む。
「あっれえ僕の目が変なのかなァ?彼耳郎さんを庇ったように見えたなァ。」
彼の行動はB組にとってかなり衝撃的だったようで物間くんがこれでもかと首を傾げてる。もげちゃうよ。
「庇ってたな!足蹴で!」
「庇い方はかなり乱暴だよね。」
上鳴くんと一緒に苦笑すれば切島くんも物間くんの肩を叩いて彼を励ましていた。
「物間!大丈夫だ!あいつは意外とそういう奴だ!目変じゃないよ!」
物間くんが気にしてるのそこじゃないと思うよ。相変わらず天然さんな切島くんにほっこりする。すると彼の発言が気に入らなかったのか物間くんが今日一くらいの大声を上げた。
「キャラを変えたっていうのか‼」
「……うんまァ、身を挺すようなわかりやしーのは確かに初めてみるかもな!」
「爆豪くん結構ずっとあんな感じだけどね。」
口の悪さと粗野な行動で隠れてはいるけど、爆豪くんはいつでも優しいし意外とクラスメイト思いなところがある。これはずっと一緒に過ごしてないと予測できないだろうなあ。
爆破から逃れた鎌切くんを爆豪くんが追いかける。さっき結構至近距離で撃たれてたと思ったけどあれ避けたんだ。すごいな鎌切くん。いつの間にかB組チームは散り散りになっていて、状況は振出しに戻っていた。
『うっさ……全体的に遠ざかってるよ!邪魔されて捉え辛いけど……でも数減ってる!集中すれば聞き分けられそ!』
『減ってんの?』
相変わらず取蔭さんのパーツが脅威になってるらしく顔を顰める響香。だけど彼女の状況説明を聞いて瀬呂くんは何かを思いついたようだった。何だろう。
響香が言ってたことを思い出してみる。音の数が減ってる。つまり取蔭さんのパーツがさっきより少なくなってるってことだ。
彼女のパーツは確か一定時間で動かなくなって欠けた部分が再生される仕組み。でも再生って言っても恐らく永遠に続けられるわけじゃない。自分のエネルギーを使って再生させるんだから絶対に体力は消耗する。響香のかく乱を狙ってたくさん音を出すために目一杯分割してるのなら、さっき予想外に試合が仕切り直しになったのはなかなか痛手だろう。
全部のパーツ再生させて体力消耗させるより、いくつかのパーツをそのまま体に戻して時間リセットさせた方が絶対彼女も長く戦える。音が減ってるっていうのは多分彼女本体にパーツを戻してる最中だからなんだろう。ってモニター越しに俯瞰して見てたら気づけるけど、あの場で咄嗟に考えつくかと問われればかなり微妙だ。もし彼が気づいてるんだとしたらやっぱり瀬呂くんすごい。
爆豪くんが泡瀬くんの姿を見つけて爆破で移動しながら迷わず突っ込んでいく。すると泡瀬くんも飛び出してきて瞬時に爆豪くんの体を近くの柱に着工した。彼の身動きを取れなくさせておいてすぐにA組チームと距離を取るように逃げていく泡瀬くん。後から追いついた瀬呂くんのテープが彼の背中めがけて飛んでいったけど残念ながら当たらなかった。
あれ、でも泡瀬くんを捕らえるつもりで出したにしてはテープの動き緩かったな。これってもしかして。
張りつけられてる爆豪くんの後ろから砂糖くんがシュガーラッシュを繰り出して拘束を解く。すぐに爆豪くんは両手で爆破を起こし泡瀬くんに追いついた。彼も応戦しようと爆豪くんの方に向き直ったけど、爆豪くんはその頭上を飛び越えた。
『任せるぞ!』
派手な爆破を続けて移動してた理由。それは泡瀬くんの視界を遮るためだった。炎が途切れた向こう側から現れたのは響香を抱えた瀬呂くん。テープでしっかりパイプに掴まってる。やっぱりあれは泡瀬くんを捕らえようとしたんじゃなかった。先を見越してのチームプレー。
「任、」
「された!」
二人が爆豪くんに応え響香のハートビートサラウンドがさく裂する。至近距離での音の衝撃波に泡瀬くんはひとたまりもなかった。
その間に爆豪くんは凡戸くんの姿を捕捉し、ようやく温まってきた腕で威力増し増しの爆破を撃った。冬だと汗出にくいもんね。凡戸くんが行動不能になったところを砂糖くんが力で抑えて確保する。あっという間に二人投獄だ。
「協調性皆無の暴君だったろ……!?丸くなったどころじゃないぞ‼」
悔しそうに歯噛みする物間くんをまあまあと落ち着かせる。爆豪くんB組の中で極悪人みたいなイメージ持たれててちょっと笑っちゃうなあ。でも今回はそう思い込んでくれてたことがいい形で作用してる。
「耳郎ちゃんたちも信用してるから任せられるんだ。」
「バンド効果だねえ。」
お茶子ちゃんと一緒にモニターを見ながらにんまり顔。文化祭で築いた信頼関係が戦闘でも活きてる。全部が無駄じゃないんだなって改めて勉強になったかも。
爆豪くんは凡戸くんを爆破したあとすぐ鎌切くんに追いついた。彼の首根っこを掴んでそのままぐるぐる爆風と共に放り投げる。うわ痛そう。壁にめり込む鎌切くんに思わず心の中でごめんなさいと唱えた。
その瞬間別の場所で爆発音が聞こえた。音の近くにいたのは取蔭さん。どうやら彼女がパーツの一部分を自分の体に戻すと見越してテープで爆弾をくっつけていたようだ。爆破が聞こえれば彼女の位置も特定できるしうまくいけば攻撃にもなる。多分これは瀬呂くんの作戦。彼の洞察力はやっぱり目を瞠るものがある。
なんとかその爆破を避けた取蔭さんの目の前に待ち受けていたのは絶好調の爆豪くん。女の子相手にも容赦なくゼロ距離閃光弾を撃ち放ち、目くらましと爆破を同時に受けた彼女はそのまま地面に倒れ込んだ。
『わずか5分足らず……‼思わぬチームワークでA組、4-0の勝利だ!』